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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第二百五十六話 営業課長、わずかな厚みの差を測り直す


「厚みの測定なら、私にお任せください!」


工房に入るなり、ミハイルが宣言した。


アルトは測定台の上に置かれた部品を見た。


「昨日、記録帳の欄を読み違えた人間が、今日は測定の専門家か」


「失敗から学ぶ男。それがミハイルです!」


「学んだ結果が出てから名乗ってくれ」


エルダが小さな測定器を持ち上げた。


「今回は、留め具の厚みを調べる。問題の部品と、問題のない部品。それから、仕入れ先から預かった試し加工品も比較する」


「数字が出れば、原因が分かるんですね?」


ミハイルが尋ねた。


「数字が出るだけでは駄目よ。どこを測ったか、どう測ったかも大切なの」


エルダは測定器の先端を示した。


「部品の端と中央では厚みが違うことがある。同じ場所を測らなければ比較にならない」


「なるほど。では、私が全部測ります!」


「測定器を壊さないでよ」


「私を何だと思っているんですか!」


「勢いだけで仕事を進める人」


「正解です!」


「自分で認めるな」


アルトは笑いながら、記録帳を開いた。


「今回は測定位置を決めてから始めよう。部品の端、中央、反対側の三か所。それぞれ同じ位置を測る」


「分かりました」


「測定した人の名前も残す。後で数字に違いが出たとき、誰が測ったのか分かるようにしておく」


ミハイルは胸を張った。


「つまり、私の名前が歴史に残るわけですね!」


「測定記録に残るだけだ」


「歴史への第一歩です!」


「まずは正確な数字への第一歩だ」


◆


最初にエルダが測定器を使った。


問題のない部品を固定し、決めた位置に先端を当てる。


「端がこの数値。中央がこちら。反対側は……」


エルダは数字を記録帳に書き込んだ。


次に、問題の部品を測る。


「端は少し厚い。中央はほぼ同じ。反対側は、こちらもわずかに厚いわね」


「やはり厚みが違うんですね」


アルトが確認する。


「そう。ただし、まだ差が小さい。測定位置が少しずれただけでも数字は変わる可能性がある」


エルダは測定器を置いた。


「同じ場所をもう一度測るわ」


二度目の測定。


今度は一度目とわずかに違う数字が出た。


「ほら、変わった」


ミハイルが得意げに言った。


「測定器が気分屋なのではありませんか?」


「測定器に気分はない」


「では、私たちの気分を読み取っているのかも」


「もっとない」


エルダは測定器を確認した。


「測定器そのものに問題があるとは限らない。部品を置く角度や、先端を当てる位置が少し違ったのかもしれない」


アルトは記録を見た。


「測定する人が変わっても同じ数字になるか、確認した方がいいな」


「そうね。ミハイル、やってみて」


「お任せください!」


ミハイルは測定器を手に取った。


しかし、いきなり部品を持ち上げ、測定器の先端に押し当てようとする。


「待って」


エルダが止めた。


「力を入れすぎないで。測定器は部品を押しつぶすためのものじゃない」


「失礼しました。優しく扱うのですね」


「そう。決められた力で測るの」


「分かりました。赤ちゃんを抱くようにですね」


「部品は泣かないけどね」


アルトが言うと、ミハイルは慎重に部品を置き直した。


今度はゆっくり測定器を当てる。


「端はこちら。中央はこちら……」


数字が出た。


ミハイルは記録帳に書き込んだ。


「できました!」


エルダが数字を確認する。


「私が測った結果と、少し違うわね」


「えっ?」


「中央の値が違う。もう一度測ってみて」


ミハイルは同じ位置を測り直した。


今度は別の数字が出た。


「どうしてでしょう?」


「部品の固定が甘いのかもしれない。測定器を当てるときに、少し動いている可能性があるわ」


エルダは部品を固定する小さな台を取り出した。


「これを使いましょう。測定する位置がずれないようにするの」


「最初からこれを使えばよかったのでは?」


ミハイルが言った。


「そうね。最初から使うべきだったわ」


エルダはあっさり認めた。


アルトは笑った。


「試してみたから、必要な道具が分かったんだ。失敗したこと自体より、同じ失敗を繰り返さないことが大切だ」


「では、私の測定も無駄ではなかったんですね!」


「そうだ。少なくとも、固定しないと数字が安定しないことは分かった」


「私の歴史に一行追加ですね!」


「測定台の必要性、と書いておこう」


「私の名前は?」


「小さく書いておく」


「できれば太字で!」


◆


固定台を使って測定をやり直すと、数字は少しずつ安定してきた。


エルダは三つの部品を並べた。


「問題のない部品は、三か所の厚みが比較的そろっている。問題の部品は、端の部分が少し厚い」


「試し加工品はどうですか?」


アルトが尋ねる。


「これも端が少し厚い。ただ、問題の部品と完全に同じではない」


「ということは、厚みだけが原因とは限らない?」


「ええ。厚みの差が影響している可能性はあるけれど、擦れ跡が出る仕組みまでは分からない」


エルダは部品を裏返した。


「もう一つ気になることがある」


「何でしょう?」


「同じ厚みでも、端の角度が違うものがある。厚みだけ測っても、形状の違いを見落とすかもしれない」


アルトは考えた。


「厚みと角度を別々に記録する必要があるな」


「そう。端の角度、加工面の傾き、取り付けたときの位置。それぞれ確認したい」


ミハイルが記録帳をのぞき込む。


「項目が増えてきましたね」


「必要な項目だけにする。何でも記録すればいいわけじゃない」


アルトは部品を指さした。


「今回の目的は、擦れ跡が出る条件を見つけることだ。関係がありそうな項目を記録して、結果と照らし合わせる」


「では、私が記録表を作ります!」


「頼む。ただし、項目を増やしすぎないように」


「承知しました!」


ミハイルは机に向かい、記録表を書き始めた。


しばらくして、彼が完成した紙を持ってきた。


「できました!」


アルトは受け取った。


そこには、厚み、測定位置、加工台、加工担当者、測定担当者、加工日、部品番号などが並んでいた。


ここまでは問題ない。


しかし、下の方に妙な項目があった。


「……これは何だ?」


「部品の性格です」


「性格?」


「慎重型、頑固型、気分屋型です。数字だけでは分からない特徴もあるかと思いまして」


「部品に性格診断をする必要はない」


「ですが、同じ部品でも個性があるかもしれません」


エルダが紙をのぞき込んだ。


「これは削っていいわね」


「そんな!」


「それと、部品の色もいらない。今回の比較では関係ないから」


「では、好きな色も?」


「いらない」


「嫌いな食べ物は?」


「もっといらない」


アルトは記録表を返した。


「必要な項目は残っている。余計な項目を削って、使いやすくしてくれ」


「分かりました。部品の性格は、私の心の中に記録しておきます」


「それも忘れていい」


◆


午後になり、エルダは測定結果を整理した。


「同じ部品を三回ずつ測ったけれど、固定台を使えば数値のばらつきは小さくなったわ」


「測定方法をそろえることで、比較しやすくなったわけだな」


「そう。ただ、問題の部品は端の厚みが少し大きい。ここは加工工程を確認する必要がある」


「仕入れ先に、測定結果を共有しよう」


アルトは記録帳を閉じた。


「ただし、厚みの差が原因だとは言わない。現時点では、擦れ跡との関係を確認中だと伝える」


「分かった。測定位置と方法も一緒に伝えるわ」


ミハイルが手を挙げた。


「課長、質問です!」


「何だ?」


「もし、仕入れ先と私たちで測定結果が違ったら、どちらが正しいのでしょうか?」


「いい質問だ」


アルトは少し考えて答えた。


「まず、測定方法が同じか確認する。測る位置、部品の固定方法、測定器の扱い。それが違えば、数字が違っても不思議ではない」


「では、同じ方法で測っても違ったら?」


「測定器の状態や、部品の状態を確認する。それでも違うなら、一緒に測定して原因を探せばいい」


エルダが続けた。


「数字が違ったからといって、相手が間違っていると決めつけないことね」


ミハイルは深くうなずいた。


「分かりました。数字が違ったら、まず仲良く測る!」


「仲良くという表現は少し違うが、方向性は悪くない」


「測定器同士も仲良くさせましょう!」


「測定器に友達は必要ない」


工房に笑い声が広がった。


その後、エルダは試験用の部品を手に取った。


「次は、厚みが違う部品を使って、同じ条件で組み立ててみる。取り付け位置もそろえて、閉めたときの当たり方を比べたい」


「それで擦れ跡が出るか確認するんだな」


「ええ。ただし、すぐに長期間の試験に進むのではなく、まずは閉めたときの接触状態を確認する」


アルトはうなずいた。


「一つずつ条件を変えていこう。厚み、角度、取り付け位置を同時に変えたら、何が影響したのか分からなくなる」


「そうね。今回は厚みの違いを中心に確認するわ」


ミハイルが記録表を持ってきた。


「余計な項目は削りました!」


アルトが見ると、今度は必要な項目だけが残っていた。


「よし。これなら使える」


「ありがとうございます!」


「部品の性格欄は?」


「心の中からも削除しました!」


「それでいい」


エルダは部品を測定台に置いた。


そのとき、彼女の手が止まった。


「……あれ?」


「どうした?」


「同じ部品を、固定台に置き直してもう一度測ったら、数値が少し変わった」


「固定台を使っているのに?」


「ええ。もしかすると、部品の端そのものがわずかに傾いているのかもしれない」


エルダは部品を光にかざした。


「厚みが違うのではなく、測る場所の面が傾いている可能性もある」


アルトは記録帳を見た。


「そうなると、厚みだけでなく、面の傾きも確認しなければならないな」


「そうね。測定方法も、もう一段見直す必要がある」


ミハイルが恐る恐る口を開いた。


「つまり……測定器の気分ではなかったのですね」


「最初からそう言っている」


「では、部品の気分でもない?」


「もちろんだ」


「分かりました。私の気分だけで判断しないようにします!」


「それは大切だ」


アルトは笑った。


原因に近づいたと思えば、また別の確認事項が見つかる。


しかし、少しずつ測定方法が整い、比較できる情報も増えてきた。


焦る必要はない。


確かな数字を積み重ねることが、商品の品質を守ることにつながる。


そして、エルダの手元には、まだ確認されていない小さな傾きが残されていた。


⸻


営業メモ ②⑤⑤


数字を比較するときは、測定する場所と方法をそろえる。


条件が違えば、数字の差が商品の違いなのか、測定方法の違いなのか判断できない。


正確な比較は、正確な測定条件をそろえることから始まる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第二百五十七話 営業課長、数字に隠れた傾きを見つける


厚みを測り直した結果、部品の端にわずかな傾きがある可能性が浮かび上がった。


エルダは測定方法を見直し、加工面の状態を確認することに。


一方ミハイルは、測定器を使わずに傾きを見抜く方法を思いついたと言い出す。


その方法は、果たして役に立つのか……。

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