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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第百七十八話 営業課長、S―11の現在の使用者を追う


「……この名前、どこかで見たぞ」


アルトは現在の組織表を見つめた。


『文書管理調整担当』


その担当者欄。


そこに記されていた名前は――。


「ダリオ・ベルク?」


マルクが声を上げた。


アルトは黙って名前を確認する。


「いや……」


ヴィクターが首を振った。


「ダリオ・ベルクは港湾物流の担当です」


「そうだったな」


アルトは組織表をもう一度見る。


名前は似ている。


だが別人だった。


『ダリオ・ベルク』ではない。


『ダリオ・ベルン』。


「危ないところだった」


アルトは苦笑した。


「名前が似ているだけで同一人物だと決めつけたら、営業失格だ」


マルクが笑う。


「そこは慎重ですね」


「人を間違えると、後で全部ひっくり返るからな」


◆


改めて記録を確認する。


現在のS―11相当権限。


役職――文書管理調整担当。


担当者――ダリオ・ベルン。


入館権限――S―11。


そして。


「使用履歴を出してくれ」


ヴィクターが台帳を持ってくる。


現在までの使用記録は三件。


一件目。


三年前、役職移行時の確認。


二件目。


二年前、王家重要文書の定期確認。


そして三件目。


「……今日です」


アルトの目が止まる。


今日。


午前八時十四分。


S―11使用。


入館理由――。


『承認関連文書確認』。


「今日?」


マルクが身を乗り出す。


「はい」


ヴィクターが頷く。


「ですが、ダリオ・ベルンの勤務記録を見ると――」


アルトは記録を受け取った。


「今日は午後から勤務になっている」


つまり。


午前八時十四分。


ダリオ本人は勤務開始前。


それなのに。


S―11が使われている。


◆


「本人に確認しよう」


アルトが言った。


ほどなくして、ダリオ・ベルンが部屋に入ってきた。


三十代後半。


文書管理調整担当。


表情は穏やかだった。


「アルト様。お呼びでしょうか」


「今朝、S―11を使ったか?」


「S―11?」


ダリオの表情が変わる。


「いいえ」


即答だった。


「私は今日は午後からの勤務です」


「そうだな」


アルトは記録を見せた。


「八時十四分にS―11が使われている」


ダリオは記録を確認する。


「……私ではありません」


「誰かに貸した?」


「いいえ」


「許可証は?」


「私が保管しています」


「今は?」


ダリオは胸元から鍵束を取り出した。


「ここにあります」


アルトは鍵束を見る。


S―11の専用許可証。


確かにある。


「じゃあ、どうやって使った?」


ダリオは答えられなかった。


◆


アルトはヴィクターを見る。


「使用時刻の入退室記録」


「確認します」


数分後。


ヴィクターが戻ってきた。


「八時十四分、S―11使用」


「人物記録は?」


「ありません」


「顔認証は?」


「十一年前の制度なので、当時の記録方式です」


つまり。


名前はない。


顔もない。


残っているのは。


S―11が使われたという事実だけ。


「でも」


アルトが言った。


「一つだけ残っている」


「何です?」


「入館理由だ」


『承認関連文書確認』。


三年前。


十一年前。


そして現在。


すべて同じ。


◆


アルトは三つの記録を並べた。


十一年前。


S―11。


承認関連文書確認。


三年前。


S―11。


文書管理体系再編に関する確認。


現在。


S―11。


承認関連文書確認。


「三年前だけ理由が違う」


ヴィクターが言う。


「いや」


アルトは首を振る。


「違わない」


「え?」


「文書管理体系再編そのものが、承認関連文書の管理方法を変更する作業だった」


つまり。


十一年前にS―11が使われた目的と。


三年前に使われた目的。


そして現在。


根っこは同じ。


「承認経路に触れるための権限だ」


アルトが言った。


◆


そのとき。


ダリオ・ベルンが口を開いた。


「一つだけ、思い出しました」


「何だ?」


「三年前です」


アルトの目が鋭くなる。


「再編の時期に、前任者から引き継ぎを受けました」


「誰から?」


「アーノルド・フェルクです」


「!」


部屋が静かになった。


十一年前。


S―11を使っていた人物。


アーノルド。


その人物から。


三年前。


現在の担当者であるダリオへ引き継ぎが行われていた。


「何を引き継いだ?」


「文書管理の手順です」


「それだけか?」


ダリオは少し考える。


「……一つ、変わった指示がありました」


「言ってみろ」


「S―11についてです」


アルトが身を乗り出す。


「何と言われた?」


ダリオは記憶を辿るように話した。


「S―11は、通常の入館記録に個人名を書かない」


「それは知っている」


「その理由について、アーノルドさんはこう言いました」


ダリオは少し間を置いた。


「『名前ではなく、担当役職を記録するものだから』と」


アルトは黙った。


◆


「他には?」


「はい」


ダリオは続けた。


「S―11を使うときは、必ず承認関連文書の確認理由を記載すること」


「なるほど」


「それから……」


ダリオが眉を寄せる。


「確認した文書は、第八保管庫の整理記録と照合するように言われました」


アルトの表情が変わった。


第八保管庫。


A―07。


E―7。


R・2。


すべてがつながる。


「三年前の引き継ぎ資料は?」


「残っています」


「持ってきてくれ」


ダリオが退出する。


ほどなくして、一冊の薄い冊子を持って戻ってきた。


アルトはページをめくる。


通常の業務手順。


文書受付。


印鑑管理。


保管庫整理。


そして最後。


『例外処理については前任者へ確認すること』。


「例外処理……」


ヴィクターが呟く。


「前任者って、アーノルドですよね」


「そうだ」


アルトはそのページを指でなぞった。


「ここだけ妙に曖昧だ」


「何がです?」


「普通なら、例外処理の内容を書く」


なのに。


『前任者へ確認すること』


だけ。


◆


アルトはダリオに聞いた。


「三年前、アーノルドに直接確認したか?」


「はい」


「何を聞いた?」


「S―11の使用方法です」


「それだけ?」


「……もう一つあります」


ダリオが答えた。


「『S―11を使って確認した文書は、誰の承認を受けるのか』と聞きました」


アルトの目が細くなる。


「アーノルドは何と?」


「それについては――」


ダリオが言葉を止めた。


「『承認者を確認する必要はない』と」


部屋が静まり返った。


「なぜ?」


アルトが聞く。


「私も同じことを聞きました」


ダリオは答えた。


「すると……」


『S―11は、承認者を確認するための権限ではない』


『承認経路そのものを確認するための権限だ』


そう言われた。


アルトは椅子から立ち上がった。


「なるほど」


これまで追ってきた空白。


承認者欄。


承認経路。


A―07。


S―11。


すべてが一本につながる。


「黒帳が必要だったのは」


アルトが静かに言った。


「承認者の名前じゃない」


ヴィクターが顔を上げる。


「承認経路そのもの?」


「ああ」


だから。


名前を残さない。


役職だけを残す。


誰が担当していたかが変わっても。


同じ権限を使える。


◆


アルトは現在の記録を見る。


S―11の使用者。


ダリオ・ベルン。


だが。


今朝の使用者は彼ではない。


「ダリオ」


「はい」


「三年前の引き継ぎ以降、S―11を誰かに貸したことは?」


「ありません」


「では、誰かが役職権限を使った」


アルトは言った。


「役職に紐づいているから、担当者本人がいなくても使える仕組みになっている」


ダリオが青ざめる。


「そんな……」


「お前を疑っているわけじゃない」


アルトは即座に言った。


「むしろ逆だ」


アルトは今朝の記録を示した。


「お前が勤務前なのにS―11が使われた」


そして。


「その時間に、第八保管庫へ入った記録がある」


ヴィクターが別の紙を差し出す。


「入館時刻、八時十四分」


「退館は?」


「八時二十七分」


アルトは記録を見た。


「十三分」


その十三分間。


誰かが第八保管庫で何かを確認している。


「何を見た?」


アルトは呟いた。


そして。


「その記録を探すぞ」


営業メモ

①⑦⑦


権限を人に紐づけるのか。


それとも役職に紐づけるのか。


役職に紐づければ、担当者が変わっても同じ権限を維持できる。


便利な仕組みである一方、管理が甘ければ「誰が実際に使ったのか」が分からなくなる。


今回のように、担当者本人が不在でも権限だけが使われている場合は、権限の管理方法そのものを確認する必要がある。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百七十九話

「営業課長、八時十四分の十三分間を追う」


現在のS―11使用者は、ダリオ・ベルン。


しかし、今朝の八時十四分。


ダリオが勤務する前に、S―11が使われていた。


入った場所は第八保管庫。


滞在時間は十三分。


そして、その十三分間に――。


「A―07の記録が一度、持ち出されている」


十一年前から続く仕組みが、現在も動いている。

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