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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第1部 幼少期編

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第二十一話 営業課長、初めての仮説を立てる


窓から差し込む朝日が、アルトの部屋を優しく照らしていた。


机の上には、小さな布の上へ並べられた七つの蒼輝石。


淡い青色。


濃い青色。


透き通るもの。


白く濁ったもの。


同じ蒼輝石でも、一つとして同じ輝きはない。


(面白い……。)


アルトは目を細める。


どの石からも青い魔力は流れている。


しかし、その量も流れ方も違っていた。


営業課長だった頃。


売上表を前に、数字の違いから市場の変化を読み取っていた。


「数字は嘘をつかない。」


上司によくそう言われたものだ。


(魔力も同じかもしれない。)


違いがあるなら、必ず理由がある。


◇


朝食を終えたレオンは、アルトを抱いて庭へ出た。


「今日も石を見るのか?」


「あぅ。」


「本当に好きだな。」


レオンは笑いながら蒼輝石を並べる。


アルトは順番に眺めていく。


その時だった。


(……あれ?)


一番小さな蒼輝石だけ、魔力の流れが昨日より弱い。


見間違いではない。


確かに薄くなっている。


(減ってる?)


昨日はもっと輝いていた。


今日は少しだけ暗い。


偶然だろうか。


それとも——。


「旦那様。」


エマが花壇へ水を撒き始める。


その雫が一粒、蒼輝石へ落ちた。


ぽちゃん。


その瞬間。


(……!)


石の青い光が、一瞬だけ強く揺らいだ。


アルトは息をのむ。


(今、反応した。)


ほんの一瞬だった。


だが確かに見えた。


水滴が触れた瞬間だけ、魔力の流れが変化した。


◇


(仮説を立てよう。)


営業時代。


新商品の売上が急に落ちた時、アルトはいつも三つの仮説を書き出していた。


・価格が原因か。


・季節が原因か。


・競合が原因か。


決めつけない。


まず可能性を並べる。


それが失敗しない営業だった。


(今回も同じだ。)


アルトは心の中で整理する。


一つ。


蒼輝石は時間とともに魔力が減る。


二つ。


水に触れると魔力が変化する。


三つ。


外から何かを取り込んでいる可能性がある。


まだ証拠はない。


だから結論は出さない。


(次は確認だ。)


営業課長。


異世界で初めて、自分だけの研究ノートを頭の中へ作り始める。


◇


昼過ぎ。


「アルトー!」


リクたちが屋敷へやって来た。


「また石を見つけたよ!」


「ぼくも!」


「川で拾った!」


机の上には、新しい蒼輝石が三つ並ぶ。


アルトは順番に見比べる。


(やっぱり違う。)


一つは強く光る。


一つは弱い。


そして最後の一つは——。


(……え?)


石の中を、金色の細い光が一筋だけ流れていた。


青ではない。


黄金色。


ほんの一瞬で消えてしまうほど弱い光。


(初めて見る。)


アルトは目を凝らす。


見間違いではない。


確かに存在した。


「どうした?」


リクが首をかしげる。


「あぅ。」


アルトはその石を指差した。


「これ?」


「欲しいの?」


「あぅ!」


「もちろん!」


リクは笑顔で石を渡す。


(ありがとう。)


アルトは胸の鼓動を抑えられなかった。


青だけではない。


別の種類がある。


つまり——。


(蒼輝石にも個体差がある。)


研究は、さらに面白くなってきた。


◇


その日の夕方。


屋敷の書庫。


魔法学院の老魔法使いが置いていった資料を、レオンが眺めていた。


「蒼輝石は未解明……か。」


「学院でも分からないとはな。」


アルトはその言葉を聞き逃さなかった。


(誰も答えを持っていない。)


だからこそ。


営業でも、新しい市場には教科書がなかった。


現場へ行き、自分で見て、自分で考え、自分で答えを作るしかない。


異世界でも、それは変わらない。


アルトは小さく笑った。


(営業も研究も、やることは同じだ。)


未知を恐れない。


観察し、仮説を立て、検証する。


その積み重ねが、いつか世界の常識を変える。


そんな確信が、少しずつ芽生え始めていた。


⸻


営業メモ⑳


『結論を急ぐな。仮説は何度でも修正できる。』


優秀な営業ほど、「最初の思い込み」を疑う。


事実を集め、仮説を立て、検証し、必要ならやり直す。


その繰り返しが、大きな成果につながる。


⸻


――次回、第二十二話「営業課長、王立魔法学院へ招かれる」


「その子に、一度学院を見せてみませんか。」


老魔法使いから届いた一通の招待状。


それはアルトの人生を大きく変える、新たな扉の始まりだった。

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