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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第1部 幼少期編

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第二十四話 営業課長、初めての弟子志願者と出会う


王立魔法学院を訪れてから数日。


屋敷には、いつもの穏やかな時間が流れていた。


庭ではリクたちが木剣を振り回しながら元気よく遊び、アルトはテラスで蒼輝石を眺めている。


(今日は光が少し強いな……。)


朝日を浴びた蒼輝石は、昨日よりもわずかに青く輝いて見えた。


時間帯や天候でも変化するのだろうか。


まだ分からない。


だからこそ面白い。


営業でも、一度の成功で結論を出すことはなかった。


何度も観察し、共通点を探す。


その積み重ねが「確信」になる。


「旦那様。」


執事ガレスが庭へやって来た。


「王立魔法学院から、お客様です。」


「学院から?」


レオンは首をかしげる。


「誰だろうな。」


◇


玄関に立っていたのは、学院で魔法陣の暴走を止めた若い女性研究員だった。


栗色の長い髪を後ろで束ね、紺色の研究用ローブをまとっている。


まだ二十代半ばほどだろう。


知的な瞳の奥には、研究者らしい好奇心が宿っていた。


「初めまして。」


「私はリディアと申します。」


「王立魔法学院で、魔法陣の研究をしております。」


レオンは笑顔で迎える。


「ようこそ。」


「今日はどうされました?」


リディアは少しだけ緊張した様子で頭を下げた。


「実は……お願いがあって参りました。」


◇


応接室。


紅茶が運ばれ、穏やかな空気が流れる。


リディアはアルトを見つめ、少し照れくさそうに笑った。


「学院では、ありがとうございました。」


「あぅ。」


アルトも笑顔を返す。


(この人だ。)


魔法陣の歪みに最初に気付いた研究員。


観察力がある。


営業時代なら、一緒に仕事をしたいタイプだった。


「実は……。」


リディアは姿勢を正した。


「あの日から、ずっと考えていたんです。」


「魔法陣の歪みに、どうして私は気付けたのか。」


「普段なら見逃していたはずなんです。」


レオンが尋ねる。


「何か理由が?」


リディアは少し恥ずかしそうに笑う。


「アルト様が、あの場所を一生懸命指差していたんです。」


「最初は偶然だと思いました。」


「でも、どうしても気になって……。」


アルトは思わず固まる。


(えっ。)


気付いていたのか。


「結果的に、あの一点を確認したことで原因が見つかりました。」


「ですから私は……。」


リディアは深く頭を下げた。


「アルト様から、観察することの大切さを教えていただきました。」


部屋が静まり返る。


レオンとエマは顔を見合わせ、思わず笑みを浮かべた。


「ははは!」


「アルトはまだ赤ちゃんですよ。」


リディアも苦笑する。


「ええ、分かっています。」


「でも、不思議なんです。」


「あの子を見ていると、『もっとよく見なさい』と言われている気がして……。」


アルトは少し照れくさくなった。


(買いかぶりすぎですよ。)


営業課長。


人生初の「師匠扱い」である。


◇


「お願いがあります。」


リディアは改めて頭を下げた。


「もしご迷惑でなければ、時々アルト様に会わせていただけないでしょうか。」


「もちろん研究対象ではありません。」


「私自身が、もっと観察力を磨きたいのです。」


レオンは少し考えたあと、穏やかに笑った。


「構いませんよ。」


「アルトにも、いろいろな人と出会ってほしい。」


「ありがとうございます!」


リディアの表情がぱっと明るくなる。


◇


帰り際。


リディアはアルトへ、小さな木箱を差し出した。


「学院の裏庭で見つけた石です。」


「きっと、アルト様なら喜んでくださると思って。」


箱の中には、小さな蒼輝石が一つ。


しかし、その石は今まで見たものとは違っていた。


中心に、細い銀色の光が流れている。


(また新しい種類……。)


アルトの胸が高鳴る。


蒼輝石には、まだ知らない秘密がある。


そう確信できる一粒だった。


「また来ますね。」


リディアは笑顔で手を振る。


アルトも小さく手を振り返した。


「あぅ!」


その様子を見ていたエマが優しく微笑む。


「アルト様、お友達がまた一人増えましたね。」


アルトは窓の外を見つめる。


前世では、営業という仕事を通して多くの人と出会った。


信頼は、一日では生まれない。


何度も会い、話し、相手を知ることで少しずつ育っていく。


この世界でも、それは同じだった。


新しい出会いが、また一つ未来へつながっていく。


⸻


営業メモ㉓


『人は、知識よりも姿勢から学ぶ。』


営業では、優秀な先輩ほど多くを語らなかった。


真剣に相手を見て、耳を傾け、行動する姿勢が、周囲に良い影響を与える。


言葉以上に、人は背中から学ぶことがある。


⸻


――次回、第二十五話「営業課長、小さな商会を救う」


屋敷を訪れた一人の行商人。


売れ残った商品を前に頭を抱える彼を見て、アルトの営業魂が静かに目を覚ます。


「売れない」のではない。


「売り方」がまだ見つかっていないだけだった。

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