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第二十話 営業課長、魔法使いと出会う


朝の陽射しが、王都をやさしく照らしていた。


庭ではリクたちが今日も元気よく遊び回り、アルトの前には昨日集めた青い石が並べられている。


エマが苦笑しながら言った。


「すっかり石集めが趣味になってしまいましたね。」


「旦那様も、『男の子だからな』と笑っていましたよ。」


「あぅ。」


(趣味じゃないんだけどな……。)


アルトは心の中で苦笑する。


目の前の石からは、それぞれ違う強さの青い光が立ち上っていた。


強く光るもの。


かすかに揺れるもの。


ほとんど反応のないもの。


(やっぱり魔力の濃さが違う。)


営業時代、売上データを並べて傾向を探したことを思い出す。


数字が並べば法則が見える。


魔石も同じだ。


数を集めれば、きっと共通点が見つかる。


その時だった。


「失礼いたします。」


執事ガレスが庭へ姿を現した。


「旦那様、お客様がお見えです。」


「魔法学院の先生がお越しになりました。」



応接室では、レオンと一人の老人が向かい合っていた。


深い紺色のローブ。


長く伸びた白い髭。


背筋は年齢を感じさせないほど真っ直ぐで、その瞳には鋭い知性が宿っている。


アルトはエマに抱かれながら部屋へ入ると、老人の視線がこちらへ向いた。


「ほう。」


老人は穏やかに微笑む。


「こちらがご子息ですかな。」


「ああ、アルトだ。」


「最近は石集めに夢中らしくてな。」


レオンが笑う。


「石?」


老人の眉がわずかに動いた。


「もしよろしければ見せていただけますかな。」


エマは布袋を差し出した。


老人は中から一つの青い石を取り出す。


その瞬間だった。


老人の表情が変わる。


「……これは。」


空気が静まり返る。


レオンが首をかしげた。


「何か珍しい石なのか?」


老人は石をじっと見つめる。


「旦那様。」


「この石は、どちらで?」


「屋敷の近くの林ですよ。」


「子どもたちが遊んでいて拾ったそうです。」


老人は驚きを隠せない様子だった。


「まさか……。」


「こんな場所に残っていたとは。」


アルトの胸が高鳴る。


(知っている。)


(この人は何か知っている。)



老人は石を机へ置く。


「正式には『蒼輝石そうきせき』と呼ばれています。」


「魔力を蓄える特殊な鉱石です。」


レオンは目を丸くした。


「そんな貴重なものだったのか。」


「ええ。」


「ですが現在では、ほとんど採れません。」


「王立魔法学院でも研究用に少量保管されているだけです。」


アルトは老人の話を一言も聞き漏らすまいと集中する。


(蒼輝石……。)


(やっぱり魔法に関係していた。)


老人は石を見つめながら続けた。


「ただ一つ、不思議なことがあります。」


「この石は、魔力を蓄えることは知られています。」


「ですが、どういう仕組みで魔力を保持しているのかは、まだ誰にも分かっておりません。」


(……!)


アルトの心臓が大きく跳ねた。


未解明。


その一言が胸に刺さる。


営業時代、新市場の分析を任された時と同じ感覚だった。


「誰も分かっていない。」


だからこそ、挑戦する価値がある。



「先生。」


レオンが笑う。


「うちの息子は、その石がお気に入りらしい。」


「毎日眺めていますよ。」


老人はアルトを見つめる。


その目は、赤ん坊を見る目ではなかった。


まるで、一人の研究者を見るような視線。


「坊や。」


「君には、この石がどう見える?」


「……。」


もちろん答えられない。


「あぅ。」


アルトは小さく笑うしかなかった。


老人も微笑む。


「失礼。」


「赤ん坊に聞くことではありませんでしたな。」


しかし、その瞳から疑念は消えていなかった。



帰り際。


老人はレオンへ一枚の名刺代わりの木札を渡した。


「もし、また蒼輝石が見つかりましたら、ご一報ください。」


「ぜひ調査したい。」


「もちろんだ。」


老人は最後にもう一度アルトを見る。


「……面白い。」


小さくそう呟くと、静かに屋敷を後にした。


アルトは窓から去っていく背中を見送りながら、小さく拳を握る。


(蒼輝石。)


(未解明。)


(研究者。)


点だった情報が、少しずつ線になり始めている。


そして、その線はきっと、この世界の大きな秘密へつながっている。


営業課長の新しい挑戦は、まだ始まったばかりだった。



営業メモ⑲


『分からないことは、成長のチャンスである。』


営業でも、「前例がないからできない」と考える人と、「前例がないからこそ挑戦する」と考える人では、数年後に大きな差が生まれる。


未知の課題は、不安ではなく可能性でもある。



――次回、第二十一話「営業課長、初めての仮説を立てる」


蒼輝石は、なぜ魔力を蓄えられるのか。


誰も解けなかった謎に、アルトは営業時代に身につけた「仮説思考」で挑み始める。

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