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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第1部 幼少期編

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第二十七話 営業課長、初めての商談に挑む


真夏の朝。


王都には、今日も市場の活気が響いていた。


屋敷の庭では、アルトがエマに抱かれながら涼しい風を受けている。


「あー!」


リクたちは木陰で水を掛け合い、元気いっぱいに遊んでいた。


その平和な時間を破るように、一台の馬車が屋敷の門をくぐる。


「旦那様。」


執事ガレスが玄関へ向かった。


「グレッグ商会の皆様がお見えです。」


レオンは笑顔で迎えに出る。


「ようこそ。」


「今日はどのようなご用件でしょう。」


グレッグは深く一礼した。


「先日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。」


「実は、お話しした売れ残りの商品を持って参りました。」


「ぜひ一度、ご覧いただけませんでしょうか。」


◇


応接室へ運び込まれた木箱は三つ。


蓋が開けられると、中から現れたのは色鮮やかなガラス瓶だった。


青。


赤。


緑。


透明。


どれも繊細な装飾が施され、美しい。


「これは……。」


レオンが思わず手に取る。


「見事な細工だ。」


「職人が一つひとつ手作業で作っています。」


グレッグは誇らしげに答えた。


しかし、その表情には悩みも滲んでいる。


「ですが、ほとんど売れません。」


「高価すぎる、と言われるのです。」


アルトは瓶を見つめる。


(きれいだ。)


だが、前世の営業経験がすぐに違和感を教えてくれた。


(誰が買う商品なんだ?)


そこが見えてこない。


◇


「貴族向けでは?」


レオンが尋ねる。


グレッグは首を振った。


「もっと豪華な品があります。」


「一般の方には高すぎます。」


「つまり……。」


「誰にも選ばれていないのです。」


その一言で、アルトは確信した。


(商品の問題じゃない。)


(お客様が曖昧なんだ。)


営業で最も危険なのは、


『誰にでも売りたい』


という考えだった。


誰にでも売ろうとすると、結局誰にも響かない。


◇


アルトはテーブルの上の瓶へ手を伸ばす。


そして——


コンコン。


小さく指で叩いた。


澄んだ音色が部屋に響く。


「おっ。」


レオンが笑う。


「気になるのか?」


アルトは何度も瓶を見つめる。


光を受けると、青いガラスが美しく輝いた。


その様子を見ていたエマが、小さく呟く。


「……花を飾ったら素敵でしょうね。」


部屋が静かになる。


グレッグが顔を上げた。


「花……?」


エマは少し慌てる。


「す、すみません。」


「独り言でした。」


しかし、グレッグの表情はどんどん変わっていく。


「そうか……。」


「私は『瓶』として売ろうとしていた。」


「でも、お客様が欲しいのは——。」


レオンが笑顔で続ける。


「部屋を彩る花瓶、ということか。」


「はい!」


グレッグは力強く頷いた。


「用途まで提案していなかったんです!」


アルトは心の中で笑う。


(その通り。)


営業とは、商品の説明ではない。


「使った後の未来」を想像してもらうことだ。


◇


「例えば……。」


グレッグは興奮気味に話し始める。


「季節の花と一緒に飾る。」


「新築祝いの贈り物にする。」


「結婚祝いとして提案する。」


次々と新しいアイデアが生まれていく。


レオンも嬉しそうに頷いた。


「もう答えは見つかったようだな。」


「はい!」


グレッグは立ち上がる。


その目には、自信が戻っていた。


「本当にありがとうございます!」


◇


数週間後。


再びグレッグが屋敷を訪れた。


「ご報告があります!」


表情は以前とは別人のように明るい。


「花屋と協力して販売したところ、大変な評判になりました!」


「花と一緒に飾る暮らしを提案したことで、注文が相次いでおります!」


レオンは満足そうに笑う。


「それは良かった。」


グレッグはアルトの前に、小さな包みを差し出した。


「これはお礼です。」


中には、小さなガラス細工の小鳥が入っていた。


透明な羽が光を受け、虹色に輝いている。


「あぅ!」


アルトは嬉しそうに手を伸ばした。


「ははは。」


レオンが笑う。


「すっかり人気者だな。」


アルトは小鳥を見つめながら思う。


前世では、多くの商談を経験した。


勝ち負けではない。


相手の悩みを一緒に考え、解決する。


その積み重ねが信頼になった。


異世界でも、それは変わらない。


営業という仕事は、誰かの未来を少しだけ明るくする仕事なのだ。


⸻


営業メモ㉖


『商品を売るな。未来を提案しよう。』


お客様は商品そのものではなく、その商品で実現できる暮らしや体験に価値を感じる。


「何を売るか」ではなく、「どんな未来を届けるか」。


その視点が、人の心を動かす。


⸻


――次回、第二十八話「営業課長、王都で小さな評判になる」


「レオン様のお屋敷には、不思議な赤ちゃんがいるらしい。」


そんな噂が商人だけでなく、貴族たちの間にも少しずつ広がり始める。


その評判は、やがて王都でも指折りの大商会の耳に届くことになる――。

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