第十九話 営業課長、人生初の研究仲間ができる
朝日が王都の屋根を黄金色に染める頃。
アルトは窓辺の揺りかごの中で、小さな布袋をじっと見つめていた。
その中には、昨日リクから譲ってもらった青い石が入っている。
(やっぱり気になる。)
袋の上からでも分かる。
淡い青い魔力が、ゆらゆらと空気へ溶けるように流れている。
この世界で暮らす人々には見えていない。
しかし、自分にははっきり見える。
(偶然じゃない。)
営業時代、数字の小さな違和感から取引先の在庫ミスを見抜いたことがある。
周囲は「考えすぎだ」と笑った。
だが調べてみれば、本当に倉庫の管理方法に問題があった。
だから今回も同じだ。
「気になる」は放っておかない。
それが営業課長として身についた習慣だった。
「アルト様。」
エマが優しく抱き上げる。
「今日はリク君たちが遊びに来ますよ。」
「あぅ!」
思わず声が弾む。
(ちょうどいい。)
確かめたいことがあった。
◇
昼前になると、屋敷の庭は子どもたちの笑い声で賑やかになった。
「アルト!」
「来たよ!」
リクの後ろには、ミーナとカイルの姿もある。
「こんにちは!」
「ばぶ!」
「今日も元気だ!」
三人は笑いながらアルトの周りに集まった。
しばらく鬼ごっこをして遊んだあと、アルトはリクの腰につけられた小さな革袋に目を留めた。
(あれは……。)
袋の口から、昨日と同じ青い光が漏れている。
「あぅ!」
アルトは一生懸命に指を伸ばした。
「ん?」
リクは袋を開ける。
「昨日の石だよ!」
「きれいだから持ってきた!」
(やっぱりだ。)
青い石だけが光っている。
周りの小石には何も見えない。
確信はさらに強くなった。
◇
「そうだ!」
リクが突然立ち上がる。
「みんなで石探ししよう!」
「宝探しだ!」
「いいね!」
子どもたちは一斉に庭へ散っていった。
アルトは目を丸くする。
(石探し?)
思ってもみなかった展開だ。
営業でも情報収集は一人より複数人のほうが早い。
まさか異世界で、それを子どもたちが自然に始めるとは。
十分ほどすると、みんなが思い思いの石を持ち帰ってきた。
「白い石!」
「丸い石!」
「変な形!」
「つるつる!」
庭のテーブルに次々と並べられる。
アルトはエマに抱かれたまま、一つずつ見ていく。
(違う。)
白い石。
光らない。
黒い石。
光らない。
赤い石。
光らない。
そして——
(あった!)
小さな青い石。
その瞬間だけ、淡い青色の魔力がゆっくりと流れ始める。
(二つ目……いや、三つ目か。)
偶然ではない。
青い石には共通点がある。
「アルト!」
リクが笑う。
「これ好き?」
「あぅ!」
アルトは力いっぱい頷いた。
「じゃあ、これもあげる!」
「ぼくも!」
「わたしも!」
気がつけば、子どもたちが次々と青い石をアルトの前へ置いていく。
「アルトは青い石が好きなんだね!」
「見つけたら持ってくる!」
「約束!」
(えっ……。)
アルトは思わず固まった。
(これって……。)
(研究協力者じゃないか。)
本人は一言も説明していない。
それなのに、子どもたちは「アルトが喜ぶから」という理由だけで協力してくれている。
営業課長。
人生初の研究チーム結成である。
しかも平均年齢、五歳。
◇
「何をしているんだ?」
そこへレオンが庭へやって来た。
机いっぱいに並ぶ石を見て豪快に笑う。
「これはまた面白いことになっているな!」
リクが胸を張る。
「アルトのため!」
「青い石を集めてる!」
「ほう?」
レオンは一つ手に取る。
「確かに珍しい色だ。」
「ダンの話じゃ、川辺でたまに見つかるくらいらしい。」
アルトの胸が高鳴る。
(場所が分かった。)
川辺。
秘密基地の近く。
やはり産地がある。
営業時代なら、次は現地調査だ。
だが今は——
(歩けない……。)
思わず足を見る。
短い。
ぷにぷにしている。
営業課長。
最大のライバルは、自分の脚力だった。
「きゃっ。」
思わず笑ってしまう。
レオンたちは、その笑顔を見て微笑み返した。
◇
夕暮れ。
子どもたちが帰ったあと。
アルトは今日集まった青い石を並べてもらった。
一つひとつ、光り方が少し違う。
強く輝くもの。
弱く揺れるもの。
ほとんど光らないもの。
(魔力の量が違う……?)
仮説が浮かぶ。
ならば次は比較だ。
数を集めれば、きっと法則が見えてくる。
営業でも、たった一件の成功では再現性は証明できない。
十件、百件と集めて初めて「仕組み」が分かる。
魔法も同じかもしれない。
アルトは小さく拳を握った。
(焦らなくていい。)
(一つずつ確かめよう。)
その積み重ねが、いつかこの世界の常識を変える。
そんな予感がしていた。
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営業メモ⑱
『一人で集められる情報には限界がある。』
営業では、お客様や仲間から集まる「現場の声」が何よりも大切だった。
信頼関係があれば、人は自然と協力してくれる。
その積み重ねが、大きな成果への最短ルートになる。
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――次回、第二十話「営業課長、魔法使いと出会う」
集まった青い石を見つめるアルトの前に現れた、一人の老魔法使い。
その老人は、青い石を見た瞬間、驚きに目を見開く。
「……その石を、どこで手に入れた?」
物語は少しずつ、王国の大きな秘密へと動き始める。




