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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第百七十七話 営業課長、記録に残らない入館者を追う


「十一年前の入館規則を出してくれ」


アルトが言うと、ヴィクターはすぐに古い規則書を持ってきた。


王家文書保管部署。


十一年前の入館管理規則。


一般職員。


外部業者。


王家関係者。


そして――。


「特別入館」


アルトの指が止まった。


「これだ」


特別入館。


通常の警備記録には残らない。


事前に登録された者だけが利用できる。


入館証ではなく、専用の通行許可証を提示する。


そして。


「入館記録は別台帳に記載する」


マルクが読み上げる。


アルトは顔を上げた。


「別台帳?」


「はい」


「その台帳は?」


ヴィクターが答えた。


「現在の保管記録にはありません」


「廃棄された?」


「それも記録がありません」


アルトは笑った。


「なるほど」


消えたのではない。


最初から別の場所にある。


◆


古い管理室を探す。


棚の奥から、十一年前の特別入館台帳が見つかった。


アルトはページをめくる。


日付。


時刻。


入館理由。


許可区分。


そして名前。


十一年前の該当日。


午後四時。


一人目。


グレゴール・ヴァイス。


入館理由――文書確認。


午後四時一分。


二人目。


「……空欄?」


ヴィクターが声を上げた。


名前欄が空白だった。


だが。


許可区分には、


『特別確認』


と記されている。


アルトは時刻を見る。


午後四時一分。


グレゴールの一分後。


そして退館時刻。


二人とも午後四時十三分。


「やっぱり二人いた」


アルトは呟いた。


警備記録にはグレゴール一人。


特別入館台帳には二人。


つまり、二人目は最初から一般警備の対象外だった。


◆


「許可番号は?」


アルトが聞く。


ヴィクターが確認する。


「S―11」


「グレゴールは?」


「S―10です」


一つ違い。


アルトはさらに台帳をめくる。


S―11の記録。


それは――。


「十一年前から三年前まで、ほとんど使われていません」


「ほとんど?」


「十一年前のこの日と、三年前に一度だけです」


アルトの目が鋭くなった。


「三年前?」


ヴィクターが記録を開く。


三年前。


文書保管業務再編案が進められていた時期。


日付は――。


七月三十一日。


グレゴールの退職手続きが始まった日。


そして。


S―11の特別入館記録が残っていた。


「……つながった」


アルトが静かに言った。


◆


三年前の入館記録。


S―11。


入館時刻、午前八時十四分。


退館時刻、午前八時四十七分。


入館理由――。


『文書管理体系再編に関する確認』


名前欄は。


また空白だった。


「また名前がない」


マルクが呟く。


アルトは記録を見つめる。


「十一年前と同じだ」


許可番号。


S―11。


名前は空白。


そして。


文書管理体系に関する確認。


「この人物は、十一年前から三年前まで、同じ特別入館許可を使っていた」


ヴィクターが言う。


「しかも、三年前の再編日に」


「グレゴールの退職手続きと同じ日」


アルトは答えた。


◆


「使用者を調べよう」


アルトが言った。


ヴィクターが特別入館許可の管理台帳を取り出す。


十一年前。


S―11。


登録区分――『王家重要文書管理担当』。


個人名――空欄。


「やっぱり名前がない」


マルクが言う。


「いや」


アルトは台帳の下段を指差した。


「名前を書く場所がないんじゃない。別の欄がある」


そこには小さく、


『指定役職』


と記されていた。


そして、その欄には――。


『承認文書管理調整官』


とある。


「役職そのものに許可が付いている」


ヴィクターが驚く。


「だから個人名が残らない」


アルトは頷いた。


「なら、その役職に誰が就いていたかを調べればいい」


◆


十一年前の人事記録。


『承認文書管理調整官』


該当者――。


一人。


「……グレゴール?」


マルクが声を上げた。


だが、アルトは首を振った。


「違う」


グレゴールの役職は、


『文書保管部署 管理補佐』。


S―11の使用資格を持つ役職とは違う。


では誰なのか。


ヴィクターが古い人事記録を追う。


十一年前。


承認文書管理調整官――。


「アーノルド・フェルク」


その名前が出た。


アルトはすぐに記録を確認する。


当時、王家文書保管部署に所属。


承認関連文書の回付調整を担当。


文書保管部署と王家物流管理局の間をつなぐ役職。


そして――。


「十一年前の四月三日」


ヴィクターが記録を読む。


「A―07……当時のM―12登録日に、S―11を使用しています」


アルトの目が細くなった。


「使用場所は?」


「王家文書保管部署」


「入館理由は?」


「承認関連文書の確認」


「そして?」


ヴィクターが続ける。


「同日の午後四時一分にもS―11の使用記録があります」


アルトはグレゴールの記録を見る。


午後四時。


グレゴール。


午後四時一分。


S―11。


つまり。


十一年前のM―12登録日。


グレゴールと、アーノルド・フェルク。


二人が同じ場所にいた。


◆


「このアーノルドという人物は、その後どうなった?」


アルトが聞く。


ヴィクターは人事記録をめくった。


「三年前まで在籍しています」


「何?」


「ただし、所属が変わっています」


十一年前。


王家文書保管部署。


承認文書管理調整官。


八年前。


王家文書回付室へ異動。


五年前。


王家重要文書監査室へ。


そして三年前。


「……退職」


アルトの手が止まった。


「三年前のいつ?」


「八月十八日」


アルトは顔を上げる。


「人事再編の承認日と同じだ」


七月三十一日。


再編案修正。


グレゴール退職手続き開始。


エドガー異動。


R・2配置変更。


そしてS―11使用。


八月十八日。


三人の人事処理が正式承認。


アーノルド・フェルクも退職。


「偶然にしては重なりすぎている」


アルトは呟いた。


◆


さらに記録を追う。


三年前のS―11使用者。


役職欄には、やはり個人名がない。


だが、使用時刻は午前八時十四分。


人事記録を見る。


その日のアーノルドの出勤状況は――。


「午前八時まで勤務」


ヴィクターが答える。


「午前八時以降は?」


「有給扱いになっています」


アルトが眉を上げる。


「それなのにS―11を使った?」


「はい」


「本人が?」


ヴィクターは首を振る。


「そこまでは断定できません」


アルトは頷いた。


「そうだな」


S―11は個人ではなく役職に紐づいている。


だから。


アーノルド本人が使ったとは限らない。


しかし。


その役職を引き継いだ人物が誰なのか。


そこが重要になる。


◆


アルトは三年前の人事記録をさらに追った。


『承認文書管理調整官』


八月十八日付。


後任――。


「……記録がありません」


ヴィクターが固まった。


「退職したのに後任がいない?」


「はい」


「では、その役職は?」


「再編後の組織表から消えています」


アルトはゆっくり資料を閉じた。


「消えたんじゃない」


「え?」


「名前を変えたんだ」


アルトは三年前の再編案を開いた。


『承認文書管理調整官』


その役職名は消えている。


代わりに。


『文書管理調整担当』


という役職が新設されていた。


「これ……」


ヴィクターが息を呑む。


「名前だけ変わっています」


「業務内容を確認しろ」


ヴィクターが読む。


承認関連文書の回付。


印鑑管理記録の確認。


第八保管庫への入退室管理。


アルトは三年前の再編案を見る。


「ほとんど同じだ」


つまり。


十一年前。


アーノルド・フェルクが持っていたS―11の権限。


それを三年前。


新しい役職へ移した。


そして人だけを入れ替えた。


「だからS―11が残った」


アルトが言った。


「役職が名前を変えて生き残ったんだ」


◆


ローディンが資料を見つめる。


「黒帳が利用したのは、アーノルド本人ではないかもしれません」


「そうだ」


アルトは頷く。


「アーノルドが最初の協力者だった、とも限らない」


「では?」


「十一年前にS―11を使える役職を作った人間」


アルトは三年前の再編案を見る。


「そして三年前、その役職を別の名前に変えて残した人間」


アルトの視線がグレゴールの名前に止まる。


「グレゴールだ」


部屋が静まる。


十一年前。


グレゴールはM―12を登録した。


同じ時期。


アーノルドはS―11を使っていた。


三年前。


グレゴールは文書管理体系の再編案を作った。


その中で。


S―11を利用できる役職を別名で残した。


そして。


グレゴールは退職。


アーノルドも退職。


エドガーは監査へ。


R・2が文書管理へ。


人間だけが入れ替わった。


アルトは資料を閉じた。


「ようやく見えてきた」


「何がです?」


ヴィクターが聞く。


アルトは答えた。


「S―11を使っていたのは、誰か一人じゃない」


「役職そのもの?」


「そうだ」


アルトは静かに続けた。


「十一年前はアーノルド・フェルク」


「そして三年前からは――」


アルトは現在の組織表を開いた。


そこにある役職名。


『文書管理調整担当』。


その担当者欄には――。


まだ名前が残っていた。


アルトの目が鋭くなる。


「今の使用者を調べるぞ」


黒帳の仕組みは。


十一年前から現在まで。


同じ役職を姿を変えながら生き残らせていた。


営業メモ

①⑦⑥


「誰が使ったか」だけではなく、「誰が使える権限だったのか」を確認する。


今回のポイントは、S―11が個人に与えられた許可ではなく、特定の役職に付与された権限だったこと。


十一年前はアーノルド・フェルク。


三年前の組織再編で役職名が変更され、業務内容と入館権限が引き継がれた。


人間が入れ替わっても、権限が残れば仕組みは継続する。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百七十八話

「営業課長、S―11の現在の使用者を追う」


十一年前。


S―11を使っていたのは、アーノルド・フェルク。


そして三年前。


その役職は名前を変えた。


では現在。


S―11を使える権限を持つ人間は誰なのか。


アルトが現在の組織表を確認すると――。


「……この名前、どこかで見たぞ」


十一年前の仕組みと、現在の黒帳。


ついに両者が一本につながる。

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