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第二十八話 営業課長、静かな評判が広がる


夏空の下、王都は今日も活気に満ちていた。


市場では行商人たちの元気な声が響き、人々は笑顔で買い物を楽しんでいる。


その一角で、雑貨商会の店主グレッグは忙しく頭を下げていた。


「ありがとうございます!」


「こちらが人気のガラス花瓶です。」


「こちらは木製の子ども用食器になります。」


次々と商品が売れていく。


近くの商人が感心したように声を掛けた。


「最近のグレッグ商会は勢いがあるな。」


「何か秘訣でもあるのか?」


グレッグは少し笑った。


「秘訣というほどではありません。」


「ただ、お客様が本当に欲しいものを考えるようになっただけです。」


「誰かに教わったのか?」


「ええ。」


グレッグは遠くを見つめながら答えた。


「ある小さな先生に。」



その噂は、商人たちの間を少しずつ広がっていった。


「売れない商品を売れるようにする赤ちゃん。」


「貴族レオン様のご子息らしい。」


「不思議な子だ。」


もちろん尾ひれも付く。


「未来が見えるらしい。」


「精霊の加護を受けているとか。」


「生まれながらの賢者だそうだ。」


噂とは、営業の口コミと同じ。


広がるほどに少しずつ形を変えていく。



一方その頃。


王立魔法学院。


老魔法使いの執務室では、リディアが一冊の研究日誌をまとめていた。


そこへ、一人の青年が部屋へ入ってくる。


銀色の短い髪。


学院の制服をきっちりと着こなし、胸元には優秀な研究員だけが付けられる銀の徽章。


「教授、お呼びでしょうか。」


老魔法使いは静かに頷いた。


「アレン。」


「一つ、頼みたいことがある。」


「何でしょう。」


「以前話した蒼輝石を覚えているか。」


「未解明の魔鉱石ですね。」


「そうだ。」


老人は窓の外を見つめる。


「そして、その石を見つけた子どものことも。」


アレンは少しだけ眉を動かした。


「……あの赤ちゃんですか。」


「リディアが妙に気にしている。」


「はい。」


「ですが、ただの偶然でしょう。」


その口調には、自信がにじんでいた。


学院始まって以来の秀才。


誰もが認める若き研究者。


だからこそ、赤ん坊が研究に関わるなど考えもしない。


老人は微笑んだ。


「私もそう思っていた。」


「しかし、研究とは思い込みを疑うことから始まる。」


アレンは静かに頷く。


「分かりました。」


「一度、お会いしてみます。」



その日の夕方。


屋敷の庭では、アルトがリクたちと遊んでいた。


秘密基地から持ってきた木の剣を振り回し、リクが楽しそうに笑う。


「アルトもドラゴン退治する?」


「あぅ!」


アルトは笑いながら木の剣を受け取る。


その何気ない光景を、門の外から一人の青年が見つめていた。


銀色の髪。


鋭い青い瞳。


王立魔法学院の若き天才研究員、アレン。


「……普通の赤ちゃんじゃないのか。」


それとも。


「ただの噂なのか。」


彼は静かに呟く。


その視線に気付く者は、まだ誰もいなかった。



営業メモ㉗


『評判は、自分で作るものではない。お客様が作ってくれるものだ。』


どれだけ自分で宣伝しても、本当の信用にはならない。


誰かが「良かった」と語ってくれること。


それこそが、何より強い営業になる。



――次回、第二十九話「営業課長、天才と出会う」


学院一の秀才・アレン。


彼はアルトを試そうとする。


しかし試されるはずだったのは、むしろ自分自身だった。

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