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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第三十七話 営業課長、七色の輝石を知る


王宮から帰って数日後。


アルトは国王から贈られた『王国魔法史』を夢中で読んでいた。


分厚い革表紙の本は、大人でも読み切るのが大変なほどの内容だ。


だがアルトにとっては、前世で契約書や市場調査の資料を何百冊も読んできた経験がある。


知らないことを知るのは、苦ではなかった。


「アルト様。」


エマが温かいミルクを持って部屋へ入る。


「少し休憩しませんか?」


「ありがとう、エマ。」


エマは嬉しそうに微笑んだ。


二歳になってから、アルトは「お父さん」「お母さん」と自然に呼ぶようになった。


そのたびにレオンとエマは目を細める。


アルトにとっても、この二人はもうかけがえのない家族だった。


◇


ページをめくる手が止まる。


一枚の古い挿絵。


七つの色に輝く鉱石が描かれていた。


青。


赤。


緑。


黄。


白。


黒。


そして――虹色。


その横には古代文字と、現代語による注釈が添えられている。


『古代王国には七色の輝石が存在したという伝承が残る。』


『しかし現在確認されているのは蒼輝石のみ。』


『その他は伝説と考えられている。』


アルトは思わず身を乗り出した。


(赤い石……。)


以前、秘密基地の近くで見つけた紅い輝きを放つ石。


あれは気のせいではなかった。


◇


翌日。


王立魔法学院。


アルトは本を抱えて研究室へ駆け込んだ。


「教授!」


「見て!」


教授は本を受け取り、目を丸くした。


「これは……。」


「王国魔法史ですか。」


リディアも覗き込む。


「七色の輝石?」


「こんな記録が残っていたんですね。」


アレンは腕を組んだ。


「学院では、おとぎ話として扱われています。」


「実在を証明する資料はありません。」


アルトは静かに言った。


「でも。」


「赤い石を見たよ。」


部屋が静まり返る。


◇


教授は慎重な表情で尋ねた。


「どこで?」


「リクと遊んだ森。」


「秘密基地の近く。」


リディアは驚いたように顔を上げる。


「あの森は……。」


「昔、小さな鉱山があった場所です。」


アレンも地図を広げた。


「ですが、百年以上前に閉鎖されています。」


「蒼輝石しか採れなかったと記録されています。」


アルトは首を横に振る。


「違う。」


「赤かった。」


その真剣な表情を見て、教授はゆっくり頷いた。


「分かりました。」


「まずは事実を確認しましょう。」


「研究とは、否定から始めるものではありません。」


「確かめることから始まります。」


◇


数日後。


休日を利用し、教授たちは秘密基地のある森を訪れた。


リクもダンと一緒にやって来ている。


「今日は探検だ!」


「おー!」


子どもたちは大はしゃぎだ。


一方、大人たちは真剣そのものだった。


「アルト君。」


「場所は覚えていますか?」


「うん。」


アルトは森の奥へ歩いていく。


木漏れ日が差し込む小道を抜け、小さな沢を越えた先。


「あった。」


アルトが指差す。


そこには半分ほど地面から顔を出した、赤く輝く小さな鉱石があった。


「本当に……。」


リディアが息を呑む。


アレンは慌てて採取道具を取り出す。


慎重に掘り起こすと、拳ほどの大きさの赤い鉱石が現れた。


「こんな鉱石……。」


「学院の標本にもありません。」


教授は震える手で鉱石を見つめる。


「伝説では……なかった。」


◇


研究室へ持ち帰り、すぐに調査が始まった。


魔力を流すと、赤い鉱石はゆっくりと温かい光を放つ。


「火属性に近い反応です。」


「ですが、通常の魔石とは構造が違います。」


アレンが興奮気味に報告する。


教授は静かに微笑んだ。


「アルト君。」


「また君に教えられましたな。」


アルトは少し照れながら答える。


「たまたまだよ。」


教授は首を横に振る。


「偶然を見つけるのも才能です。」


「多くの人は、見ても見逃してしまう。」


その言葉に、アルトは前世を思い出していた。


営業でも、新しい商機はいつも現場に落ちていた。


気づく人だけが、それをチャンスへ変えられる。


魔法研究も、きっと同じなのだ。


◇


その夜。


王都の空には満天の星が広がっていた。


アルトは庭から空を見上げる。


蒼輝石。


紅輝石。


そして、まだ見ぬ七色の輝石。


この世界には、まだ誰も知らない秘密が眠っている。


営業課長の新しい人生は、想像していたよりもずっと壮大な物語になろうとしていた。


⸻


営業メモ㊱


『チャンスは、知識の中ではなく現場に落ちている。』


どれだけ資料を読んでも、お客様の本当の声は現場でしか分からない。


だから営業は足を運ぶ。


研究者もまた、自分の目で確かめることで、新しい発見に出会える。


⸻


――次回、第三十八話「営業課長、王国初の共同研究が始まる」


紅輝石の発見は王宮にも報告される。


国王は学院へ命じた。


「国家研究として進めよ。」


こうしてアルトは、王国初となる大規模な共同研究の中心人物になっていく――。

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