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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第四十一話 営業課長、商人ギルドにスカウトされる


王都の朝は今日も活気に満ちていた。


「送風具ありますか!」


「すみません、本日分は売り切れです!」


「次の入荷は三日後になります!」


大通りにある魔道具店では、開店直後から長蛇の列ができていた。


店員たちは額に汗を浮かべながら対応に追われている。


「こんなに売れるとは思わなかったな。」


「王城からの追加発注まで入ってるぞ。」


「地方の領主様からも問い合わせが来てる!」


送風具は、王都でちょっとした社会現象になり始めていた。


◇


その頃、アルトは王立魔法学院の研究室で新しい図面を眺めていた。


「アルト君。」


リディアが笑顔で声を掛ける。


「今日は商人ギルドの方がお見えになります。」


「しょうにん?」


「ええ。」


「送風具を全国へ流通させたいそうです。」


アルトは心の中で納得する。


(売れる商品には必ず販路が必要だ。)


営業時代、どんなに優れた商品でも、売る仕組みがなければ広まらなかった。


良い商品を作る人。


運ぶ人。


売る人。


すべてが揃って初めてビジネスは成立する。


◇


しばらくして研究室へ一人の男性が入ってきた。


四十代半ばほど。


上質な紺色のスーツのような服装。


整えられた口ひげ。


柔らかな笑顔。


「初めまして。」


「王都商人ギルド所属、クラウスと申します。」


名刺こそないが、営業マン特有の空気をまとっている。


アルトは思わず心の中で笑った。


(同業者だ。)


握手を交わした瞬間に分かる。


この男は、相当できる。


クラウスはしゃがみ込み、アルトと目線を合わせた。


「君がアルト君だね。」


「うん。」


「噂以上だ。」


「二歳とは思えない。」


アルトはにこりと笑う。


「よく言われる。」


その返答にクラウスが吹き出した。


「ははは!」


「面白い子だ。」


◇


応接室へ移動すると、クラウスは一枚の地図を広げた。


「見てほしい。」


王国全土の地図だった。


赤い印がいくつも付いている。


「ここが送風具を欲しがっている街です。」


「すでに百二十件以上の注文があります。」


教授たちが驚く。


「そんなに?」


「ええ。」


「ですが問題があります。」


クラウスは肩をすくめた。


「作る人が足りません。」


「運ぶ人も足りません。」


「販売店も足りません。」


アルトは地図を見ながら頷く。


(完全に供給不足だ。)


前世でもヒット商品ではよくある話だった。


◇


「アルト君。」


クラウスが真剣な表情になる。


「君にお願いがある。」


部屋の空気が変わる。


「ぜひ、商人ギルドの特別顧問になってほしい。」


全員が固まった。


「……え?」


レオンが聞き返す。


「二歳ですよ?」


「もちろん存じています。」


クラウスは笑顔のまま答えた。


「しかし、送風具の発想も、市場を見る視点も、大人以上です。」


「我々には、その知恵が必要なのです。」


アルトは苦笑する。


(スカウトされた。)


まさか異世界でヘッドハンティングされるとは思わなかった。


◇


「報酬も用意します。」


クラウスが続ける。


「金貨五十枚。」


ガイルが咳き込む。


「ごほっ!」


教授も目を丸くした。


「顧問料だけで?」


「ええ。」


「さらに売上に応じた成功報酬も。」


リディアが小さく呟く。


「王宮魔術師より高待遇かもしれません……。」


アルトは首を横に振った。


「だめ。」


「え?」


クラウスが驚く。


「どうしてですか?」


アルトは静かに答える。


「お金。」


「だけじゃ。」


「続かない。」


部屋が静まり返る。


◇


アルトはゆっくりと言葉を続けた。


「みんな。」


「儲かる。」


「それが一番。」


「でも。」


「買う人。」


「作る人。」


「売る人。」


「みんな。」


「笑顔。」


「それがもっと大事。」


クラウスは息を呑んだ。


営業時代のアルトが何度も経験したことだった。


利益だけを追う会社は、やがて信用を失う。


顧客を大切にし、社員を大切にし、取引先を大切にする会社だけが長く愛される。


「三方よし」という言葉を思い出す。


売り手よし。


買い手よし。


世間よし。


この世界でも、その考え方はきっと通用する。


クラウスはゆっくりと立ち上がり、深く頭を下げた。


「……勉強になりました。」


「私が教える立場だと思っていました。」


「逆でした。」


◇


帰り際。


クラウスはアルトへ一枚の木札を手渡した。


「これは?」


「商人ギルド特別相談役の証です。」


「正式な顧問契約は、君がもう少し大きくなってからで構わない。」


「だが、この席は君のために空けておく。」


アルトは少し照れくさそうに受け取る。


「ありがとう。」


その様子を見ていた教授が笑う。


「二歳児に将来の役員席を予約するとは。」


レオンも苦笑した。


「我が息子ながら、本当に何者なんだ……。」


アルトは心の中だけで答える。


(ただの営業課長です。)


◇


その日の夕方。


王都の裏路地。


黒い外套の男が一通の報告書を受け取っていた。


「送風具。」


「発明者は二歳の子ども。」


「商人ギルドも接触済みです。」


男は静かに笑う。


「ますます興味が湧いた。」


胸元には銀色の歯車の紋章。


「回収しろ。」


「方法は問わん。」


冷たい声だけが、薄暗い路地に響いた。


アルトの知らないところで、新たな敵が静かに動き始めていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊵


『利益は「結果」であり、「目的」ではない。』


利益だけを追えば、人は離れる。


価値を届け続ければ、利益はあとから付いてくる。


長く愛される商売は、目先の儲けより信頼を積み重ねている。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第四十二話「営業課長、模倣品との戦いが始まる」


王都に出回り始めた「そっくりな送風具」。


品質は悪く、壊れやすい。


その被害は、本物を作ったアルトたちにも及び始める。


営業課長は異世界で、「ブランドを守る戦い」に挑む。

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