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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第1部 幼少期編

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第二十話 営業課長、魔法使いと出会う


朝の陽射しが、王都をやさしく照らしていた。


庭ではリクたちが今日も元気よく遊び回り、アルトの前には昨日集めた青い石が並べられている。


エマが苦笑しながら言った。


「すっかり石集めが趣味になってしまいましたね。」


「旦那様も、『男の子だからな』と笑っていましたよ。」


「あぅ。」


(趣味じゃないんだけどな……。)


アルトは心の中で苦笑する。


目の前の石からは、それぞれ違う強さの青い光が立ち上っていた。


強く光るもの。


かすかに揺れるもの。


ほとんど反応のないもの。


(やっぱり魔力の濃さが違う。)


営業時代、売上データを並べて傾向を探したことを思い出す。


数字が並べば法則が見える。


魔石も同じだ。


数を集めれば、きっと共通点が見つかる。


その時だった。


「失礼いたします。」


執事ガレスが庭へ姿を現した。


「旦那様、お客様がお見えです。」


「魔法学院の先生がお越しになりました。」


◇


応接室では、レオンと一人の老人が向かい合っていた。


深い紺色のローブ。


長く伸びた白い髭。


背筋は年齢を感じさせないほど真っ直ぐで、その瞳には鋭い知性が宿っている。


アルトはエマに抱かれながら部屋へ入ると、老人の視線がこちらへ向いた。


「ほう。」


老人は穏やかに微笑む。


「こちらがご子息ですかな。」


「ああ、アルトだ。」


「最近は石集めに夢中らしくてな。」


レオンが笑う。


「石?」


老人の眉がわずかに動いた。


「もしよろしければ見せていただけますかな。」


エマは布袋を差し出した。


老人は中から一つの青い石を取り出す。


その瞬間だった。


老人の表情が変わる。


「……これは。」


空気が静まり返る。


レオンが首をかしげた。


「何か珍しい石なのか?」


老人は石をじっと見つめる。


「旦那様。」


「この石は、どちらで?」


「屋敷の近くの林ですよ。」


「子どもたちが遊んでいて拾ったそうです。」


老人は驚きを隠せない様子だった。


「まさか……。」


「こんな場所に残っていたとは。」


アルトの胸が高鳴る。


(知っている。)


(この人は何か知っている。)


◇


老人は石を机へ置く。


「正式には『蒼輝石(そうきせき)』と呼ばれています。」


「魔力を蓄える特殊な鉱石です。」


レオンは目を丸くした。


「そんな貴重なものだったのか。」


「ええ。」


「ですが現在では、ほとんど採れません。」


「王立魔法学院でも研究用に少量保管されているだけです。」


アルトは老人の話を一言も聞き漏らすまいと集中する。


(蒼輝石……。)


(やっぱり魔法に関係していた。)


老人は石を見つめながら続けた。


「ただ一つ、不思議なことがあります。」


「この石は、魔力を蓄えることは知られています。」


「ですが、どういう仕組みで魔力を保持しているのかは、まだ誰にも分かっておりません。」


(……!)


アルトの心臓が大きく跳ねた。


未解明。


その一言が胸に刺さる。


営業時代、新市場の分析を任された時と同じ感覚だった。


「誰も分かっていない。」


だからこそ、挑戦する価値がある。


◇


「先生。」


レオンが笑う。


「うちの息子は、その石がお気に入りらしい。」


「毎日眺めていますよ。」


老人はアルトを見つめる。


その目は、赤ん坊を見る目ではなかった。


まるで、一人の研究者を見るような視線。


「坊や。」


「君には、この石がどう見える?」


「……。」


もちろん答えられない。


「あぅ。」


アルトは小さく笑うしかなかった。


老人も微笑む。


「失礼。」


「赤ん坊に聞くことではありませんでしたな。」


しかし、その瞳から疑念は消えていなかった。


◇


帰り際。


老人はレオンへ一枚の名刺代わりの木札を渡した。


「もし、また蒼輝石が見つかりましたら、ご一報ください。」


「ぜひ調査したい。」


「もちろんだ。」


老人は最後にもう一度アルトを見る。


「……面白い。」


小さくそう呟くと、静かに屋敷を後にした。


アルトは窓から去っていく背中を見送りながら、小さく拳を握る。


(蒼輝石。)


(未解明。)


(研究者。)


点だった情報が、少しずつ線になり始めている。


そして、その線はきっと、この世界の大きな秘密へつながっている。


営業課長の新しい挑戦は、まだ始まったばかりだった。


⸻


営業メモ⑲


『分からないことは、成長のチャンスである。』


営業でも、「前例がないからできない」と考える人と、「前例がないからこそ挑戦する」と考える人では、数年後に大きな差が生まれる。


未知の課題は、不安ではなく可能性でもある。


⸻


――次回、第二十一話「営業課長、初めての仮説を立てる」


蒼輝石は、なぜ魔力を蓄えられるのか。


誰も解けなかった謎に、アルトは営業時代に身につけた「仮説思考」で挑み始める。

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