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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第百九十七話 営業課長、R―2に最後に座った男


 地下の廊下に、アルトたちの足音だけが響いていた。


 先ほど動いたR―2の椅子。


 その先に、人の気配はない。


 アルトは歩みを止めると、周囲を見回した。


「フェルナン」


「はい」


「R―2は、人を呼ぶための席じゃない」


「……継承権限を照合するための席」


「ああ」


 アルトは頷いた。


「だから、誰かがここを使っているなら、まず確認しなきゃいけないものがある」


「継承元と、継承先ですか?」


「ああ」


 アルトは端末へ戻った。


 画面にはまだ、


『R―2 使用中』


と表示されている。


 その下には、


『照合セッション 開始済』


 そして。


『照合対象 A―17』


 アルトは目を止めた。


「……A―17」


「またですか?」


 フェルナンが画面を見る。


「今度は、何でA―17なんでしょう」


「そこを間違えるな」


 アルトは画面から目を離さなかった。


「誰かがA―17を調べているとは限らない」


「え?」


「R―2は、継承権限を照合する席だ」


 アルトは表示を指した。


「照合を始めるとき、まず基準になる案件が必要になる」


「基準になる案件……」


「ああ」


 アルトは七年前の記録を開いた。


『R―2 新設』


『関連案件 A―17』


 続いて。


『初回照合 A―17』


「R―2が作られたとき、最初に継承権限を照合した案件がA―17だった」


 フェルナンが頷く。


「だから現在の照合セッションでも、最初にA―17が呼び出される」


「ああ」


 つまり。


 現在の照合対象がA―17なのは、偶然ではない。


 R―2という席の運用履歴に、A―17が最初の基準案件として登録されているからだ。


 アルトはさらに画面を開いた。


『基準案件 A―17』


『継承元 旧受付保管系統』


『継承先 制度運用管理系統』


『適用条項 第十三条』


 その下。


『照合項目』


『①継承権限の発生元』


『②継承先の履歴』


『③現在の継承状態』


 アルトが指を止める。


「これなら、今の動きが分かる」


「どういうことです?」


「現在の使用者は、A―17そのものを追ってるんじゃない」


 アルトは画面を見た。


「A―17を基準にして、HB―13の継承状態を確認している」


「……」


「つまり、R―2本来の使い方だ」


 フェルナンが息を吐いた。


「では、今のところR―2の使用自体には不自然なところはない?」


「ああ」


 アルトは即答した。


「少なくとも、ここまではな」


 問題は。


 その照合のあとに何が起きるかだ。


 アルトは照合履歴を開いた。


 七年前。


 A―17。


 R―2。


 エドガー・ミルズ。


 十四時十二分。


 照合内容。


『継承元・継承先確認』


 その二十六分後。


 セレナ・オルフェ。


 R―2。


『原本移管に伴う継承状態確認』


 そして。


 十五時〇七分。


『A―17 保管区画変更』


 第一受付保管庫。


 から。


 制度運用管理区画へ。


「R―2がA―17を移したわけじゃない」


 アルトが言う。


「R―2で継承状態を確認したあと、別の移管処理が行われた」


「はい」


「だから、R―2の役割とA―17の移管を混同しちゃいけない」


 アルトは記録を整理した。


「R―2は確認する」


「移管処理は別の担当が行う」


「そして、その移管を承認するのが別の経路」


 フェルナンが頷く。


「だからR―2、R―3、R―4が分かれている」


「ああ」


 アルトは三つの席を順番に指した。


「R―2が継承権限」


「R―3が承認経路」


「R―4が原本保管経路」


 役割は分かれている。


 だからこそ。


 複数の席の記録をつなげれば、一つの案件がどう動いたかを再現できる。


「ラウルも、それをやろうとした」


 アルトが呟いた。


「R―2だけでは足りない」


 継承権限を見る。


 承認経路を見る。


 原本保管経路を見る。


 それぞれを別々に確認する。


「だからラウルは、R―2で止まったあとにS―03へ戻った」


「あ……」


 フェルナンが気づく。


「S―03の承認経路と、A―17の原本保管経路を別々に追った」


「ああ」


 アルトは頷いた。


「直接R―2を追うんじゃなく、別の記録から同じ流れを確認した」


 そのとき。


 端末の表示が変わった。


『基準案件 A―17』


『継承状態 確認完了』


 アルトが息を止める。


 次の一行。


『次工程――』


 そこだけが空白になっている。


「……次工程が空欄?」


 フェルナンが画面を覗き込む。


「違います」


「え?」


「表示が切り替わっています」


 画面の下に、新しい文字が浮かんだ。


『関連確認席を検索中』


 数秒後。


『R―3』


 アルトの表情が変わる。


「来たな」


「R―3……」


「ああ」


 R―2で継承権限を確認した。


 その結果。


 次に確認すべき席としてR―3が呼び出された。


 これは偶然ではない。


 制度そのものが持っている処理の順番だった。


「つまり」


 フェルナンが言う。


「今、地下にいる誰かは、R―2からR―3へ進もうとしている」


「ああ」


 アルトは画面を見つめる。


「そして、そこから先は承認経路だ」


 その瞬間。


 奥の区画から。


 カチッ。


 小さな音がした。


 二人が振り返る。


 暗い通路。


 その先にあるR―3の端末が、一つだけ点灯していた。


 アルトは歩き出した。


「フェルナン」


「はい」


「今度は、R―2を追うんじゃない」


「R―3で何が確認されるのかを見る」


「ああ」


 アルトは頷いた。


「それで初めて、A―17が七年前に何を通したのか分かる」


 二人はR―3へ向かった。


 その背後で。


 R―2の端末に、最後の一行が表示された。


『A―17 基準照合終了』


 そして。


『次工程 R―3』


 R―2は。


 ただ次の席へ、案件を渡しただけだった。


営業メモ ①⑨⑥


一つの処理を追うとき、「なぜ今、その対象が選ばれているのか」を確認する。


今回のA―17も、誰かが突然思いついて調べ始めたわけではない。


R―2の運用上、A―17が基準案件として登録されている。


だから、


R―2

→A―17

→継承権限確認

→R―3

→承認経路確認


という流れが生まれる。


営業でも同じ。


「なぜこの案件なのか」


「なぜこの順番なのか」


「次に何が起きる仕組みなのか」


そこまで見れば、担当者の行動だけでは見えない業務フローが見えてくる。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百九十八話 営業課長、R―3に残された承認経路


R―2でA―17の継承権限照合が終了した。


次に呼び出されたのは、承認経路を確認するR―3。


アルトは七年前のR―3記録を開く。


そこには、A―17の移管を承認した経路が残っていた。


そして。


エドガーがR―2を使った十四時十二分から、セレナが確認を終えた十四時三十八分までの間に。


一つだけ、通常とは違う承認操作が行われていた。


その承認印は。


十年前のS―03にも残っていた。

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