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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第二百五十七話 営業課長、数字に隠れた傾きを見つける


「課長! 私はついに、測定器を使わずに傾きを見抜く方法を発見しました!」


朝からミハイルが大声で宣言した。


アルトは手元の記録帳から顔を上げた。


「……嫌な予感しかしないな」


「今回は自信があります!」


「前回も聞いた気がする」


エルダが作業台の上に部品を並べた。


「まずは、あなたの発見を聞く前に、昨日の続きから始めましょう」


「私の発見は後回しですか?」


「後回しというより、必要かどうかを確認してからね」


ミハイルは少しだけ肩を落とした。


「では、発表の準備だけしておきます」


「発表会ではないぞ」


アルトは部品を手に取った。


昨日の測定では、留め具の端にわずかな傾きがある可能性が見つかった。厚みだけでは説明できない数値のばらつきもあり、加工面そのものを調べる必要があった。


「エルダ、今日は何を確認する?」


「まず、部品を安定した台に置いて、加工面がどの方向に傾いているかを見る。それから、問題のない部品と比較するわ」


「厚みの測定とは別に確認するんだな」


「ええ。厚みが同じでも、面が傾いていれば、蓋を閉めたときの当たり方が変わる可能性がある」


「なるほど」


ミハイルが待ちきれない様子で手を挙げた。


「では、私の方法を使いましょう!」


「聞くだけ聞こう」


「部品を机の上に置いて、転がすのです!」


「転がす?」


「傾いていれば、きっと勝手に動きます!」


アルトは部品を見た。


「それは傾きを調べているのか、部品をなくそうとしているのか、どちらだ?」


「もちろん、調査です!」


エルダは笑いをこらえながら答えた。


「転がしたら、部品の形や机の表面の影響まで受けてしまうわ。正確な確認には使えないわね」


「そうですか……」


「それに、床に落ちたら新しい傷が増える」


「それは困ります!」


ミハイルは慌てて部品を作業台の中央に戻した。


「では、私の発見は保留ということで」


「最初から採用していない」


◆


エルダは平らな確認台を用意した。


その上に問題のない部品を置き、加工面の状態を確かめる。


「まず、こちらは安定している。台との間に目立った隙間はないわ」


続いて、問題の部品を置いた。


エルダは横から目線を低くして確認した。


「……やっぱり、端にわずかな隙間がある」


アルトも同じ角度からのぞき込んだ。


「確かに、光が見えるな」


「ただ、これだけでは傾きの方向や大きさまでは分からない。別の方法でも確認する必要がある」


エルダは薄い確認用の板を取り出した。


「この板を加工面に当てて、どこに隙間ができるかを見るの。さらに、一定の位置で測定して比較する」


「なるほど。見るだけでなく、同じ条件で確認するわけだ」


「そうよ」


エルダは確認用の板を当てた。


端の一部分だけが、わずかに浮いている。


「この部分が高くなっているのかもしれない」


「加工のときに、ここだけ削り残した可能性がある?」


アルトが尋ねた。


「その可能性はあるわ。ただ、加工後の保管中に変形した可能性もゼロではない」


「原因を決めるには、加工工程の記録と照らし合わせる必要があるな」


エルダは記録帳を開いた。


「問題の部品は、加工台の調整をやり直した日に作られたものだったわね」


「そうだ。仕入れ先から調整記録をもらうことになっている」


「それが届けば、どの段階で傾きが生まれたのか、もう少し絞り込めると思う」


ミハイルが二人の会話を聞きながら、何度もうなずいていた。


「つまり、部品の傾きは、作ったときからなのか、後からなのかを確認する必要があるんですね」


「そういうことだ」


「では、私が部品を見つめ続けます!」


「見つめても傾きは直らないぞ」


「気持ちを送れば、もしかしたら……」


「部品に気持ちは届かない」


「営業の基本は気持ちを伝えることではありませんか?」


「それは人間相手の話だ」


エルダがとうとう吹き出した。


◆


しばらくして、アルトは確認台の上に並んだ部品を見比べた。


問題のない部品は、加工面がほぼ均一に仕上がっている。


一方、問題の部品には、端の一部分にわずかな高低差があった。


「この違いが、留め具の擦れにつながっている可能性はあるな」


「ええ。でも、まだ実際に蓋を閉めたときの動きと結びつける必要がある」


エルダは試験用の蓋を取り出した。


「同じ取り付け位置で、問題のない部品と問題の部品を組み合わせてみるわ」


「一度に変えるのは部品だけだな」


「そう。ほかの条件はできるだけそろえる」


エルダは最初に問題のない部品を取り付けた。


蓋を閉める。


カチッ。


滑らかに留め具が収まった。


次に、問題の部品を取り付ける。


同じ位置から蓋を閉めた。


カチッ。


音はほとんど変わらない。


しかし、エルダの指が止まった。


「少しだけ、押し込むときの感触が違う」


「見た目では分からないな」


「ええ。けれど、端の高くなっている部分が、蓋の動きに影響している可能性がある」


ミハイルが身を乗り出した。


「私にも確認させてください!」


「力を入れすぎないでね」


ミハイルは慎重に蓋を閉めた。


カチッ。


「……確かに、少し違います」


「どんなふうに?」


「問題のない部品は、最後まで自然に動きます。こちらは、最後のところで少しだけ引っ掛かる感じがします」


エルダがうなずいた。


「その感覚を記録しておこう。誰が触っても同じように感じるか、ほかの人にも試してもらいたい」


「分かりました!」


アルトは記録帳に書き込んだ。


「ただし、感触だけで判断しない。接触部分に印をつけて、どこが当たっているか確認しよう」


「そうね。接触した場所が分かれば、加工面の傾きとの関係を確かめられる」


エルダは部品の接触部分に、薄く確認用の印をつけた。


蓋をゆっくり閉める。


再び開くと、印の一部が擦れていた。


「ここね」


エルダが指さした。


「高くなっている部分と、擦れた位置が近い」


「ようやくつながってきたな」


アルトはうなずいた。


「ただし、これだけで原因が確定したわけじゃない。ほかの部品でも同じ結果になるか確認しよう」


「もちろん。複数の部品で同じ傾向が出るか調べるわ」


ミハイルが記録帳を持ち上げた。


「課長、今のところを大きく書いておきました!」


アルトがのぞくと、そこにはこう書かれていた。


『部品の出っ張りが、蓋の邪魔をしている可能性あり』


「……分かりやすいが、もう少し正確に書こう」


「難しい言葉の方がいいですか?」


「難しくする必要はない。どの部分が、どのように接触したのかを書けばいい」


「分かりました!」


ミハイルは書き直した。


『加工面の一部が高くなっており、蓋を閉めた際に接触する可能性あり』


「よし。これなら後から読んでも分かる」


「ありがとうございます!」


◆


午後、仕入れ先のダリオから連絡が届いた。


加工台の調整記録と、試し加工品の情報が確認できたという。


アルトは内容を読み、エルダに渡した。


「調整をやり直した後、確認用の部品を作っている。その後、作業を再開したらしい」


「確認用の部品は、どんな状態だった?」


「記録には、加工面の確認を行ったとある。ただし、厚みの測定は中央部分だけだったようだ」


エルダは記録を読み返した。


「端の傾きまでは確認していなかったのね」


「そう考えられるな」


「でも、これだけでは、調整後の加工台が原因だとは言えないわ。確認用の部品と、実際に出荷された部品を比べる必要がある」


アルトはうなずいた。


「ダリオには、測定位置をそろえて確認したいと伝えよう。こちらで使った方法も共有する」


ミハイルが横から口を挟んだ。


「課長、仕入れ先の確認方法と、こちらの確認方法が違っていたんですね」


「そうだ。だから、同じ条件で比べられるようにする必要がある」


「では、今回の問題は、誰かが間違えたというより、確認する場所が足りなかった可能性もあるんですね」


「その通りだ」


アルトはミハイルを見た。


「いいところに気づいたな」


「ありがとうございます!」


ミハイルはうれしそうに笑った。


「では、私の転がす方法も、確認する場所が足りなかったということで……」


「それは違う」


「やはり違いますか」


「転がす必要はない」


エルダが笑いながら、測定器を片づけた。


◆


夕方。


アルトはガルドに現状を伝えるための文面を整理していた。


まだ販売再開の見通しは立っていない。


しかし、問題の部品に加工面の傾きが見つかり、蓋を閉めた際に接触する可能性が確認できた。


原因の確定には、さらに比較試験が必要だった。


「ガルドには、どこまで伝える?」


エルダが尋ねた。


「分かったことと、まだ分からないことを分けて伝える。加工面の一部に高低差があり、蓋との接触が確認されたこと。ただし、それが擦れのすべての原因かどうかは検証中だということだ」


「販売再開の時期は?」


「まだ約束しない。試験が終わっていないからな」


「そうね」


アルトは文面を書き終えた。


そのとき、ミハイルが新しい記録表を持ってきた。


「課長、今日の測定結果をまとめました!」


「見せてくれ」


記録表には、測定位置、厚み、加工面の状態、接触した場所、試験した人の名前が整理されていた。


余計な項目はない。


「よくまとまっている。これなら仕入れ先とも共有できる」


「ありがとうございます!」


「これからも、この形式で記録していこう」


「はい!」


ミハイルは胸を張った。


「ちなみに、部品の性格欄は復活させていません!」


「それはいい判断だ」


「ですが、私の心の中では、問題の部品を『少し出っ張りがちな努力家』と呼ぶことにしました」


「心の中なら自由だ」


エルダが笑った。


工房には、いつもの明るさが戻っていた。


しかし、アルトはまだ気を抜いていなかった。


加工面の傾きが、擦れ跡の原因の一つである可能性は高まった。


それでも、加工台の調整が原因なのか、材料の状態なのか、加工後の扱いなのかは分からない。


そして、仕入れ先の記録には、もう一つ気になる点が残っていた。


調整後の確認は行われていた。


ただし、その確認では中央部分しか測っていなかった。


「エルダ。次は、端の部分も含めて同じ方法で測定しよう」


「ええ。ダリオさんにも協力してもらうわ」


「加工台の調整前と調整後、それぞれの部品を比較できれば、もう少し原因に近づける」


アルトは記録帳を閉じた。


小さな傾き。


わずかな接触。


それを見逃さないためには、作る側と使う側が同じ基準で確認する必要がある。


商品を売る前に、もう一度確かめる。


その地道な作業が、いずれ店頭での信頼を守ることになるのだった。


⸻


営業メモ ②⑤⑥


問題を見つけたときは、感覚だけで判断せず、目に見える形で確認する。


「引っ掛かる気がする」という感想を、接触位置や加工面の状態と結びつければ、改善すべき場所が具体的になる。


感覚を否定するのではなく、検証できる情報に変えることが大切。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第二百五十八話 営業課長、加工台の調整に隠れた原因を探る


仕入れ先から届いた調整記録には、確認不足の可能性が残されていた。


アルトとエルダは、加工台の調整前後で作られた部品を同じ方法で比較することに。


ところが、ダリオから新たな事実が明かされる。


調整をやり直した日、加工台だけでなく、もう一つ変更されていたものがあった。

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