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第三十六話 営業課長、国王陛下と初めて会う


王立魔法学院で生まれた「魔力調整機構付き送風具」。


その評判は学院内だけにとどまらず、王都の貴族や商人たちの間にも少しずつ広がり始めていた。


そして、ある日の朝――。


「旦那様、王宮より使者がお見えです。」


執事ガレスが応接室へ入り、深々と一礼した。


レオンは手紙を受け取り、封蝋を見る。


王家の紋章だった。


「……王宮から?」


エマも思わず息をのむ。


レオンが封を開き、ゆっくりと読み進める。


やがて驚いたように目を見開いた。


「これは……。」


「どうしたの?」


「陛下がお会いになりたいそうだ。」


部屋の空気が一瞬止まった。


「私たちに……ですか?」


「いや。」


レオンは苦笑しながらアルトを見る。


「アルトに、だ。」


「え?」


アルトも思わず目を丸くした。


(まさか、もう王様に会うことになるとは……。)



数日後。


王宮。


白い石で築かれた壮麗な城は、王都の中心に堂々とそびえ立っていた。


高い塔、色鮮やかなステンドグラス、手入れの行き届いた庭園。


どこを見ても王国の豊かさを感じさせる。


「すごい……。」


アルトは思わず見上げた。


前世でも立派な本社ビルはいくつも見てきた。


しかし、この壮大さは比べものにならない。


「緊張するか?」


レオンが優しく声を掛ける。


「うん。」


「少しだけ。」


その返事にレオンは笑った。


「私もだ。」



玉座の間。


赤い絨毯の先に、一人の男性が座っていた。


五十代ほどの年齢。


威厳を感じさせる顔立ちだが、その眼差しはどこか穏やかだった。


「面を上げよ。」


低く落ち着いた声が響く。


レオンたちは頭を上げる。


アルトも国王を見つめた。


(この人が……。)


王国を治める人物。


しかし、その目には傲慢さはなかった。


相手を観察する営業マンのような、静かな視線だった。


「レオン。」


「息子のことは、学院から報告を受けている。」


「はい、陛下。」


「送風具の改良。」


「蒼輝石への着眼点。」


「どれも実に興味深い。」


国王はゆっくりとアルトへ視線を向ける。


「アルト。」


「そなたは、なぜ送風具を改良しようと思った?」


突然の質問だった。


周囲の貴族たちもアルトを見つめる。


アルトは少し考え、素直に答えた。


「みんなが。」


「使いやすいほうが、うれしいから。」


玉座の間が静まり返る。


国王は数秒間アルトを見つめたあと、小さく笑った。


「なるほど。」


「実に単純だ。」


「だが、それが一番難しい。」



国王は立ち上がり、窓際まで歩いた。


窓の外には王都が広がっている。


「国も同じなのだ。」


「民が暮らしやすい国を作る。」


「言葉にすれば簡単だが、それを実現するのは難しい。」


アルトはその背中を見つめていた。


(前世の優秀な社長に似ている。)


利益だけではなく、お客様や社員のことを考える人。


そんな人の会社は強かった。


国王もまた、同じなのだろう。



「アルト。」


国王が振り返る。


「一つ、頼みがある。」


「はい?」


「これからも、その柔軟な考え方を失わないでほしい。」


「大人になると、人は経験を積む。」


「しかし同時に、『常識』という壁を作ってしまう。」


「そなたには、その壁を越える力がある。」


アルトは真っすぐ頷いた。


「はい!」


その返事に国王は満足そうに微笑んだ。


「よい返事だ。」



帰り際。


国王は一冊の本をアルトへ手渡した。


表紙には金文字でこう書かれている。


『王国魔法史』


「これは……。」


教授が驚く。


「王家しか閲覧できない書物では?」


国王は静かに頷いた。


「写本だ。」


「本物ではない。」


「だが、十分役に立つだろう。」


アルトは両手で大切に受け取る。


「ありがとうございます!」


「しっかり勉強します!」


国王は豪快に笑った。


「ははは!」


「その年で勉強好きとは頼もしい!」



王宮を後にした馬車の中。


レオンは大きく息を吐いた。


「さすがに疲れたな。」


エマも苦笑する。


「陛下がお優しい方で良かったです。」


アルトは膝の上の本を見つめていた。


営業でも、良い上司や経営者との出会いは人生を変える。


今日の出会いも、きっとそうなる。


王は命令しなかった。


期待を押し付けもしなかった。


ただ、「そのままでいてほしい」と言ってくれた。


その言葉が、アルトの胸に深く刻まれていた。



営業メモ㉟


『本当に優れたリーダーは、答えを与えるのではなく、可能性を信じる。』


営業でも部下を育てるとき、一方的に指示を出すだけでは人は育たない。


相手を信じ、考える機会を与えること。


それが、組織を強くするリーダーの条件である。



――次回、第三十七話「営業課長、王家の図書館で歴史を知る」


王から贈られた『王国魔法史』。


そこには、蒼輝石よりも古い時代に存在したという「七色の輝石」の伝説が記されていた。


その一文が、アルトたちの研究を新たな段階へ導くことになる――。

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