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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第三十八話 営業課長、初めての共同研究をまとめる


紅輝石が発見されてから一週間。


王立魔法学院の研究棟は、かつてないほど慌ただしくなっていた。


廊下では研究員たちが資料を抱えて行き交い、実験室からは魔道具の作動音が絶えず聞こえてくる。


そんな中、一通の勅命が学院へ届けられた。


「王命です。」


教授は静かに羊皮紙を机へ置いた。


「紅輝石の研究を、国家研究として正式に進める。」


研究室にいた全員が姿勢を正す。


「さらに他学科とも連携し、共同研究班を結成すること。」


リディアは驚きの声を上げた。


「共同研究……ですか?」


「ええ。」


教授は頷く。


「鉱石学、魔法理論、魔道具工学、そして薬学。」


「学院でも初めての大規模研究になります。」


◇


しかし、その日の午後。


研究室には重苦しい空気が流れていた。


「この石は鉱石学が担当するべきです。」


「いや、魔力解析が先でしょう。」


「魔道具として利用価値を調べる方が重要です。」


「薬学でも反応を見る必要があります。」


それぞれが正しいことを言っている。


だからこそ、話はまとまらなかった。


アルトは静かにその様子を見つめる。


(前世で何度も見た光景だ。)


営業。


開発。


製造。


経理。


部署が違えば、優先順位も違う。


誰も間違ってはいない。


問題は、「共通の目的」が見えていないことだった。


◇


教授が困ったようにため息をつく。


「さて……どうしたものか。」


その時。


アルトが小さく手を挙げた。


「ぼく……。」


「順番にすれば?」


全員の視線が集まる。


「順番?」


アレンが尋ねる。


アルトは紙と鉛筆を借りると、丸を一つ描いた。


その周りへ矢印を書き加えていく。


①どんな石か調べる。


②魔力を測る。


③道具に使えるか試す。


④安全か確認する。


「終わったら。」


「次の人。」


部屋が静まり返った。


◇


教授は図を見つめたまま動かない。


「これは……。」


「研究工程の整理ですね。」


リディアが目を輝かせる。


「確かに!」


「先に性質を知らなければ、魔道具も作れません。」


薬学の研究員も頷く。


「安全性も最後ではなく、途中で確認できますね。」


アレンは苦笑した。


「私たちは、自分の専門しか見えていませんでした。」


「アルト君は全体を見ていたんですね。」


アルトは少し照れた。


(営業は全体を見る仕事だからね。)


一つの部署だけでは契約は取れない。


全員が同じ方向を向いて初めて、大きな成果が生まれる。


◇


その日から研究室の雰囲気は一変した。


鉱石学の研究員が分析を終えると、資料は魔法理論班へ。


解析が終われば、魔道具班へ。


最後に薬学班が安全性を確認する。


情報も毎日共有されるようになった。


「昨日の結果はこちらです。」


「ありがとうございます。」


「次はこちらをお願いします。」


自然と笑顔も増えていく。


教授は嬉しそうにその様子を見ていた。


◇


数日後。


「教授!」


リディアが駆け込んでくる。


「紅輝石ですが、一定量の熱を蓄える性質があります!」


「こちらをご覧ください!」


続いて魔道具班。


「蒼輝石と組み合わせることで、魔力効率が二割向上しました!」


さらに薬学班。


「人体への悪影響も今のところ確認されません!」


研究成果が次々と積み重なっていく。


教授は目を閉じ、小さく笑った。


「研究とは、一人の天才が進めるものではない。」


「仲間と知恵を持ち寄ることで、大きく前へ進む。」


その言葉に、研究員たちは大きく頷いた。


◇


帰り道。


夕日に照らされた学院を馬車の窓から眺めながら、アルトは静かに考える。


前世で学んだ営業の仕事。


最も大切だったのは、「商品を売ること」ではない。


人と人をつなぐことだった。


情報をつなぐ。


部署をつなぐ。


信頼をつなぐ。


その積み重ねが、大きな成果を生む。


異世界でも、その本質は変わらない。


アルトは少しだけ微笑んだ。


営業課長として歩んできた人生は、この世界でも確かに役立っている。


⸻


営業メモ㊲


『組織の力は、優秀な個人ではなく、情報共有で決まる。』


どれだけ優秀な人がいても、連携が取れていなければ成果は半減する。


相手の仕事を理解し、次の人が動きやすい形でつなぐ。


それが、本当に強いチームを作る。


⸻


――次回、第三十九話「営業課長、王女殿下と出会う」


共同研究の成果を視察するため、一人の少女が学院を訪れる。


王国第一王女・エリシア。


好奇心旺盛な王女と営業課長の出会いが、王国の未来を少しずつ変えていく――。

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