↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
176/267

第百七十六話 営業課長、十一年前の受付担当者を追う


「この名前……」


ヴィクターが古い名簿を指差した。


十一年前。


M―12の登録申請が受け付けられた日。


受付担当者として記録されていたのは――。


「グレゴールじゃない」


アルトは名簿を見つめた。


「文書受付担当、エドガー・ミラー」


「エドガー?」


マルクが驚く。


現在、監査部門にいるエドガー。


アルトたちが追っていたR・2と同じく、十一年前からこの仕組みに関わっていた人物だった。


◆


「待ってください」


エドガー本人が資料を見た。


「十一年前のことです。私には記憶がありません」


「それでいい」


アルトは即答した。


「記憶より記録を確認したい」


十一年前の出勤表。


エドガーは確かに勤務していた。


午前八時から午後五時まで。


受付担当。


だが――。


「問題はここだ」


アルトが受付台帳を指差す。


M―12の申請受付時間。


午後四時十二分。


その時間。


エドガーは受付にいた。


「確かに私ですね」


エドガーの顔が曇る。


「ですが、申請者と会った記憶はありません」


「会った記録もない」


アルトは頷いた。


「受付台帳には申請者名がないからな」


◆


さらに別の記録を重ねる。


受付台帳。


出勤表。


文書回付記録。


そして、警備記録。


午後四時。


文書保管部署から一人が入室。


その人物は――。


グレゴール。


午後四時十一分。


受付前を通過。


午後四時十三分。


退室。


アルトの目が細くなる。


「一分前に来て、一分後に出ている」


「偶然でしょうか?」


ヴィクターが尋ねる。


「それだけならな」


アルトは警備記録の次の行を見る。


『持込文書――一通』


「文書の持ち込み記録があります」


マルクが言った。


「でも、申請者欄は空白です」


「つまり」


アルトは言った。


「グレゴールが何かを持ってきた可能性がある」


だが、まだ断定できない。


文書を持ち込んだ人間と、申請者が同一人物とは限らないからだ。


◆


アルトはさらに十一年前の記録を追った。


すると、別の違和感が見つかった。


M―12の登録処理が終わった翌日。


エドガーの処理記号が使われている。


しかし、その処理を行った場所は受付ではない。


第八保管庫。


「……エドガーは、そこに入っていない」


ヴィクターが確認する。


出勤記録にも、入退室記録にもない。


それなのに。


エドガーの処理記号だけが残っている。


「現在と同じだ」


アルトが呟く。


三年前。


エドガーは監査部門へ異動した。


それなのに、現在の文書管理記録でもエドガーの処理記号が使われていた。


そして十一年前にも。


本人がいない場所で、同じ記号が使われていた。


「つまり、エドガーさんの記号は……」


「本人が使っていない可能性が高い」


アルトは答えた。


◆


そして、三年前の再編記録を確認する。


七月三十一日。


エドガーの異動案。


『承認関連文書の監査業務へ配置』


理由は、


『承認経路の独立性確保』


だった。


アルトはそこで止まった。


「独立性確保……」


「何か問題がありますか?」


エドガーが尋ねる。


「むしろ逆だ」


アルトは記録を見せる。


「あなたが監査へ移ったことで、文書受付と確認の現場から離れた」


「はい」


「そして、その直後からR・2が文書管理の中心になった」


「……」


「つまり三年前の再編で、エドガーさん本人を動かしながら、あなたの処理記号だけは残した」


エドガーが息を呑む。


「人間は移動させる」


アルトは言った。


「でも、記号と承認印は残す」


それなら。


誰かが後から記録を作ることができる。


◆


ローディンが古い記録を見ながら口を開いた。


「黒帳は、人間を買収するだけではありません」


「どういう意味だ?」


「十年前……いや、それより前からです」


ローディンは慎重に言葉を選んだ。


「黒帳は、正規の手続きを利用することを好んでいました」


「正規の手続き?」


「はい」


「偽造するより、正しい書式を使ったほうが疑われにくい」


アルトは黙って聞いていた。


「だから、担当者の記号を借りる」


ローディンが続ける。


「承認印を借りる。保管庫の入室記録を利用する。そして、担当者が異動した後も、その仕組みを残す」


アルトは三年前の再編記録を見る。


「……これだ」


十一年前。


エドガーの記号が使われた。


三年前。


エドガーは監査へ異動。


それでも記号は残された。


そして現在。


同じ記号が再び使われている。


「十一年前に作られた仕組みを」


アルトが言った。


「三年前の再編で、完全に引き継いだんだ」


誰かが。


意図的に。


◆


だが、まだ一つ足りない。


十一年前。


M―12を申請した人間。


それが分からない。


アルトは受付台帳を見る。


申請者欄は空白。


しかし、その横には小さな記載があった。


『口頭依頼』


そして受付時刻。


午後四時十二分。


「エドガー」


「はい」


「十一年前の午後四時十二分。


グレゴールが来たことを覚えていないか?」


エドガーはしばらく考えた。


「……顔までは」


そして。


「ただ、一人ではなかった気がします」


アルトの目が鋭くなる。


「誰と?」


「分かりません」


「服装は?」


「文書保管部署の職員だったと思います」


「二人いた?」


「……はい」


エドガーはゆっくり頷いた。


「グレゴールと、もう一人」


アルトはヴィクターを見る。


十一年前の警備記録には。


グレゴールしか記録されていない。


つまり。


「警備記録に残っていない人間がいた」


「そうなります」


アルトは立ち上がった。


「十一年前の午後四時十二分」


その時間に。


受付へ来た二人。


一人はグレゴール。


そしてもう一人は――。


記録に存在しない。


アルトは警備記録を手に取った。


「次は、警備記録そのものを調べる」


「改ざんされている可能性が?」


「違う」


アルトは首を振った。


「改ざんしたなら、痕跡が残る」


そして。


「最初から記録対象になっていなかったなら――」


アルトは静かに続けた。


「その人間には、別の入館方法があったことになる」


営業課長は、十一年前の王家入館規則を開いた。


そこには。


一般職員とは別の、もう一つの入館区分が記されていた。


営業メモ

①⑦⑤


記録を追うときは、「記録されている人間」だけを見ると見落とす。


誰が記録されていないのか。


なぜ記録されていないのか。


その理由まで確認することで、見えてくる事実がある。


今回のポイントは、十一年前と三年前を別々に考えないこと。


十一年前に作られた仕組みが、三年前の人事再編によって現在の担当者へ引き継がれていた。


人は変わっても、仕組みが残れば同じ問題は繰り返される。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百七十七話

「営業課長、記録に残らない入館者を追う」


十一年前。


グレゴールと一緒に受付へ来た、もう一人の人物。


しかし、その名前は警備記録にない。


アルトは十一年前の入館規則を調べる。


そこで見つかったのは――。


「この入館区分を使える人間は、限られている」


十一年前の謎が、三年前の再編とさらに深くつながっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。