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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第百九十八話 営業課長、R―3に残された承認経路


 R―2の端末が消えた。


 最後に表示された文字。


『A―17 基準照合終了』


 そして。


『次工程 R―3』


 アルトは、その表示をしばらく見つめていた。


「R―2は、ここまでか」


「はい」


 フェルナンが頷く。


「継承権限の照合が終わって、次に承認経路の確認へ移った」


「ああ」


 アルトは立ち上がった。


「なら、俺たちも追う」


 二人はR―3へ向かった。


 地下の通路は、R―2より少し狭くなっている。


 壁際には古い書類棚。


 その間に、番号の付いた小さな端末が並んでいる。


 R―1。


 R―2。


 そして。


 R―3。


 端末の前で、アルトが足を止めた。


 画面にはまだ何も表示されていない。


「ここが承認経路確認の席ですね」


「ああ」


 アルトは椅子を見た。


 R―2と違って、こちらには小さな金属板が付いている。


『R―3』


 その下に。


『承認経路確認』


 と刻まれている。


「役割は明確だな」


「はい」


「だから、ここではA―17そのものを見るんじゃない」


「A―17が、誰の承認を通って移動したのかを見る」


「ああ」


 フェルナンが端末を起動した。


 画面が明るくなる。


『R―3 承認経路照合』


『基準案件を入力してください』


 フェルナンが、


「A―17」


と入力した。


 数秒後。


 記録が表示された。


『A―17 承認経路』


『七年前四月三日』


『第一承認 文書管理担当』


『第二承認 制度運用管理担当』


『最終承認 監査承認責任者』


 アルトは眉をひそめた。


「役職だけか」


「名前がありませんね」


「旧記録を開く」


 フェルナンが操作する。


 画面が切り替わる。


『第一承認 セレナ・オルフェ』


『第二承認 制度運用担当』


『最終承認 セドリック・ヴァーン』


 アルトの目が止まった。


「やっぱりセドリックか」


 だが。


 ここまでは予想できた。


 十年前。


 S―03。


 セドリックの承認。


 七年前。


 A―17。


 セドリックの承認。


 同じ人物が、異なる時期の例外案件に関わっている。


 しかし。


 それだけなら、異常とは言えない。


 当時の役職上、承認する立場だったからだ。


「もう少し細かく見る」


 アルトが言った。


 フェルナンが詳細記録を開く。


『承認日時』


 十四時五十二分。


『承認方式』


 通常承認。


『承認者確認』


 済。


 ここまでは問題ない。


 だが。


 その下。


『承認経路補正』


 という項目があった。


 フェルナンが読み上げる。


「承認経路補正……?」


「ああ」


「こんな項目、普通の承認記録にはありません」


「開いてくれ」


 フェルナンが操作する。


 表示されたのは一行だった。


『原本移管に伴う承認経路補正』


 アルトの目が細くなる。


「何を補正した?」


 詳細を開く。


 すると。


『A―17保管区画変更に伴い、原本管理責任部署を変更』


 その下。


『旧管理――第一受付保管庫』


『新管理――制度運用管理区画』


 さらに。


『原本管理責任者の変更に伴い、承認経路上に制度運用担当を追加する』


 フェルナンが画面を見つめた。


「そういうことですか」


「ああ」


 アルトは頷いた。


「A―17そのものを移したから、承認経路を変えるんじゃない」


「原本の管理責任が変わるから?」


「その通り」


 アルトは記録を指で追った。


「第一受付保管庫にある間は、受付側が原本を管理する」


「だから通常の受付・文書管理経路で処理できる」


「ああ」


「でも、制度運用管理区画へ移したら?」


「原本の管理責任が制度運用側へ移る」


 つまり。


 保管場所だけを変更するわけではない。


 原本を管理する責任そのものが変わる。


 だから。


 承認経路にも、その責任部署を組み込む必要がある。


「それなら、承認経路補正は普通の処理ですね」


「少なくとも、補正が必要になった理由は説明できる」


 アルトは画面をさらに下へ送った。


「問題は、その補正を誰が承認したかだ」


 フェルナンが記録を開く。


『補正申請者――文書管理担当』


『補正理由――原本管理責任部署変更』


『補正内容――制度運用担当を承認経路へ追加』


 そして。


『最終承認――セドリック・ヴァーン』


 フェルナンが顔を上げた。


「セドリックが、補正そのものを承認している」


「ああ」


「でも、なぜセドリックなんです?」


 アルトは七年前の組織記録を呼び出した。


『セドリック・ヴァーン』


『役職――監査承認責任者』


 アルトは画面を指した。


「この時点で、セドリックは監査承認責任者だ」


「つまり、承認経路を最終確定する立場」


「ああ」


 アルトは続ける。


「だから、ここで重要なのは『セドリックがA―17を移した』わけじゃないことだ」


「はい」


「A―17を移す必要が生じた」


「それによって原本管理責任部署が変わる」


「だから承認経路を補正する申請が出る」


「そして、その補正を最終承認する権限を持っていたのがセドリック」


「その通りだ」


 これなら。


 セドリックの名前が記録に残っている理由が、一本につながる。


 A―17の移管。


 原本管理責任の変更。


 承認経路の補正。


 そして。


 その最終承認。


 すべてが一つの業務処理としてつながっている。


「ここまでは、むしろ自然です」


 フェルナンが言った。


「ああ」


 アルトも頷いた。


「問題は、その先だ」


 画面を下へ送る。


『補正内容』


『文書管理担当』


 から。


『文書管理担当』


『制度運用担当』


 へ。


 制度運用担当が一つ追加されている。


 その横。


『承認済』


『セドリック・ヴァーン』


 さらに。


『補正後経路 登録完了』


 アルトの目が止まった。


「ここまでは全部つながってる」


「はい」


「補正理由もある」


「申請もある」


「セドリックの承認もある」


「はい」


 アルトは画面を閉じずに言った。


「だからこそ、次を見る」


 別の記録を開く。


『補正後承認経路 反映完了』


 その下。


『原本記録 更新完了』


 アルトの指が止まる。


「……更新完了?」


「はい」


「じゃあ、なぜR―3では不一致が出た?」


 フェルナンが黙る。


 アルトは二つの記録を並べた。


 一つは承認台帳。


『文書管理担当

↓

制度運用担当

↓

監査承認』


 もう一つは原本側の記録。


『文書管理担当

↓

監査承認』


 制度運用担当が。


 消えている。


「おかしい」


「承認台帳では補正済みなのに」


「原本側には反映されていない」


 アルトは画面を見つめた。


「つまり、補正処理そのものが問題だったんじゃない」


「その後の反映が問題?」


「ああ」


 七年前。


 A―17の移管には正当な理由があった。


 R―2で継承権限を確認した。


 原本の管理責任部署が変わった。


 その結果。


 承認経路の補正申請が発生した。


 そして。


 当時の最終承認責任者だったセドリックが、それを承認した。


 ここまでは。


 すべて説明できる。


 だが。


 承認台帳と原本側の記録が一致していない。


 アルトは低い声で言った。


「本当に追うべきなのは、セドリックが承認した理由じゃない」


「では?」


「セドリックが承認したあと、補正された経路がどこまで反映されたのかだ」


 フェルナンが息を呑む。


「……誰かが反映を止めた?」


「まだ断定するな」


 アルトは首を横に振った。


「システム上の反映失敗かもしれない」


「手動処理の漏れかもしれない」


「ああ」


「あるいは、原本側だけ別の記録を使った可能性もある」


 アルトは頷いた。


「だからR―4を見る」


 原本保管経路。


 そこに行けば。


 A―17が実際にどの経路で管理されたのかが分かる。


「承認記録だけじゃない」


 アルトは立ち上がった。


「正式に承認された経路が、原本の管理現場で本当に使われたのかを見る」


 そして。


「そこに制度運用担当が存在していたのか」


 アルトはR―3の端末を閉じた。


「それを確認する」


 フェルナンも立ち上がった。


「R―4へ」


「ああ」


 二人は扉へ向かった。


 その背後で。


 R―3の画面に小さな文字が残っていた。


『補正理由――原本管理責任変更』


『補正申請――文書管理担当』


『補正承認――セドリック・ヴァーン』


『補正後経路――登録完了』


『原本側反映――不一致』


 そして。


 最下段。


『不一致発生地点――特定不能』


 アルトは、その文字を見ていた。


「……特定不能、か」


 補正理由は分かっている。


 申請者も分かっている。


 承認者も分かっている。


 補正された経路も分かっている。


 それなのに。


 最後の一カ所だけが分からない。


 誰が止めたのか。


 どこで止まったのか。


 なぜ原本側だけが違う経路を残したのか。


 そこだけが。


 記録から抜け落ちている。


 それは。


 人間の名前ではなかった。


 席番号でもない。


 ただ。


 システムが残した。


 一つの空白だった。


営業メモ ①⑨⑦


承認を見るときは、「誰が承認したか」だけでは足りない。


重要なのは、


「何を承認したのか」


「その前に何が変更されたのか」


「変更された内容が、次の工程に正しく反映されたのか」


まで追うこと。


今回のA―17では、承認経路の変更自体は正式な処理として記録されていた。


問題は、その変更と原本側の経路が一致していなかったこと。


営業でも同じ。


決裁が下りたからといって、現場の処理まで同じとは限らない。


書類。


システム。


現場。


この三つが一致して初めて、本当に話が通っている。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百九十九話 営業課長、二つの承認経路を照合する


R―3で見つかった異常。


承認記録上の経路と、原本側に残された経路が一致していなかった。


アルトはR―4へ向かい、A―17の原本保管経路を確認する。


そこで見つかったのは。


七年前の正式な保管記録と、別の保管番号。


さらに、その番号をたどると。


十年前のS―03に残された、もう一つの受付記録へつながっていた。


そして。


二つの承認経路の最後に、同じ承認印が残っていた。

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