↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
186/267

第百八十六話 営業課長、ラウル最後の日の三つの記録


「ラウルが最後に見た三つの記録……」


アルトは机に並べた資料を見つめていた。


RK・37。


S・03照合報告。


承認経路変更履歴。


三年前。


ラウルは、この三つを同じ日に閲覧している。


偶然とは思えない。


「フェルナン」


「はい」


「三年前のラウルの一日を、最初から追う」


「最後の閲覧記録だけではなく?」


「そうだ」


アルトは椅子を引いた。


「人間は、いきなり最後の資料を見るわけじゃない」


「その前に何かしていますからね」


「そういうことだ」


フェルナンが記録を広げる。


出勤記録。


閲覧申請。


資料受付。


移動記録。


昼休憩。


退勤記録。


一枚ずつ。


時刻順に並べていく。


「ありました」


フェルナンが指を止めた。


「三年前の四月十二日」


「ラウルの最後の出勤日か?」


「はい」


アルトが日付を見る。


「朝は?」


「八時四十七分」


「通常出勤?」


「通常です」


「その日の予定は?」


フェルナンが勤務予定表を見る。


「……何もありません」


「何も?」


「定例監査も、会議も、外部対応もありません」


アルトは眉を寄せた。


「じゃあ、何のために来た?」


フェルナンが次の記録を確認する。


「八時五十四分」


「何だ?」


「資料閲覧申請です」


「資料は?」


フェルナンが読む。


「S・03照合報告」


アルトは黙った。


「出勤して七分後に、自分から資料を見に行っている」


「はい」


「しかも勤務予定にはない」


「自主調査ですね」


「そう考えるのが自然だ」


アルトは記録を指差した。


「次」


「九時二分、資料庫入室」


「S・03照合報告を確認」


「はい」


「どれくらい?」


「十八分です」


「十八分……」


アルトは以前の閲覧記録を思い出した。


三年前。


ラウルは同じ棚を十八分間見ていた。


偶然ではない。


「その後は?」


「九時二十一分、資料返却」


「次の記録は?」


「九時二十七分」


フェルナンが紙をめくる。


「RK・37の閲覧申請」


アルトが顔を上げた。


「六分後か」


「はい」


「RK・37はどこにあった?」


「第一保管庫です」


「移管された後だな」


「はい」


ラウルはRK・37を確認した。


そして。


「何分見ている?」


「三十一分です」


「S・03より長い」


「はい」


アルトが考え込む。


「何かを照合していたんだ」


「十年前の報告とRK・37を?」


「おそらく」


フェルナンがRK・37の閲覧記録を確認する。


「閲覧したのはラウルだけではありません」


「誰だ?」


「記録上は、三日前に文書管理課の担当者が一度」


アルトの目が細くなる。


「エドガーか?」


「違います」


「誰だ?」


「名前がありません」


「また空欄か」


「はい」


アルトはため息をついた。


「本当に便利な空欄だな」


フェルナンが苦笑する。


「記録担当者には便利でしょうね」


「調べる側には最悪だ」


二人は記録を続ける。


「十時三分」


「何をした?」


「承認経路変更履歴の閲覧申請」


アルトが椅子から少し身を乗り出した。


「三つ目」


「はい」


「閲覧開始は?」


「十時十一分」


「終了は?」


「十時四十二分」


「三十一分」


フェルナンが頷く。


「三つとも、かなり時間をかけています」


「ただ見ただけじゃない」


アルトは記録を並べる。


S・03。


RK・37。


承認経路変更履歴。


「順番にも意味がある」


「最初に自分の報告」


「次に対象資料」


「最後に承認経路」


「つまり」


アルトは三枚を重ねた。


「自分が見つけた異常が、実際の案件でも同じように起きているか確認した」


フェルナンが息を呑む。


「十年前の疑いを、三年前にもう一度検証した」


「そうだ」


そのとき。


フェルナンが別の記録を見つけた。


「待ってください」


「何だ?」


「十時五十六分」


「閲覧記録か?」


「違います」


フェルナンが読む。


「資料請求」


「何を?」


「承認経路変更履歴の原本」


アルトの表情が変わった。


「原本?」


「はい」


「コピーじゃない?」


「原本です」


「保管場所は?」


フェルナンが確認する。


「第二文書保管庫」


アルトは立ち上がった。


「そこだ」


「何がです?」


「第182話で見つけた場所だ」


第二文書保管庫。


RK・37が最初に保管されていた場所。


そして。


原本が消えた場所。


「ラウルは」


アルトが低く言った。


「最後の日に、原本を探している」


二人はさらに記録を追った。


十一時十二分。


ラウル。


第二文書保管庫へ入室。


十一時二十八分。


資料閲覧。


十一時四十三分。


資料返却。


「原本を見た時間は?」


「十五分です」


「持ち出し記録は?」


「ありません」


「コピーは?」


「ありません」


「じゃあ、何をした?」


フェルナンが資料庫記録を確認する。


「……閲覧備考があります」


「読んでくれ」


「『原本照合。記載内容確認』」


アルトが眉を寄せた。


「それだけ?」


「はい」


「ラウル本人の記入か?」


「本人の署名があります」


アルトはその署名を見る。


「でも、これだけじゃない」


「何がです?」


「備考欄の筆圧が違う」


「筆圧?」


「後から書き足している」


フェルナンが目を近づける。


「……本当だ」


最後の四文字。


『記載内容確認』


そこだけ筆圧が強い。


「最初に書いた文章を消して、後から書き直した?」


「そう考えると自然です」


アルトは原本照合記録を見つめた。


「ラウルは誰かに見られることを警戒していた」


「だから内容を曖昧にした?」


「かもしれない」


昼。


十二時三分。


ラウルは監査局の食堂に入っている。


十二時三十七分。


退席。


十三時一分。


監査受付。


そして。


「エドガー」


フェルナンが声を上げた。


「十三時四分、エドガー・ミルズと接触しています」


アルトが顔を上げる。


「場所は?」


「監査受付前」


「時間は?」


「九分」


「何を話した?」


「記録にはありません」


「監視記録は?」


「ありません」


アルトは黙った。


「ただ」


フェルナンが続ける。


「エドガーの勤務記録には、十三時四分から十三時十三分まで『文書確認』とあります」


「ラウルとの接触時間と一致する」


「はい」


アルトはエドガーの記録を見る。


「二人は何を確認した?」


「それが……」


フェルナンが一枚の紙を出す。


「エドガーが、その日の午後に文書管理課へ入庫した記録があります」


「何を?」


「一件だけです」


アルトが紙を見る。


『旧承認経路記録』


「……ラウルが探していたものと同じか?」


「分かりません」


「保管番号は?」


「空欄です」


アルトは額を押さえた。


「また空欄か」


「今回は笑えませんね」


「最初から笑ってない」


「ですよね」


だが。


その直後。


エドガーの勤務記録に。


手書きの追記があった。


『旧資料について、ラウル氏より照会あり』


アルトが止まる。


「これは重要だ」


「エドガーが書いたんでしょうか?」


「分からない」


「でも、ラウルが資料について聞いた」


「それは確定した」


そして。


その下に。


もう一行。


『該当資料については、現時点での閲覧を推奨せず』


「……閲覧を推奨せず?」


フェルナンが呟く。


「誰が書いたんだ?」


「記録者名はありません」


アルトは目を細めた。


「エドガーは、ラウルに警告した」


「そう考えられますね」


「でも」


アルトは首を振る。


「ここでエドガーを犯人扱いするのは早い」


「なぜ?」


「警告する側なら、少なくともラウルに何かを知らせようとしている」


「……」


「エドガーは何かを知っていた」


「でも、ラウルを消した側かどうかは分からない」


「そうだ」


二人はさらに記録を追った。


午後二時十六分。


ラウル。


第一保管庫。


午後二時二十三分。


閲覧記録。


午後二時四十一分。


退室。


「何を見た?」


フェルナンが読む。


「RK・37関連の承認経路変更履歴」


「またか」


「三回目です」


「違う」


アルトが指を差した。


「これは追加履歴だ」


「追加?」


「十年前の記録じゃない」


フェルナンが確認する。


「……三年前の変更です」


「誰が変更した?」


「起案者、空欄」


「承認者?」


「セドリック・ヴァーン」


アルトが息を吐く。


「ここで繋がった」


十年前。


承認経路が変更された。


三年前。


同じ案件に関係する承認経路が再び変更された。


そして。


どちらにも。


同じ承認印。


「ラウルはこれを見つけたんだ」


フェルナンが呟く。


「十年前と三年前」


「同じ方法が使われていた」


「だから最後に確認した」


「そうだ」


午後三時十七分。


ラウル。


自席へ戻る。


そして。


十五分間。


誰とも接触していない。


「何をしている?」


フェルナンが記録を見る。


「個人記録への書き込みです」


「手帳か?」


「はい」


「内容は?」


「分かりません」


「手帳の所在は?」


フェルナンが固まる。


「……ありません」


「ラウルの私物記録は?」


「三年前の最後の出勤日を境に、記録がありません」


アルトは静かに息を吐いた。


「でも」


「はい」


「手帳の内容は、何か残っているはずだ」


「どこに?」


アルトはラウルの最後の閲覧記録を見る。


「本人が資料庫に残したメモだ」


午後三時三十四分。


ラウル。


第三資料庫。


閲覧記録。


『S・03照合報告』


再度閲覧。


「また?」


フェルナンが驚く。


「三回目だ」


「なぜ?」


「最初と最後で違いを確認したんだ」


アルトが記録を見る。


「閲覧時間は?」


「四分」


「短い」


「何を確認したんでしょう?」


アルトはS・03照合報告の写しを取り出した。


そして。


一番下を見る。


「ここだ」


「何です?」


「報告書の余白」


小さな文字。


十年前。


ラウル本人の筆跡。


『この経路は一度ではない』


フェルナンが息を呑む。


「これ……」


「十年前から気づいていた」


「それを三年前にもう一度確認した」


「そうだ」


アルトは裏面を確認する。


すると。


別の筆跡があった。


小さな追記。


『最初に疑うべきは、帳簿ではない』


フェルナンが顔を上げる。


「第182話で見つけたものと同じです」


「違う」


アルトは首を振る。


「これは十年前の記録だ」


「……」


「つまり、ラウルは十年前から帳簿そのものを疑っていなかった」


「では、何を?」


アルトは承認経路変更履歴を見る。


「帳簿を動かしている仕組みだ」


そのとき。


午後四時二分。


ラウル。


最終閲覧。


『承認経路変更履歴』


フェルナンが読み上げる。


「閲覧終了、四時三十七分」


「その後は?」


「記録がありません」


「退勤は?」


「五時十二分」


「一時間以上空いている」


「はい」


アルトは立ち上がった。


「その一時間を調べる」


しかし。


そこには。


何もなかった。


入退室記録。


なし。


資料閲覧。


なし。


面談記録。


なし。


電話記録。


なし。


「全部ない?」


「はい」


「じゃあ、ラウルは何をしていた?」


フェルナンが困惑する。


アルトは考え込む。


「記録を残したくなかった」


「本人が?」


「そうだ」


「なぜ?」


アルトは最後の閲覧記録を見る。


四時三十七分。


その直後。


記録が途切れている。


「誰かに気づかれたんだ」


「調査していることに?」


「そう考えるのが自然だ」


そして。


五時十二分。


退勤記録だけが残っている。


「待ってください」


フェルナンが声を上げる。


「退勤記録があるなら、その間も追えるんじゃ?」


「何を?」


「退勤処理をした端末」


フェルナンが別の記録を開く。


「ありました」


「誰が?」


「ラウル本人です」


アルトが息を吐く。


「じゃあ、最後まで自分で帰るつもりだった」


「そうなります」


「つまり」


アルトは資料を見つめた。


「この時点では、逃げるつもりじゃない」


「はい」


「失踪を計画していたわけでもない」


「はい」


そのとき。


別の記録が見つかった。


退勤処理から三分後。


五時十五分。


文書管理課。


呼び出し記録。


『ラウル・セディア 至急来室』


フェルナンの顔が強張る。


「……文書管理課から呼び出されています」


アルトはその記録を見つめた。


「これが最後だ」


「その後は?」


「何もない」


「入室記録は?」


「ある」


「退室は?」


フェルナンが確認する。


「……ありません」


アルトの目が細くなる。


ラウルは。


自分で退勤処理をした。


その三分後。


文書管理課から呼び出された。


そして。


その後の退室記録がない。


「これで」


アルトは静かに言った。


「ラウル最後の日の行動が繋がった」


朝。


S・03照合報告。


その後。


RK・37。


続いて。


承認経路変更履歴。


原本照合。


エドガーとの接触。


三年前の変更履歴を発見。


十年前と同じ手口だと気づく。


そして。


最後に。


何かを手帳へ記録する。


退勤。


その三分後。


文書管理課から呼び出し。


「ラウルは」


フェルナンが呟く。


「最後まで逃げようとしていたわけじゃない」


「そうだ」


「普通に仕事を終えるつもりだった」


「そうだ」


「でも、その直後に呼び出された」


アルトは頷いた。


「ここが境目だ」


そして。


アルトは第四の記録を探し始めた。


「第四の記録?」


「そう」


「三つじゃないんですか?」


「違う」


アルトは首を振る。


「三つの資料を見た理由を証明する記録が、もう一つある」


「どこに?」


「ラウルが最後に残したものだ」


二人は。


ラウルの閲覧記録。


人事記録。


文書管理記録。


そして。


古い受付記録を重ねた。


やがて。


フェルナンの指が止まった。


「……ありました」


「何だ?」


「資料請求票です」


「誰の?」


「ラウルです」


「日付は?」


「最後の日」


「内容は?」


フェルナンが紙を読む。


そして。


言葉を失った。


「どうした?」


「……これ」


アルトが紙を受け取る。


そこには。


たった一行。


『十年前のS・03と、現在のRK・37は同じ経路を通っている』


その下に。


小さな文字が続いていた。


『次に消されるのは、記録ではない』


アルトは。


しばらく。


何も言わなかった。


「……ラウルは」


フェルナンが震える声で言う。


「自分が消されることを?」


「まだ分からない」


アルトは首を振った。


「でも」


紙を握りしめる。


「危険が迫っていることには気づいていた」


そして。


最後の一行。


そこには。


こう書かれていた。


『原本は一つではない』


アルトの目が鋭くなる。


「原本は一つではない……」


フェルナンが呟く。


「それが第四の記録?」


「違う」


アルトは資料を見つめた。


「これは、次の場所を示している」


ラウルが最後の日に残した。


最後の手がかり。


それは。


RK・37でも。


S・03でも。


承認経路変更履歴でもなかった。


その三つを繋ぐ。


もう一つの原本。


アルトはゆっくり立ち上がった。


「フェルナン」


「はい」


「ラウルが最後に向かった場所を探す」


「文書管理課では?」


「その前だ」


「前?」


アルトは資料を指差した。


「この一行を書いた直後、ラウルがどこへ行ったのか」


黒帳の奥には。


まだ。


ラウルが最後に残した場所がある。


そして。


そこには。


十年前から誰にも見つけられていない。


もう一つの原本が眠っているかもしれなかった。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ ①⑧⑤


人の最後の行動を調べるときは、「最後に何をしたか」だけでは足りない。


その前に何を確認し。


誰と会い。


何を発見し。


その結果として最後の行動を取ったのか。


順番を追うことが重要になる。


今回のラウルも、


S・03を見る。


RK・37を見る。


承認経路を見る。


原本を確認する。


エドガーと接触する。


そして最後に記録を残す。


一つ一つは別の行動に見える。


しかし、順番に並べれば、一つの目的に向かって動いていたことが分かる。


営業でも同じ。


「最後に何を言ったか」だけではなく、


その前に何を聞いたのか。


誰と話したのか。


何を見せられたのか。


何に反応したのか。


そこまで追えば、相手の本当の意図が見えてくる。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百八十七話 営業課長、ラウルが最後に向かった場所


ラウルが最後に残した一行。


『原本は一つではない』


アルトは、その意味を追う。


そして三年前の入退室記録を調べると、ラウルが文書管理課へ呼び出される直前、別の場所へ立ち寄っていたことが判明する。


そこは。


十年前にS・03照合報告が作られた場所だった。


さらに。


その場所の保管記録には、ラウル本人の名前ではなく――。


S・03というコードだけが残されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。