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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第四十三話 営業課長、王国一の商人と勝負する


夏の日差しが王都の石畳を照らしていた。


送風具の人気は衰えるどころか、日に日に高まっている。


「認証付きはありますか?」


「はい、本日入荷しております!」


「二台ください!」


王都中の魔道具店が活気にあふれていた。


そんな中、学院へ一通の招待状が届く。


王都商業会館。


『王国商業協議会へのご招待』


差出人の名前を見た教授が目を見開いた。


「まさか……。」


リディアが覗き込む。


「どうされたんですか?」


教授は静かに答えた。


「王国最大の商会――グランディア商会だ。」


「その会頭自ら、アルト君に会いたいそうだ。」


レオンが思わず声を上げる。


「王国一の商人が?」


◇


数日後。


王都商業会館。


豪華な応接室には、王国中の有力商人たちが集まっていた。


「本当に来るのか?」


「噂の天才児が?」


「二歳だと聞いたが……。」


ざわめく室内。


そこへアルトたちが案内される。


レオンは緊張で顔が硬い。


(営業時代の大口商談を思い出すな。)


アルトだけは落ち着いていた。


しばらくすると、一人の老人がゆっくり入室する。


白髪を後ろへ流し、上品な黒い礼服をまとっている。


年齢は七十歳ほど。


だが、その眼光は若い商人以上に鋭かった。


「初めまして。」


「グランディア商会会頭、レオナルドだ。」


部屋中の空気が張り詰める。


王国一の商人。


数十年にわたり王国経済を支えてきた伝説の人物だった。


◇


レオナルドはアルトを見る。


「君が送風具を考えたそうだね。」


「うん。」


「では、一つ聞こう。」


老人は一本の羽ペンを机へ置いた。


「このペン。」


「どう売る?」


部屋が静まり返る。


商人たちはニヤリと笑う。


(二歳児には無理だ。)


そんな空気が流れていた。


アルトは羽ペンを手に取る。


少し眺める。


そして尋ねた。


「だれに?」


レオナルドの眉がわずかに動く。


「ほう?」


「子ども?」


「先生?」


「役人?」


「商人?」


「使う人。」


「ちがう。」


「売り方もちがう。」


部屋の空気が変わった。


アルトは続ける。


「先生なら。」


「長く書ける。」


「役人なら。」


「早く書ける。」


「商人なら。」


「契約。」


「子どもなら。」


「きれい。」


「同じペン。」


「でも。」


「売る言葉。」


「変える。」


シーン――。


誰も言葉を発しない。


◇


レオナルドは静かに笑った。


「見事だ。」


「商品の説明ではなく、お客様の価値を語った。」


「営業の基本だ。」


アルトも心の中で笑う。


(やっぱり分かる人だ。)


営業で大切なのは商品の性能ではない。


相手が得られる未来を伝えること。


前世で何度も部下へ教えた内容だった。


◇


しかし、レオナルドはさらに続ける。


「では第二問。」


彼は二つの送風具を置いた。


一つは学院製。


もう一つは他工房の製品だった。


性能はほぼ同じ。


価格も同じ。


「どちらを売る?」


アルトは即答しなかった。


手に取る。


風量を確認する。


音を聞く。


持ちやすさも確かめる。


数分後。


アルトは顔を上げた。


「どっちも。」


商人たちがざわつく。


「どっちも?」


アルトは頷く。


「お客さん。」


「選ぶ。」


「ぼく。」


「決めない。」


レオナルドは目を細めた。


アルトは続ける。


「いいところ。」


「ちゃんと話す。」


「決めるの。」


「お客さん。」


営業は押し売りではない。


最終的に決めるのは、お客様自身だ。


信頼できる営業ほど、無理に誘導しない。


必要な情報を渡し、相手の判断を尊重する。


それが長く付き合える関係を生む。


◇


レオナルドは立ち上がると、大きく笑った。


「はっはっは!」


「負けた!」


部屋中が驚く。


王国一の商人が、自ら敗北を認めたのだ。


「私は試したつもりだった。」


「しかし、学ばされた。」


老人はアルトへ深く頭を下げる。


「君は立派な商人だ。」


アルトは慌てて首を振る。


「ちがう。」


「え?」


「営業。」


「営業課長。」


思わず口から本音が出てしまった。


一瞬、静まり返る部屋。


次の瞬間。


「ははははは!」


「営業課長とは何だ!」


「面白い子だ!」


会場は笑いに包まれた。


アルトは小さく頬をかいた。


(危ない危ない。)


◇


帰り際。


レオナルドは一枚の金色のカードを手渡した。


「これは?」


「グランディア商会の特別証だ。」


「君なら、いつでも私を訪ねてくるといい。」


「商売の話でも、人生の話でも。」


アルトは両手で受け取る。


「ありがとう。」


老人は満足そうに頷いた。


「王国の未来は明るい。」


「君のような子どもがいるのだから。」


◇


その夜。


黒い外套の男のもとへ、新たな報告が届く。


「グランディア商会まで味方につきました。」


男は静かに目を閉じる。


「予定を変更する。」


「もう様子見は終わりだ。」


机の上には、アルトの似顔絵が置かれていた。


その紙に、男はゆっくりと赤い印を付ける。


「確保せよ。」


「できれば生け捕りで。」


王国を揺るがす陰謀が、ついに動き始めた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊷


『商品を売るな。お客様が手に入れる未来を伝えろ。』


人は商品そのものを買うのではない。


その商品によって得られる便利さ、安心、喜びを買っている。


営業とは、未来を提案する仕事である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第四十四話「営業課長、初めて誘拐される」


アルトを狙う謎の組織がついに動き出す。


相手は剣でも魔法でもなく、情報と策略で獲物を追い詰めるプロ集団。


営業課長最大の危機が、静かに幕を開ける――。

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