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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第三十四話 営業課長、初めての魔法実験


王立魔法学院。


春の柔らかな日差しが研究棟の窓から差し込み、机の上に並ぶ蒼輝石を青く照らしていた。


「教授、準備が整いました。」


リディアが報告する。


教授はゆっくり頷いた。


「始めよう。」


研究室の中央には、小さな実験台が置かれていた。


その上には、形も大きさも同じ蒼輝石が五つ並んでいる。


アレンがアルトへ微笑みかけた。


「今日は、君の考えを試してみたい。」


「僕の?」


「そう。」


「『魔力は量より流れが大切』という考え方だ。」


アルトは少し緊張しながら頷いた。


「うん。」


◇


実験は単純だった。


一つ目の蒼輝石には、一気に大量の魔力を流し込む。


二つ目には、少しずつ一定の速度で流す。


三つ目には、強弱をつけながら流す。


四つ目には、途中で何度も止めながら流す。


五つ目は何もせず比較用として残す。


「記録開始。」


研究員が羽ペンを走らせる。


まず一つ目。


大量の魔力を流し込むと、蒼輝石は激しく輝いた。


しかし数秒後。


「魔力効率、三十八パーセント。」


「かなり逃げています。」


次に二つ目。


ゆっくりと一定速度で魔力を流す。


すると、蒼輝石は静かに青く輝き続けた。


「効率……七十九パーセント!」


研究室がざわめく。


「倍以上だ……。」


アレンも目を見開く。


「そんな馬鹿な。」


◇


残る実験でも結果は同じだった。


強弱をつけると効率は下がる。


途中で止めると流れが乱れる。


一定速度だけが、圧倒的に安定していた。


教授は記録を見つめたまま動かない。


「何十年も……。」


「我々は魔力量ばかり研究してきた。」


「しかし本当に重要だったのは、流し方だったのか。」


リディアは興奮を隠せない。


「これなら魔道具の性能も大きく変わります!」


研究員たちも次々と意見を交わし始めた。


「魔法陣も改良できる!」


「蒼輝石の消費量も減らせるぞ!」


研究室は歓喜に包まれた。


◇


その時だった。


教授がアルトへ優しく尋ねる。


「アルト君。」


「君も魔法を使ってみませんか。」


「え?」


「もちろん危険な魔法ではありません。」


教授は小さな植木鉢を持ってきた。


乾いた土だけが入っている。


「水属性の初級魔法です。」


「普通なら二歳では使えません。」


「ですが……君なら。」


アルトは植木鉢を見つめる。


(魔法か。)


前世では何度も夢見た世界。


営業課長が、ついに魔法を使う時が来た。


◇


教授が優しく教える。


「手のひらへ魔力を集め、水を思い浮かべてください。」


アルトは静かに目を閉じた。


川の流れ。


雨。


湖。


透明な水をイメージする。


身体の中を流れる魔力を、そっと手のひらへ集める。


「ウォーター。」


小さく呟いた瞬間。


ぽちゃん。


手のひらから、小さな水の玉が生まれた。


「出た!」


リディアが歓声を上げる。


水の玉はゆっくりと植木鉢へ落ち、乾いた土を優しく潤した。


その量は、コップ一杯にも満たない。


だが——。


二歳児が初めて放った魔法としては、あり得ないほど安定していた。


◇


アレンは苦笑しながら肩をすくめる。


「参りました。」


「私は初めて魔法を成功させるまで半年かかりました。」


リディアも笑う。


「私なんて水浸しでしたよ。」


研究室は笑いに包まれる。


アルトも照れくさそうに笑った。


「えへへ。」


(やっぱり魔法って面白い。)


営業では、人の役に立つ提案を考えることが楽しかった。


魔法も同じだ。


人を驚かせるためではない。


誰かの暮らしを少し便利にするために使いたい。


そんな思いが自然と湧いてきた。


◇


帰宅後。


庭でアルトはリクに今日の話を聞かせていた。


「水を出したの?」


「うん。」


「すごい!」


「今度ぼくにも教えて!」


アルトは笑って答える。


「一緒に練習しよう。」


その約束を聞いたレオンは、少し離れた場所で微笑んでいた。


「友達と一緒に成長していく。」


「それが一番だな。」


アルトも心からそう思った。


競い合うだけではなく、支え合いながら前へ進む。


営業でも人生でも、それが長く成功する秘訣だった。


⸻


営業メモ㉝


『優れた技術は、誰かと共有してこそ価値になる。』


自分だけが成果を出しても、大きな変化は生まれない。


知識や経験を仲間へ伝え、ともに成長することで、組織も社会も強くなる。


一人の成功より、みんなの成長を目指そう。


⸻


――次回、第三十五話「営業課長、小さな発明をする」


「この魔法、もっと楽に使えないかな。」


アルトの何気ない一言から、新しい魔道具の研究が始まる。


それはやがて、王都の人々の暮らしを変える小さな発明へとつながっていく。

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