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第三十二話 営業課長、初めての魔力測定


王都に暖かな春が訪れた。


庭に咲く花々は色鮮やかに咲き誇り、小鳥たちが楽しそうにさえずっている。


アルトは二歳になっていた。


「アルト、待てー!」


「つかまえてみて!」


リクと庭を元気いっぱいに駆け回る。


前世では休日も仕事ばかりで、全力で走ることなど何年もなかった。


だが今は違う。


風を切って走るだけで楽しい。


笑うだけで幸せだった。


「二人とも、転ばないようにね。」


エマが優しく声を掛ける。


「はーい!」


アルトも元気よく返事をした。


その成長した姿を見て、レオンは目を細める。


「もう普通に会話ができるようになったな。」


「本当に成長は早いものだ。」


アルトは少し苦笑する。


(中身は四十四歳だけどね。)



昼食後、一台の馬車が屋敷へ到着した。


降りてきたのは、教授、リディア、そしてアレンだった。


「お久しぶりです。」


教授は穏やかに頭を下げる。


「アルト君も元気そうですな。」


「こんにちは、教授!」


自然に挨拶を返すアルト。


教授は嬉しそうに笑った。


「今日はお願いがありまして。」


レオンが応接室へ案内する。


「どうぞ、お掛けください。」



「実は……。」


教授は一冊の書類を広げた。


「二歳になると、貴族の子どもは魔力測定を受ける習わしがあります。」


「魔力測定?」


エマが興味深そうに尋ねる。


「ええ。」


「魔力量や属性を調べ、今後の教育方針を決めるためです。」


レオンは納得したように頷いた。


「そういう時期か。」


教授は優しく微笑む。


「学院で測定しても構いませんし、今日は簡易測定器を持参しております。」


「よろしければ、ここで試してみませんか。」


アルトは胸が高鳴った。


(ついに来た。)


異世界転生ものでは定番のイベント。


営業課長も、少しだけワクワクしていた。



アレンが木箱から透明な水晶球を取り出す。


両手で抱えるほどの大きさだ。


「この水晶へ手を添えてください。」


アルトは小さな手を乗せた。


静かな空気が流れる。


一秒。


二秒。


三秒――。


突然。


ブワッ!


水晶全体が青白い光に包まれた。


「なっ……!」


アレンが目を見開く。


リディアも息を呑む。


「こんな反応……初めて見ました。」


さらに水晶の中心へ、細い金色の光が現れる。


教授が立ち上がった。


「金色……。」


「まさか……。」


しかし次の瞬間。


パキッ。


水晶に一本のひびが入った。


そして——


パリン!


水晶は細かな光となって砕け散った。


部屋は静まり返る。



「……壊れた?」


レオンが呟く。


アレンは慌てて破片を調べる。


「測定器の故障ではありません。」


「魔力容量を超えています。」


教授は驚きを隠せなかった。


「学院でも、この測定器が壊れた記録は数十年ありません。」


エマは心配そうにアルトを抱き寄せる。


「アルト様、大丈夫ですか?」


「うん。」


アルト自身には何の異常もなかった。


それどころか、不思議と身体が軽い。


(魔力って……こんな感覚なのか。)


身体中を温かな水が流れているようだった。



教授は静かに深呼吸した。


「今日は簡易測定でした。」


「正式な測定は学院の大型測定器で行いましょう。」


アレンも真剣な表情で頷く。


「ここまでの反応は予想外です。」


「詳しく調べる必要があります。」


リディアは少し嬉しそうに笑った。


「また一緒に研究できますね。」


アルトも笑顔で頷く。


「はい!」


営業時代、新しい大型案件を任された時もこんな気持ちだった。


少しの緊張。


そして、それ以上の期待。


未知の世界へ踏み出す瞬間は、いつだって胸が躍る。



学院の馬車が帰ったあと。


レオンはアルトの頭を優しく撫でた。


「無理はするなよ。」


「父さんも母さんも、お前が元気ならそれで十分だ。」


アルトは少し照れながら笑う。


「ありがとう、お父さん。」


その一言に、レオンとエマは顔を見合わせて微笑んだ。


どれほど特別な才能があっても、この子は何より大切な家族だ。


その想いだけは、決して変わることはなかった。



営業メモ㉛


『本当の実力は、数字だけでは測れない。』


営業では売上や成績が評価される。


しかし、本当に大切なのは「これからどれだけ成長できるか」という可能性だ。


目先の結果だけで、人の価値は決まらない。



――次回、第三十三話「営業課長、学院の天才たちを驚かせる」


学院にある大型魔力測定器。


それは王国最高峰の魔道具だった。


しかし、アルトの測定が始まった瞬間、学院中に非常ベルが鳴り響く。


「魔力値……測定不能です!」


誰も見たことのない数値が、静かに世界の常識を揺るがし始める。

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