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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第1部 幼少期編

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第二十六話 営業課長、初めての評判になる


夏の日差しが、王都の石畳を明るく照らしていた。


市場は今日も大勢の人で賑わっている。


「いらっしゃい!」


「焼きたてのパンだよ!」


「新鮮な野菜はいかが!」


威勢のいい声が飛び交う中、一つの店の前だけが特に人だかりになっていた。


「かわいい!」


「この小さな木の器、赤ちゃんにちょうどいいわ。」


「軽くて持ちやすいな。」


店先に並ぶのは、トーマスの木工品だった。


以前は一日いても数点しか売れなかった商品が、今では次々と買われていく。


「ありがとうございます!」


「またお越しください!」


トーマスは汗を拭きながらも、嬉しそうに頭を下げていた。


◇


その様子を少し離れた場所から見つめる男がいた。


恰幅の良い中年商人。


王都で雑貨商会を営む、グレッグという男だった。


「……面白い。」


隣の部下へ視線を向ける。


「急に売れ始めた理由は調べたか?」


「はい。」


部下は小さく頷く。


「どうやら、レオン様のお屋敷へ商品を持ち込んだことがきっかけだとか。」


「屋敷の赤ちゃんが木の器を気に入り、それを見たレオン様が売り方を助言したそうです。」


グレッグは腕を組む。


「赤ちゃんが?」


思わず笑ってしまう。


「そんな話があるものか。」


しかし、商人の勘が囁いていた。


偶然だけでは説明がつかない。


「一度、その屋敷へ行ってみるか。」


◇


その頃、屋敷では——。


リクたちが庭で元気よく遊んでいた。


「アルト!」


「見て!」


木の枝を剣に見立てて、ドラゴン退治ごっこを始めている。


アルトはエマに抱かれながら笑顔で見守っていた。


「あぅ。」


(平和だ。)


その時だった。


「旦那様。」


ガレスが庭へやって来る。


「王都の商人、グレッグ様がお見えです。」


レオンは少し首をかしげた。


「私に商売の話とは珍しいな。」


◇


応接室。


グレッグは礼儀正しく頭を下げた。


「突然の訪問、失礼いたします。」


「私は雑貨商会を営んでおります、グレッグと申します。」


「今日は一つ、お礼を申し上げたく参りました。」


「お礼?」


レオンは不思議そうな表情を浮かべる。


「木工職人のトーマスから話を聞きました。」


「売れなかった商品が、売り方を変えただけで大評判になったと。」


「その助言をされたのが、レオン様だと。」


レオンは苦笑した。


「いや、私ではない。」


「え?」


「きっかけをくれたのは、この子だ。」


レオンはアルトを抱き上げる。


「アルト?」


グレッグは目を丸くした。


赤ん坊が、にこりと笑う。


「あぅ。」


「……。」


部屋に沈黙が流れる。


(信じられないよな。)


アルトは心の中で苦笑する。


自分が逆の立場でも、絶対に信じない。


◇


レオンは笑いながら説明した。


「アルトが木の器をとても気に入ってな。」


「その姿を見て、『子ども向けとして売ればいいのでは』と思いついただけだ。」


グレッグは深く頷く。


「なるほど……。」


「商品の価値ではなく、お客様を変えたのですね。」


商人らしく、本質を理解するのが早かった。


「勉強になります。」


アルトはその言葉に目を細める。


(飲み込みが早い。)


こういう人は伸びる。


営業時代にも、新しい考えを素直に取り入れる会社ほど成長していた。


◇


「実は……。」


グレッグは少し声を落とした。


「私どもの商会にも、一つ売れ残っている商品があります。」


「もしよろしければ、一度だけご意見をいただけませんでしょうか。」


レオンは困ったように笑う。


「私より、商売の専門家に聞いた方が良いのでは?」


「いえ。」


グレッグは首を横に振る。


「固定観念のない意見こそ、大切なのです。」


アルトは思わず感心した。


(いい考え方だ。)


営業でも、新人の一言が大きな改善につながることは珍しくない。


経験は武器になる。


しかし、ときに常識にも縛られる。


だから違う視点が必要なのだ。


◇


帰り際。


グレッグはアルトへ深く頭を下げた。


「今日はお会いできて光栄でした。」


「あぅ。」


アルトも小さく手を振る。


その姿を見て、グレッグは思わず笑みをこぼした。


「不思議な赤ちゃんですね。」


「話しているわけではないのに、なぜか考えさせられる。」


馬車が屋敷を離れていく。


レオンは窓の外を見送りながら呟いた。


「アルトのおかげで、少しずつ人との縁が広がっていくな。」


アルトは静かに頷いた。


営業とは、人をつなぐ仕事。


一つの信頼が、また次の信頼を呼ぶ。


その積み重ねが、やがて大きな力になることを、アルトは前世で何度も経験してきた。


異世界でも、その法則は変わらない。


⸻


営業メモ㉕


『信頼は、次の仕事を連れてくる。』


営業では、一件の成功が終わりではない。


満足したお客様は、新しいお客様を紹介してくれる。


信頼は、人から人へと広がっていく最大の財産である。


⸻


――次回、第二十七話「営業課長、初めての商談に挑む」


グレッグ商会から届いた一つの依頼。


売れ残った商品の山を前に、アルトは営業課長として培った「観察力」と「仮説思考」で、新たな価値を見つけ出そうとする。

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