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第十九話 営業課長、人生初の研究仲間ができる


朝日が王都の屋根を黄金色に染める頃。


アルトは窓辺の揺りかごの中で、小さな布袋をじっと見つめていた。


その中には、昨日リクから譲ってもらった青い石が入っている。


(やっぱり気になる。)


袋の上からでも分かる。


淡い青い魔力が、ゆらゆらと空気へ溶けるように流れている。


この世界で暮らす人々には見えていない。


しかし、自分にははっきり見える。


(偶然じゃない。)


営業時代、数字の小さな違和感から取引先の在庫ミスを見抜いたことがある。


周囲は「考えすぎだ」と笑った。


だが調べてみれば、本当に倉庫の管理方法に問題があった。


だから今回も同じだ。


「気になる」は放っておかない。


それが営業課長として身についた習慣だった。


「アルト様。」


エマが優しく抱き上げる。


「今日はリク君たちが遊びに来ますよ。」


「あぅ!」


思わず声が弾む。


(ちょうどいい。)


確かめたいことがあった。



昼前になると、屋敷の庭は子どもたちの笑い声で賑やかになった。


「アルト!」


「来たよ!」


リクの後ろには、ミーナとカイルの姿もある。


「こんにちは!」


「ばぶ!」


「今日も元気だ!」


三人は笑いながらアルトの周りに集まった。


しばらく鬼ごっこをして遊んだあと、アルトはリクの腰につけられた小さな革袋に目を留めた。


(あれは……。)


袋の口から、昨日と同じ青い光が漏れている。


「あぅ!」


アルトは一生懸命に指を伸ばした。


「ん?」


リクは袋を開ける。


「昨日の石だよ!」


「きれいだから持ってきた!」


(やっぱりだ。)


青い石だけが光っている。


周りの小石には何も見えない。


確信はさらに強くなった。



「そうだ!」


リクが突然立ち上がる。


「みんなで石探ししよう!」


「宝探しだ!」


「いいね!」


子どもたちは一斉に庭へ散っていった。


アルトは目を丸くする。


(石探し?)


思ってもみなかった展開だ。


営業でも情報収集は一人より複数人のほうが早い。


まさか異世界で、それを子どもたちが自然に始めるとは。


十分ほどすると、みんなが思い思いの石を持ち帰ってきた。


「白い石!」


「丸い石!」


「変な形!」


「つるつる!」


庭のテーブルに次々と並べられる。


アルトはエマに抱かれたまま、一つずつ見ていく。


(違う。)


白い石。


光らない。


黒い石。


光らない。


赤い石。


光らない。


そして——


(あった!)


小さな青い石。


その瞬間だけ、淡い青色の魔力がゆっくりと流れ始める。


(二つ目……いや、三つ目か。)


偶然ではない。


青い石には共通点がある。


「アルト!」


リクが笑う。


「これ好き?」


「あぅ!」


アルトは力いっぱい頷いた。


「じゃあ、これもあげる!」


「ぼくも!」


「わたしも!」


気がつけば、子どもたちが次々と青い石をアルトの前へ置いていく。


「アルトは青い石が好きなんだね!」


「見つけたら持ってくる!」


「約束!」


(えっ……。)


アルトは思わず固まった。


(これって……。)


(研究協力者じゃないか。)


本人は一言も説明していない。


それなのに、子どもたちは「アルトが喜ぶから」という理由だけで協力してくれている。


営業課長。


人生初の研究チーム結成である。


しかも平均年齢、五歳。



「何をしているんだ?」


そこへレオンが庭へやって来た。


机いっぱいに並ぶ石を見て豪快に笑う。


「これはまた面白いことになっているな!」


リクが胸を張る。


「アルトのため!」


「青い石を集めてる!」


「ほう?」


レオンは一つ手に取る。


「確かに珍しい色だ。」


「ダンの話じゃ、川辺でたまに見つかるくらいらしい。」


アルトの胸が高鳴る。


(場所が分かった。)


川辺。


秘密基地の近く。


やはり産地がある。


営業時代なら、次は現地調査だ。


だが今は——


(歩けない……。)


思わず足を見る。


短い。


ぷにぷにしている。


営業課長。


最大のライバルは、自分の脚力だった。


「きゃっ。」


思わず笑ってしまう。


レオンたちは、その笑顔を見て微笑み返した。



夕暮れ。


子どもたちが帰ったあと。


アルトは今日集まった青い石を並べてもらった。


一つひとつ、光り方が少し違う。


強く輝くもの。


弱く揺れるもの。


ほとんど光らないもの。


(魔力の量が違う……?)


仮説が浮かぶ。


ならば次は比較だ。


数を集めれば、きっと法則が見えてくる。


営業でも、たった一件の成功では再現性は証明できない。


十件、百件と集めて初めて「仕組み」が分かる。


魔法も同じかもしれない。


アルトは小さく拳を握った。


(焦らなくていい。)


(一つずつ確かめよう。)


その積み重ねが、いつかこの世界の常識を変える。


そんな予感がしていた。



営業メモ⑱


『一人で集められる情報には限界がある。』


営業では、お客様や仲間から集まる「現場の声」が何よりも大切だった。


信頼関係があれば、人は自然と協力してくれる。


その積み重ねが、大きな成果への最短ルートになる。



――次回、第二十話「営業課長、魔法使いと出会う」


集まった青い石を見つめるアルトの前に現れた、一人の老魔法使い。


その老人は、青い石を見た瞬間、驚きに目を見開く。


「……その石を、どこで手に入れた?」


物語は少しずつ、王国の大きな秘密へと動き始める。

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