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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第百六十九話 営業課長、黒帳の反応を見る


コンコン。


扉が、もう一度叩かれた。


「誰だ?」


ヴィクターが声をかける。


「……文書保管部署です」


男の声。


アルトは扉を見た。


「用件は?」


「管理番号A―07について、確認が必要になりました」


アルトは眉を上げた。


まだ正式な確認予定は登録していない。


「ヴィクター」


「はい」


「A―07の確認予定、記録されてる?」


ヴィクターは机の上の台帳を確認した。


「……ありません」


「やっぱりな」


アルトは扉を見た。


「じゃあ、どうして外の人間が知っている?」


返事はない。


「開けるぞ」


アルトが扉を開ける。


そこに立っていたのは、文書保管部署の制服を着た男だった。


「確認に参りました」


「誰の指示?」


「保管部署の管理責任者です」


「名前は?」


男が一瞬、言葉に詰まる。


「……口頭で受けました」


アルトの目が細くなった。


「口頭?」


「はい」


「じゃあ、その確認依頼を出した記録は?」


「受付箱に入っていました」


「受付箱?」


「文書保管部署の職員用受付箱です」


アルトは振り返った。


「フェルナン」


「はい」


「受付台帳を」


フェルナンが厚い台帳を取り出す。


受付箱に入った文書は、必ず受付台帳に記録する。


日時。


受付番号。


件名。


処理担当。


その順番で記載されている。


フェルナンが今日の日付を探した。


「……ありました」


「読んで」


「受付時刻、現在時刻の九分前。件名は『印鑑管理上の確認』」


「受付番号は?」


「W―3821」


アルトはその番号を紙に書いた。


「処理担当は?」


「……空欄です」


マルクが眉をひそめる。


「処理担当が空欄?」


「通常なら、あり得ません」


フェルナンが答える。


「受付した人間の名前が残ります」


アルトは頷いた。


「じゃあ次」


受付番号W―3821を、別の台帳で検索する。


『王家文書回付台帳』


そこに、同じ番号があった。


『W―3821』


件名――印鑑管理上の確認。


受付時刻――九分前。


回付先――記録管理担当。


「ここだ」


アルトが指を止めた。


「記録管理担当に回付されている」


ヴィクターが言う。


「でも、担当者名がない」


「そして、もう一つ」


アルトは回付台帳の下にある欄を指した。


『原本保管位置』


そこには、


『受付箱・第二区画』


と書かれている。


「原本はまだ受付箱にある」


フェルナンが言う。


「なら、確認してみよう」


一行は文書保管部署の受付箱へ向かった。


受付箱は、部署の入口近くに設置されていた。


いくつかの仕切りに分かれている。


『通常受付』


『緊急』


『承認関連』


『保管庫関係』


アルトは第二区画を開けた。


そこには数枚の書類が入っていた。


上から順に確認する。


通常業務。


保管依頼。


印鑑返却。


そして。


一番下。


「これだ」


一枚の薄い紙。


件名は、


『管理番号A―07 現物確認依頼』


受付番号――W―3821。


アルトは右上の受付印を確認した。


「……待て」


「どうしました?」


アルトは、現在受付で使われている印鑑を持ってこさせた。


受付印には、それぞれ管理番号が付いている。


現在使用中――B―12。


予備――B―11。


旧式保管――B―09。


アルトは指示書の印影とB―12の印影を並べた。


「違う」


右端の文字。


『文書保管』


その最後の文字の角が、現在の印でははっきりしている。


だが、指示書の印影では欠けている。


「じゃあ、旧印を」


フェルナンが保管庫からB―09を持ってくる。


アルトが紙に押す。


印影を並べる。


「……一致します」


ヴィクターが呟いた。


「この指示書に押されているのは、現行のB―12じゃない。旧式のB―09だ」


フェルナンが台帳を確認する。


「B―09は、現在は使用停止です」


「いつから?」


「三年前です」


「理由は?」


「印面の一部に摩耗があり、受付印としての使用を終了しています」


アルトはB―09を見る。


「じゃあ、三年前から誰も通常受付では使っていない」


「はい」


「なのに、今日の指示書には押されている」


部屋が静かになった。


「それだけじゃない」


アルトは印鑑管理台帳を開く。


B―09。


本日の貸出記録。


『九時四十七分』


『貸出者――R・2』


『使用目的――承認関連文書整理』


『返却――十時〇二分』


「R・2……」


マルクが呟く。


アルトは受付台帳を見る。


指示書の受付時刻は九時五十四分。


「つまり」


アルトは時刻を並べた。


九時四十七分。


R・2が旧受付印B―09を借りる。


九時五十四分。


A―07確認指示書が受付された。


十時〇二分。


B―09が返却される。


「現在の受付担当は、この時間帯にB―09を使っていない」


ヴィクターが確認する。


「ということは、この受付印を押せた人物は……」


「R・2」


アルトが答えた。


「少なくとも、B―09を使える状態にしていたのはR・2だ」


だが。


アルトはまだ断定しない。


「最後に、印鑑の使用目的を見る」


台帳の記載。


『承認関連文書整理』


「A―07は?」


フェルナンが指示書を見る。


「印鑑管理上の確認依頼です」


「つまり、B―09を借りた目的と、実際に作った文書の内容が一致している」


ローディンが低く言った。


「しかも、その旧印を使って正式な受付を装った」


「そういうことだ」


アルトは指示書を机に置いた。


「現行の受付印を使えば、誰が押したかを後から確認される」


「でも旧印なら?」


「管理台帳を見なければ、誰が使ったのか分かりにくい」


アルトは笑った。


「黒帳は、印鑑そのものを偽造したんじゃない」


「正規の印鑑を、正規の管理手順の隙間で使ったんだ」


フェルナンが息を呑む。


「だから書類自体は、本物の業務文書に見える……」


「そう」


アルトは頷いた。


「でも、管理台帳と照合すれば違和感が出る」


アルトはさらに一枚の紙を出した。


十年前の印鑑管理記録。


管理番号――A―07。


その横には、


『承認関連』


という使用目的。


そして、その日の第八保管庫入室記録。


『R・2』


アルトは現在の記録と十年前の記録を並べた。


「同じやり方だ」


「十年前も承認関連で印鑑を借りる」


「その後、第八保管庫へ入る」


「そして現在も同じ」


ヴィクターが息を呑む。


「偶然とは考えにくい……」


アルトは静かに頷いた。


「これで、受付印の不自然さがただの押し間違いじゃなくなった」


そして指示書を見る。


「誰かが、意図的に古い印鑑を使った」


「その人物がR・2……」


「可能性は高い」


アルトは立ち上がった。


「でも、まだ本人に黒帳との関係があるとは決めない」


「では?」


「本人に聞く」


アルトは扉へ向かった。


「なぜ、三年前に使用停止になった受付印を、今日わざわざ借りたのか」


その答えが。


黒帳へ続く次の扉になる。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ ①⑥⑦


書類の印鑑は、印影だけを見ても分からないことがある。


「その印鑑が現在も使用中なのか」


「誰が借りたのか」


「何時に借りたのか」


「使用目的は何だったのか」


「実際の書類の受付時刻と一致しているか」


印鑑管理台帳と受付台帳を照合する。


そこに時系列の矛盾がなければ、偶然の可能性が残る。


しかし、使用停止の旧印が、特定の人物によって、特定の目的で貸し出され、その直後に問題の書類へ使われていたなら――。


記録そのものが、その人物の行動を証明する。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百六十九話 営業課長、消された指示書を追う


三年前に使用停止された受付印B―09。


それを今日、借りたのはR・2だった。


アルトはR・2本人に問いかける。


「なぜ、わざわざ古い受付印を使った?」


しかし――。


R・2の答えは、アルトの予想を覆すものだった。

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