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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第三十九話 営業課長、王女殿下と友達になる


初夏の陽射しが、王立魔法学院の白い校舎を明るく照らしていた。


共同研究が始まって一か月。


研究室には以前にはなかった活気が生まれていた。


「蒼輝石と紅輝石の共鳴実験、成功しました!」


「こちらの記録も更新しておきます。」


「午後は魔道具班との合同会議です。」


研究員たちは忙しく動き回りながらも、どこか楽しそうだった。


アルトはその様子を見て、満足そうに微笑む。


(みんな、自分の仕事だけじゃなくなった。)


営業でも、チームがうまく回り始める瞬間は空気が変わる。


まさに今が、その状態だった。


◇


その日、学院の正門に豪華な馬車が止まった。


王家の紋章が刻まれた白銀の馬車。


護衛騎士たちが整列し、学院長や教授たちが出迎える。


「王女殿下がお見えになりました。」


リディアが小声でアルトに伝える。


「王女様?」


「共同研究をご覧になるそうです。」


馬車の扉が開く。


降りてきたのは、十歳ほどの少女だった。


長い金色の髪。


透き通るような青い瞳。


白を基調とした上品なドレス。


しかし、その表情は威厳よりも好奇心でいっぱいだった。


「こんにちは!」


元気よく手を振る王女に、その場の空気が少し和らぐ。


「私はエリシアです!」


「今日は皆さんのお勉強を見に来ました!」


教授が穏やかに微笑む。


「ようこそお越しくださいました。」


◇


研究室を見学していたエリシアは、部屋の隅で本を読んでいるアルトを見つけた。


「あっ!」


「あの子?」


リディアが紹介する。


「こちらがアルト君です。」


「共同研究でたくさんの助言をしてくれています。」


エリシアは目を丸くした。


「えっ?」


「この子が?」


アルトは立ち上がり、小さくお辞儀をする。


「こんにちは。」


「こんにちは!」


エリシアも同じようにお辞儀を返した。


「あなた、お名前は?」


「アルト。」


「二歳です。」


「ええっ!?」


王女は思わず大きな声を出した。


「そんなに小さいのに、お話できるの?」


「少しだけ。」


「すごーい!」


周囲の大人たちは思わず笑みを浮かべる。


◇


「ねえ、アルト。」


エリシアは研究室を見回した。


「研究って楽しい?」


アルトは迷わず答えた。


「うん。」


「どうして?」


少し考えてから答える。


「知らないことが。」


「分かるようになるから。」


王女はその言葉を何度も繰り返した。


「知らないことが……分かる。」


「素敵。」


その瞳は、きらきらと輝いていた。


◇


見学の途中。


研究員が新しく完成した魔道具を持ってきた。


「送風具の改良型です。」


「風の強さを五段階で調整できます。」


エリシアは興味津々で手に取る。


「すごい!」


「これなら暑い日も快適ですね!」


アルトは首をかしげた。


「お城って。」


「暑い?」


王女は苦笑する。


「広いからね。」


「全部のお部屋に魔道具があるわけじゃないの。」


「侍女さんたちも暑そうなの。」


アルトは少し考える。


(なるほど。)


使う人は王族だけじゃない。


働く人たちもいる。


営業時代なら、ここで終わらせない。


「もっと。」


「小さいのも。」


「作れたらいいね。」


王女は嬉しそうに笑った。


「うん!」


「侍女さんのお部屋にも置けるね!」


教授は静かに頷く。


「視点が違いますな。」


アレンも感心したように笑う。


「私たちは性能ばかり考えていました。」


「使う人まで考えていませんでした。」


◇


帰る時間になった。


「アルト。」


エリシアが小さな栞を差し出す。


金色の糸で花の刺繍が施された手作りの栞だった。


「私、本が好きなの。」


「これ、使って。」


アルトは嬉しそうに受け取る。


「ありがとう。」


少し迷ってから、自分のポケットを探る。


中から出てきたのは、秘密基地で拾った小さな青い石。


魔力の宿っていない、ただ綺麗な石だった。


「これ。」


「ぼくから。」


エリシアは両手で受け取る。


「ありがとう!」


「大切にする!」


二人は笑顔で手を振り合った。


身分も年齢も違う。


それでも、その瞬間だけは普通の子ども同士だった。


◇


王女の馬車を見送ったあと。


教授は静かに呟く。


「王女殿下が、あれほど自然に笑われたのは久しぶりです。」


リディアも微笑む。


「アルト君には、不思議な力がありますね。」


アルトは首を振った。


特別な力ではない。


営業でも同じだった。


相手が社長でも、新入社員でも、お客様として同じように接する。


肩書きではなく、人として向き合う。


その積み重ねが信頼を生む。


この世界でも、その考え方は変わらなかった。


⸻


営業メモ㊳


『相手の肩書きではなく、人を見る。』


社長だから特別扱いする。


新人だから軽く見る。


そんな営業は長続きしない。


人は誰でも、一人の人間として尊重されたい。


信頼は、そこから始まる。


⸻


――次回、第四十話「営業課長、初めての特許料を受け取る」


送風具の改良が正式に王国へ登録された。


そしてレオン家へ届けられた、一通の通知。


「発明者への報奨金を支給する。」


営業課長は異世界で、人生初の”特許収入”を手にすることになる――。

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