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第四十二話 営業課長、模倣品との戦いが始まる


夏の訪れとともに、王都には送風具を持ち歩く人の姿が増えていた。


「いやぁ、これがあるだけで全然違う!」


「子どもでも使えるなんて便利だね。」


「今年一番の発明だ!」


市場では送風具が飛ぶように売れている。


しかし、その賑わいとは対照的に、王立魔法学院の研究室には重い空気が漂っていた。


「また……ですか。」


リディアが机の上に置かれた送風具を見つめる。


外見は本物とほとんど変わらない。


だが、表面は粗く、魔力回路も雑だった。


教授がため息をつく。


「今朝だけで七件。」


「『壊れた』『風が出ない』『火花が散った』という苦情が届いています。」


ガイルが驚く。


「でも、それはうちの商品じゃないんでしょう?」


「その通りです。」


教授は苦々しい表情で頷いた。


「誰かが見よう見まねで作った模倣品です。」



アルトは壊れた送風具を手に取る。


(ひどいな……。)


魔力回路は適当に繋がれ、安全装置まで省略されている。


これでは壊れて当然だった。


前世でも何度も見た。


人気商品が売れ始めると、必ず現れるコピー商品。


価格だけを武器にした粗悪品。


そして困るのは、お客様だった。


「これも同じ会社の商品?」


アルトが尋ねる。


クラウスが首を横に振った。


「違います。」


「屋台や露店で売り歩いている無許可業者です。」


「作っては姿を消すので捕まえられません。」


教授が腕を組む。


「このままでは送風具そのものの信用が失われます。」



翌日。


学院の会議室には教授陣、商人ギルド、王国特許局の担当者が集まっていた。


「模倣品は禁止されている。」


役人が説明する。


「ですが、一つ一つ摘発するには時間がかかります。」


「市場へ出回る速度のほうが速いのです。」


部屋が静まり返る。


その時だった。


アルトが小さく手を挙げた。


「しるし。」


「……しるし?」


「本物。」


「すぐ分かる。」


クラウスの目が輝く。


「なるほど!」


「本物だけに目印を付けるのか!」


アルトは頷く。


「みんな。」


「安心。」


教授も膝を叩いた。


「確かに!」


「偽物を探すより、本物を分かりやすくした方が早い!」



数日後。


送風具の持ち手には、小さな銀色のプレートが取り付けられた。


そこには王国の紋章と、


『王立魔法学院認証』


の文字が刻まれている。


さらに裏側には、一つ一つ異なる管理番号まで入れられた。


店先には新しい看板も並ぶ。


『認証店』


『学院公認販売店』


王都中に、その看板が掲げられていく。


クラウスは笑顔だった。


「これならお客様も安心して買えます。」


「信用そのものが商品の価値になります。」


アルトも満足そうに頷いた。


(ブランドはロゴじゃない。)


信用そのものだ。


営業時代、何度も教えられた言葉だった。


安いだけの商品は忘れられる。


信頼できる商品は選ばれ続ける。



数週間後。


市場の様子は一変していた。


「安い送風具あります!」


露店の男が叫ぶ。


しかし、客は立ち止まるだけだった。


「認証は?」


「番号は?」


「学院の印がないじゃない。」


誰も買わない。


男は焦り始める。


「な、なんで急に……。」


一方、公認店では。


「認証付きください!」


「一番新しい型をお願いします!」


客足は以前より増えていた。


クラウスは苦笑する。


「偽物を減らしたというより……。」


「お客様自身が本物を選ぶようになりましたね。」



その日の夜。


王都郊外の古い倉庫。


黒い外套の男が机を叩いた。


「売れないだと?」


商人が震えながら答える。


「認証制度が始まりまして……。」


「客が誰も偽物を買わないんです!」


男の目が細くなる。


「二歳の子どもが、ここまで考えるか。」


沈黙のあと、小さく笑った。


「面白い。」


「ならば次は、商品ではない。」


「本人を調べろ。」


部屋の空気が一気に冷え込む。


アルトを狙う視線は、少しずつ近づいていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊶


『ブランドとは、名前ではなく「信用」である。』


価格は真似できる。


見た目も真似できる。


しかし、お客様との信頼だけは真似できない。


最後に選ばれるのは、「安心して買える」と思ってもらえる商品である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第四十三話「営業課長、王国一の商人と勝負する」


「君の考えを試させてもらおう。」


王国最大の商会の会頭がアルトの前に現れる。


その勝負は、剣でも魔法でもない。


"商売"で決着をつけることになる――。

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