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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第三十五話 営業課長、小さな発明をする


春も深まり、王都では色とりどりの花が咲き始めていた。


アルトは週に一度、王立魔法学院へ通うようになっていた。


正式な学生ではない。


教授の特別な許可を受けた「見学」という扱いである。


「アルト君、おはよう。」


「おはようございます!」


リディアが笑顔で迎える。


アレンも書類から顔を上げた。


「今日は新しい魔道具の実験だ。」


研究室の机には、さまざまな魔道具が並んでいた。


灯りをともすランプ。


水をくみ上げる装置。


風を送る小型の送風具。


どれも蒼輝石を動力として使っている。


◇


「問題は燃費です。」


アレンが一つの魔道具を手に取る。


「便利ですが、蒼輝石の魔力を大量に消費してしまいます。」


教授も頷いた。


「もっと長く使えるようになれば、庶民にも普及するでしょう。」


アルトは送風具を手に取る。


スイッチを入れると、勢いよく風が吹き出した。


しかし、止める時も一気だった。


(……ONかOFFしかない。)


営業時代、空調設備を扱う会社を担当したことがある。


強すぎる風は無駄な電力を使う。


必要な分だけ動かせば、コストも下がる。


(魔道具も同じじゃないか?)


◇


「教授。」


アルトは送風具を見せる。


「どうしたのかな?」


「これ……。」


アルトは手でゆっくりと波を描いた。


「少しだけ。」


「少しずつ。」


教授は首をかしげる。


「風の強さを変えたいということですか?」


「うん!」


アレンは腕を組んだ。


「ですが、魔道具は決められた量の魔力しか流せません。」


アルトは首を横に振る。


「水も。」


「いっぱい出したり。」


「少し出したりするよ?」


その言葉に、研究室が静まり返る。


リディアがぽつりと呟く。


「蛇口……みたいに?」


アルトは笑顔で大きく頷いた。


「そう!」


◇


教授の目が輝く。


「なるほど……。」


「魔力を流す量を調整する仕組みか。」


アレンも設計図を広げ始める。


「今までは『全開』しか考えていませんでした。」


「調整弁を付ければ……。」


研究員たちも集まってくる。


「流路を細くすればいい。」


「魔法陣を書き換えられるかもしれない。」


研究室の空気が一気に変わった。


◇


三日後。


試作品が完成した。


見た目は以前と同じ送風具。


違うのは、横に小さなつまみが付いていることだった。


「やってみましょう。」


教授が魔力を流す。


そよ風。


つまみを回す。


少し強い風。


さらに回す。


勢いのある風。


「成功だ!」


リディアが思わず拍手する。


アレンは魔力消費量を確認した。


「教授!」


「弱風なら、従来の三倍も長く使えます!」


研究室中が歓声に包まれた。


◇


数日後。


試作品は屋敷にも持ち込まれた。


「これは便利だな。」


レオンが感心する。


暑い日は強く。


読書をする時は弱く。


自由に風を調整できる。


エマも笑顔になった。


「赤ちゃんのお昼寝にも良さそうですね。」


アルトは庭を眺めながら思う。


(前世でもそうだった。)


お客様は、ものすごい新商品を求めているわけではない。


「あと少し便利になればいい。」


そんな小さな不満を解決する商品こそ、多くの人に愛される。


営業課長として、そのことを何度も学んできた。


◇


一週間後。


教授から一通の手紙が届く。


『調整機構付き送風具は、学院でも高く評価されました。』


『特許申請の準備を進めています。』


『なお、発案者はアルト君として記録させていただきます。』


レオンは手紙を読み終え、嬉しそうに笑った。


「アルト。」


「お前の考えが、形になったぞ。」


アルトは少し照れながら笑う。


「みんなのおかげ。」


教授が形にし、アレンが設計し、リディアが実験を重ねた。


一人では、この発明は生まれなかった。


営業でも同じだった。


成果は、チーム全員で作るものなのだから。


⸻


営業メモ㉞


『イノベーションは、大きな発明だけではない。』


お客様が「少し不便」と感じていることを改善する。


その積み重ねが、大きな価値を生み出す。


成功する営業は、小さな困りごとを見逃さない。


⸻


――次回、第三十六話「営業課長、王宮から招待される」


「陛下が、ぜひその子に会ってみたいと仰せです。」


学院で生まれた小さな発明は、ついに王宮の耳にも届く。


営業課長は、異世界で最も緊張する”商談相手”と会うことになる――。

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