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第二十四話 営業課長、初めての弟子志願者と出会う


王立魔法学院を訪れてから数日。


屋敷には、いつもの穏やかな時間が流れていた。


庭ではリクたちが木剣を振り回しながら元気よく遊び、アルトはテラスで蒼輝石を眺めている。


(今日は光が少し強いな……。)


朝日を浴びた蒼輝石は、昨日よりもわずかに青く輝いて見えた。


時間帯や天候でも変化するのだろうか。


まだ分からない。


だからこそ面白い。


営業でも、一度の成功で結論を出すことはなかった。


何度も観察し、共通点を探す。


その積み重ねが「確信」になる。


「旦那様。」


執事ガレスが庭へやって来た。


「王立魔法学院から、お客様です。」


「学院から?」


レオンは首をかしげる。


「誰だろうな。」



玄関に立っていたのは、学院で魔法陣の暴走を止めた若い女性研究員だった。


栗色の長い髪を後ろで束ね、紺色の研究用ローブをまとっている。


まだ二十代半ばほどだろう。


知的な瞳の奥には、研究者らしい好奇心が宿っていた。


「初めまして。」


「私はリディアと申します。」


「王立魔法学院で、魔法陣の研究をしております。」


レオンは笑顔で迎える。


「ようこそ。」


「今日はどうされました?」


リディアは少しだけ緊張した様子で頭を下げた。


「実は……お願いがあって参りました。」



応接室。


紅茶が運ばれ、穏やかな空気が流れる。


リディアはアルトを見つめ、少し照れくさそうに笑った。


「学院では、ありがとうございました。」


「あぅ。」


アルトも笑顔を返す。


(この人だ。)


魔法陣の歪みに最初に気付いた研究員。


観察力がある。


営業時代なら、一緒に仕事をしたいタイプだった。


「実は……。」


リディアは姿勢を正した。


「あの日から、ずっと考えていたんです。」


「魔法陣の歪みに、どうして私は気付けたのか。」


「普段なら見逃していたはずなんです。」


レオンが尋ねる。


「何か理由が?」


リディアは少し恥ずかしそうに笑う。


「アルト様が、あの場所を一生懸命指差していたんです。」


「最初は偶然だと思いました。」


「でも、どうしても気になって……。」


アルトは思わず固まる。


(えっ。)


気付いていたのか。


「結果的に、あの一点を確認したことで原因が見つかりました。」


「ですから私は……。」


リディアは深く頭を下げた。


「アルト様から、観察することの大切さを教えていただきました。」


部屋が静まり返る。


レオンとエマは顔を見合わせ、思わず笑みを浮かべた。


「ははは!」


「アルトはまだ赤ちゃんですよ。」


リディアも苦笑する。


「ええ、分かっています。」


「でも、不思議なんです。」


「あの子を見ていると、『もっとよく見なさい』と言われている気がして……。」


アルトは少し照れくさくなった。


(買いかぶりすぎですよ。)


営業課長。


人生初の「師匠扱い」である。



「お願いがあります。」


リディアは改めて頭を下げた。


「もしご迷惑でなければ、時々アルト様に会わせていただけないでしょうか。」


「もちろん研究対象ではありません。」


「私自身が、もっと観察力を磨きたいのです。」


レオンは少し考えたあと、穏やかに笑った。


「構いませんよ。」


「アルトにも、いろいろな人と出会ってほしい。」


「ありがとうございます!」


リディアの表情がぱっと明るくなる。



帰り際。


リディアはアルトへ、小さな木箱を差し出した。


「学院の裏庭で見つけた石です。」


「きっと、アルト様なら喜んでくださると思って。」


箱の中には、小さな蒼輝石が一つ。


しかし、その石は今まで見たものとは違っていた。


中心に、細い銀色の光が流れている。


(また新しい種類……。)


アルトの胸が高鳴る。


蒼輝石には、まだ知らない秘密がある。


そう確信できる一粒だった。


「また来ますね。」


リディアは笑顔で手を振る。


アルトも小さく手を振り返した。


「あぅ!」


その様子を見ていたエマが優しく微笑む。


「アルト様、お友達がまた一人増えましたね。」


アルトは窓の外を見つめる。


前世では、営業という仕事を通して多くの人と出会った。


信頼は、一日では生まれない。


何度も会い、話し、相手を知ることで少しずつ育っていく。


この世界でも、それは同じだった。


新しい出会いが、また一つ未来へつながっていく。



営業メモ㉓


『人は、知識よりも姿勢から学ぶ。』


営業では、優秀な先輩ほど多くを語らなかった。


真剣に相手を見て、耳を傾け、行動する姿勢が、周囲に良い影響を与える。


言葉以上に、人は背中から学ぶことがある。



――次回、第二十五話「営業課長、小さな商会を救う」


屋敷を訪れた一人の行商人。


売れ残った商品を前に頭を抱える彼を見て、アルトの営業魂が静かに目を覚ます。


「売れない」のではない。


「売り方」がまだ見つかっていないだけだった。

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