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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第二百六十話 営業課長、原因を一つに絞る前に立ち止まる


「課長! 原因が分かりました!」


工房に入るなり、ミハイルが大きな声を上げた。


俺は思わず足を止めた。


「……まだ何も見ていないんだが?」


「昨日の位置決めガイドです! あれを直したら、部品の傾きが小さくなりました!」


「それは昨日確認したな」


「つまり、ガイドが原因です!」


「その結論に飛びつくのは早い」


ミハイルは、納得できないという顔をした。


「でも、直したら改善したんですよ?」


「改善したことと、それだけが原因だと証明できたことは違う」


「うーん……」


俺は工房の奥に目を向けた。


ダリオとエルダは、すでに試験の準備を進めていた。


昨日、位置決めガイドを床の印に合わせ直したことで、加工した部品の傾きが小さくなった。


確かに前進だ。


だが、加工台の水平や支え板の状態も、まだ確認しきれていない。


一つの条件を変えたことで結果が変わったとしても、ほかの条件が同時に変わっていれば、原因を正確に特定することはできない。


「今日は、昨日の結果をもう一度確かめます」


俺が言うと、エルダが頷いた。


「同じ材料を使って、同じ手順で加工するのね」


「はい。それから、ガイドの位置だけを変えた場合と、加工台の状態を確認した場合を分けて比べたいです」


ダリオが腕を組んだ。


「一度に全部直すと、何が効いたのか分からなくなるということか」


「そうです。改善することと、原因を見つけることは、似ているようで違います」


ミハイルが帳面を開いた。


「では、今日の試験は三つですね!」


「三つ?」


「昨日の状態、ガイドを合わせた状態、それから加工台の水平も確認した状態です!」


「整理できているじゃないか」


俺が褒めると、ミハイルは嬉しそうに胸を張った。


「ありがとうございます! さらに四つ目として、私が加工する状態も――」


「それは必要ない」


「なぜですか!」


「お前が加工すると、条件が増えるからだ」


「私自身が変数扱いですか!」


「今のところはな」


ダリオが吹き出した。


エルダも口元を押さえている。


ミハイルは不満そうだったが、すぐに帳面へ目を戻した。


「分かりました。今日は見学と記録に専念します」


「それがいい」


最初の試験では、昨日の状態を再現した。


加工台の水平は、前回と同じ位置で確認する。


位置決めガイドも、昨日調整した位置に固定する。


エルダが部品を置き、ダリオが加工を進めた。


完成した部品を測定すると、昨日と近い結果が出た。


「まずは再現できたわね」


エルダが記録帳に数字を書き込む。


「同じ条件で似た結果が出たということですね」


俺が確認すると、ダリオが頷いた。


「次はガイドの位置を少しだけ変える」


「はい。ただし、元の位置に戻せるように印を付けておきましょう」


ミハイルがすぐに印を確認した。


「こちらが基準位置。こちらが比較位置。間違えないように印を分けます」


「いいな。その調子だ」


「今回は私も役に立っていますね!」


「今のところはな」


「課長、褒めるときは最後まで褒めてください!」


二つ目の試験では、ガイドの位置をわずかに変えた。


加工した部品を並べ、エルダが形状を確認する。


「こちらは、端の傾きが少し大きくなっているわ」


「やはりガイドの位置が影響している可能性は高そうですね」


「そうだな。ただ、これだけではまだ断定できない」


ダリオが慎重に言った。


「次は加工台の水平を確認しよう」


今度は加工台の複数の位置で水準器を使った。


中央だけではなく、左右の端も確認する。


すると、中央では問題がないように見えたが、片側の端ではわずかな違いが出た。


「中央だけ見ていたら、気づかなかったわね」


エルダが言った。


「以前の確認は中央だけだったんですか?」


俺が尋ねると、ダリオは頷いた。


「そうだ。作業台の中央が水平なら、全体も大きく問題ないと思っていた」


「今回のような小さな差を調べるなら、確認する場所も大切ですね」


「確かに」


ダリオは加工台の端を見つめた。


「支え板を交換した後、加工台を移動した。そこで水平を確認したが、中央だけだった。さらにガイドも取り外して戻している」


「それぞれの変更が、少しずつ影響している可能性があります」


エルダが続けた。


「一つだけが悪いのではなく、複数の小さなずれが重なっているのかもしれない」


ミハイルが帳面を見ながら、ゆっくり頷いた。


「なるほど……。犯人は一人とは限らないんですね」


「だから物を犯人扱いするな」


「では、共犯ですか?」


「もっと悪くなったぞ」


ダリオがまた笑った。


しかし、ミハイルは今度はすぐに冗談を続けなかった。


記録帳を見ながら、三つの試験結果を並べている。


「課長。少し気になることがあります」


「何だ?」


「ガイドの位置を変えた試験と、加工台の水平を確認した試験では、結果が違います。でも、加工台の水平を確認しただけでは、まだ部品を加工していませんよね?」


「そうだな」


「ということは、水平が違っていたことは分かりましたが、それが部品の傾きにどのくらい影響するかは、まだ分からないんじゃないですか?」


俺はミハイルを見た。


「その通りだ」


ミハイルの顔が明るくなった。


「やりました!」


「ただし、今の指摘は正しい」


「ただし、が付いても嬉しいです!」


エルダが笑いながら言った。


「少しずつ、確認の仕方が分かってきたみたいね」


「はい! もう、何でも原因だとは言いません!」


「それは頼もしいな」


俺は帳面を指差した。


「では、次は加工台の水平だけを確認して、ほかの条件は変えずに試験しよう」


ダリオが準備を始めた。


加工台の位置はそのまま。

ガイドの位置も固定。

材料と加工手順も同じにする。


水平の調整だけを行い、試し加工を進める。


完成した部品を測定すると、端の傾きは前回より小さくなっていた。


「変化が出たわ」


エルダが数字を確認する。


「ガイドの位置を合わせたときと同じ方向に改善していますね」


「ただ、まだ完全ではない」


俺が言うと、ダリオが頷いた。


「ガイドと水平の両方が影響している可能性があるな」


「そうですね。次は両方を適正な状態にして、同じ試験を繰り返しましょう」


ミハイルが帳面に記録を追加した。


「課長。今回の結果を見て、私は一つ学びました」


「何だ?」


「原因を一つに決めると、ほかの原因が逃げます!」


「逃げる?」


「はい。原因が一つだと思い込むと、残りの問題を見なくなるということです!」


俺は少し笑った。


「表現は独特だが、言いたいことは分かる」


「ありがとうございます!」


エルダが記録帳を閉じた。


「それにしても、ここまで確認しても、まだ結論は出せないのね」


「でも、前には進んでいます」


俺は加工された部品を見た。


最初は、同じ部品なのに仕上がりが違うという問題だった。


そこから、製造履歴を調べ、厚みを測り、加工台を確認し、支え板やガイドの位置まで追いかけてきた。


少しずつ、違いが見えてきている。


「焦って一つの原因に決めるより、確かなことを積み上げた方がいい。原因が分かれば、次に同じ問題が起きたときにも対応できます」


ダリオが頷いた。


「分かった。もう少し付き合ってくれ」


「もちろんです」


そのとき、ミハイルが帳面を閉じて、満足そうに言った。


「これで、今日の記録は完璧です!」


「見せてみろ」


俺は帳面を受け取った。


加工台の水平、ガイドの位置、試験結果。


必要な項目はきちんと整理されている。


……と思ったのだが。


最後の欄に、見慣れない文字があった。


『本日の作業者の精神状態:やや前向き』


「ミハイル」


「はい!」


「これは何だ?」


「作業者の気持ちも、品質に影響するかもしれないと思いまして」


「その記録は誰が使うんだ?」


「私です!」


「自分の気分を記録してどうする」


「明日の自分が、今日の自分を理解できます!」


俺は帳面を閉じた。


「それは日記に書け」


「品質管理と日記の境界線は難しいですね……」


「難しくない」


工房に笑い声が広がった。


原因はまだ一つに絞れていない。


だが、確認すべきことは、確実に見えてきた。


そして、ミハイルの記録帳から余計な項目を取り除く作業も、まだ終わりそうになかった。


⸻


営業メモ ②⑤⑨


一つの改善で結果が変わっても、それだけが原因とは限りません。


複数の条件が関係している場合は、一度にすべてを変えず、一つずつ条件を分けて確認することが重要です。


営業でも、売上が伸びた理由を一つに決めつけず、価格・接客・陳列・客層などを分けて見直すことで、再現できる成功につながります。


⸻


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第二百六十一話 営業課長、改善した部品を実際の使い方で確かめる


加工台と位置決めガイドの調整で、部品の傾きは小さくなった。


しかし、加工時の数値が改善しただけで、商品として安心できるとは限らない。


エルダは完成した部品を使い、保温容器の開閉試験を提案する。


ミハイルは張り切るが、今度は試験の回数を数えるだけでは済まないようで……。

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