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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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202/256

第二百二話 営業課長、黒帳の手順を逆に利用する


 地下の旧受付保管庫。


 アルトは、端末の前から動かなかった。


 画面には、変わらず同じ表示が出ている。


 ――HB―13。


 ――S―03参照要求。


 ――処理待機。


 黒帳側からのアクセスは、そこで止まっていた。


「……来ませんね」


 フェルナンが端末を覗き込む。


「ああ」


 アルトは腕を組んだ。


「予定どおりなら、次の処理に進むはずなんだが」


「こちらが待っていることに気づいた?」


「可能性はある」


 だが、アルトは焦らなかった。


 黒帳がS―03を直接取りに来ないなら、それには理由がある。


「フェルナン」


「はい」


「S―03を狙っていると思うのはやめよう」


「え?」


「相手が欲しいのは、S―03そのものじゃない」


 アルトは端末を指した。


「S―03を入口にして、別の記録へ行きたいんだ」


 フェルナンの表情が変わる。


「……A―17?」


「ああ」


 十年前のS―03。


 七年前のA―17。


 旧番号RH―03。


 旧番号RH―11。


 そして現在の管理番号。


 これまで確認した記録は、すべて一本の経路でつながっていた。


「S―03からA―17へ」


 アルトは紙に書いた。


 さらに、


「A―17からHB―13へ」


 その下に、


「HB―13からR―2」


 そして、


「R―2からR―3」


 と続ける。


「黒帳が利用したのは、この順番だ」


「つまり、記録を一つずつ辿っていた?」


「そうだ」


 アルトは頷いた。


「でも、普通の人間にはこの順番が見えない」


 S―03だけを見れば、十年前の受付記録。


 A―17だけを見れば、七年前の原本移管。


 HB―13だけを見れば、例外案件の継承権限。


 R―2だけを見れば、継承権限の照合席。


 それぞれは別の話に見える。


 だが、古い番号と管理系統を横断すれば――。


 つながる。


「黒帳は、このつながりを知っていた」


 フェルナンが呟いた。


「そして、ラウルも気づいた」


「ああ」


 アルトは一枚の記録を取り出した。


 ラウルが残したメモ。


 ――最初に疑うべきは、帳簿ではない。


 ――この経路は一度ではない。


 ――原本は一つではない。


「ラウルが言いたかったのは、帳簿を消す人間を探せということじゃない」


 アルトはメモを見つめた。


「同じ仕組みが、何度も利用されているということだ」


 そのときだった。


 端末の表示が変わった。


 ――S―03参照要求。


 ――取消。


 フェルナンが顔を上げる。


「取消されました」


「ああ」


 アルトは画面を見た。


 その直後。


 別の表示が出た。


 ――A―17。


 ――原本参照要求。


「来た」


 アルトは立ち上がった。


「やっぱりA―17だ」


「S―03は囮だったんですね」


「いや」


 アルトは首を振った。


「囮にしたのは俺たちだが、相手がA―17へ行くこと自体は最初から決まっていた」


「どういうことです?」


「S―03の旧番号を使って、A―17の旧管理系統へつながる。それが黒帳の手順だからだ」


 アルトはRH―11の記録を取り出した。


「相手は新しい番号からA―17を探していない」


 RH―11。


 その古い番号から辿っている。


「つまり、相手は旧番号を知っている」


 フェルナンが息を呑む。


「それなら、かなり絞れます」


「そうだ」


 アルトは頷いた。


「でも、まだ名前を出すな」


「はい」


「重要なのは、誰が知っているかじゃない」


 アルトは端末を操作した。


「この旧番号を使ったアクセスが、どこから入ったかを見る」


 画面に履歴が表示される。


 ――参照元:制度運用管理区画。


 ――席番号:R―2。


 ――使用者:記録なし。


 フェルナンが唇を噛んだ。


「またR―2……」


「ああ」


 やはり個人名は残っていない。


 しかし、今回は違った。


 アルトは履歴を下へスクロールする。


 ――前処理:R―3承認経路確認。


 ――次処理:R―4原本保管経路確認。


「……出ました」


「何がです?」


「順番だ」


 アルトは画面を指した。


 R―3。


 R―4。


 そしてR―2。


 通常の処理順とは逆だった。


「本来はR―2から始まる」


 アルトが言う。


「継承権限を確認して、次にR―3、最後にR―4へ進む」


「でも、今回は?」


「R―3とR―4を先に見ている」


 フェルナンの表情が変わる。


「黒帳が、通常の確認手順を逆から辿っている?」


「そうだ」


 アルトは頷いた。


「だから、R―2の利用者だけを追っても分からない」


 R―2は最後に使われている。


 その前にR―3とR―4で必要な情報を集めている。


「承認経路を確認する」


 R―3。


「原本の場所を確認する」


 R―4。


「最後にR―2で、継承権限を使って記録へ入る」


 アルトは静かに言った。


「これが黒帳の手順だ」


 フェルナンが息を呑む。


「では、相手は……」


「もう一度言う」


 アルトはフェルナンを見る。


「まだ名前は出さない」


 黒帳を一人の犯人に結びつけるのは簡単だ。


 だが、それではこれまでと同じだ。


 必要なのは、手順そのものを証明すること。


 誰がやったかは、その後でいい。


「フェルナン」


「はい」


「R―3の承認経路記録を確認する」


「分かりました」


「七年前のA―17だけじゃない」


 アルトは記録一覧を表示した。


「十年前のS―03も出す」


 検索。


 S―03。


 承認経路。


 表示された。


 第一受付担当。


 文書管理担当。


 監査承認。


 最終承認――セドリック・ヴァーン。


 次にA―17。


 文書管理担当。


 制度運用担当。


 監査承認。


 最終承認――セドリック・ヴァーン。


「同じだ」


 フェルナンが呟く。


「最後の承認者が同じです」


「そうだ」


 だが、アルトはそこで止まらなかった。


「もう一つ見る」


「何を?」


「承認が行われる前の申請経路だ」


 S―03。


 申請――受付記録担当。


 A―17。


 申請――文書管理担当。


 一見すると違う。


 しかし、その下に共通する項目があった。


 ――原本管理系統変更に伴う補正。


 アルトは画面を見つめる。


「これだ」


「何です?」


「黒帳が必要としていたのは、承認印じゃない」


 アルトは言った。


「承認印が押される前に、管理系統が変わったことを示す記録だ」


 管理系統が変わる。


 番号が変わる。


 保管場所が変わる。


 承認経路が補正される。


 そして、その後に旧番号を知っている人間だけが過去の記録へ戻れる。


「これなら、表面上は全部正しい」


 アルトは苦笑した。


「だから厄介だったんだ」


 フェルナンも頷く。


「間違った記録がない」


「ああ」


「でも、全部をつなげると、別の使い方ができる」


「そういうことだ」


 そのとき、端末に新しい警告が表示された。


 ――R―4原本保管経路確認。


 ――対象:A―17。


 ――アクセス中。


 アルトが立ち上がった。


「相手が動いた」


「R―4ですか?」


「ああ」


「でも、さっきR―3とR―4を先に確認していると言っていましたよね」


「だからだ」


 アルトは扉へ向かった。


「相手は、今から原本の場所を確認する」


「それを追うんですか?」


「追わない」


 アルトが振り返る。


「先回りする」


 フェルナンが笑った。


「営業課長らしくなってきましたね」


「何だ、それ」


「相手より先に商談場所を押さえるやり方です」


「……まあ、似たようなものだ」


 二人は保管庫を出た。


 向かう先はR―4。


 そこにあるのは、A―17の原本保管経路。


 そして、その先には――。


 黒帳が最後に確認しなければならない情報がある。


 原本の現在地。


 アルトは歩きながら、静かに呟いた。


「ここまで来れば、もう逃げ道は少ない」


 黒帳は記録を消していない。


 番号を変えただけでもない。


 人を隠しただけでもない。


 正規の処理を積み重ね、その間にできた隙間を使っていた。


 だからこそ、その隙間を逆から辿ればいい。


 R―4。


 原本保管経路。


 アルトはその扉の前で足を止めた。


 扉の向こうに、A―17の最終的な保管場所がある。


 そしてそこには――。


 黒帳が最後に触れた記録が残っているはずだった。


営業メモ ②⓪①


営業で相手の動きを読むとき、重要なのは「相手が何をしたか」だけではない。


「なぜ、その順番で動いたのか」を見る。


通常の手順と違う順番で処理されているなら、そこには相手の目的が隠れていることがある。


承認を先に見るのか。


商品を先に見るのか。


顧客情報を先に見るのか。


順番には意味がある。


相手の行動を時系列で並べ直すだけでも、見えなかった意図が見えてくる。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第二百三話 営業課長、黒帳の最後の経路を押さえる


R―4へ到着したアルトとフェルナン。


A―17の原本保管経路を確認すると、最後の移動先に不自然な記録が残されていた。


しかも、その処理にはHB―13ではなく、別の正規権限が使われていた。


アルトは気づく。


黒帳は一つの権限だけで動いていたのではない。


複数の正規手順を組み合わせていたのだ。


だが、その手順には一つだけ、必ず残る記録がある。


アルトはそこを押さえ、ついに黒帳の実行者へ手を伸ばす。

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