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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第百六十七話 営業課長、承認経路を逆にたどる


「……決め手が足りないな」


アルトは、机の上に並べた記録を見つめていた。


十年前の承認記録。


現在の承認記録。


印鑑管理台帳。


入退室記録。


人員配置表。


一見すると、すべて別々の資料だ。


だが。


「全部、同じ場所に戻ってくる」


ヴィクターが記録を指で追う。


「王家文書保管部署ですね」


「そうだ」


アルトは頷いた。


「でも、同じ部署にいた、というだけじゃ弱い」


ローディンが腕を組む。


「ならば、承認者そのものではなく……承認記録が処理された順番を追えばいい」


「その通り」


アルトは一枚の紙を引き寄せた。


十年前の承認記録。


そこには、


『受付番号 R―1047』


『承認確認 済』


『承認者 ――』


『承認経路 ――』


とある。


承認者も承認経路も消されている。


だが。


「受付番号は残っている」


アルトは別の台帳を開いた。


『王家文書受付台帳』


受付番号を照合する。


R―1047。


該当する記録には、


『受付日時 十年前・八月十二日 十時十四分』


『受付部署 王家物流管理局』


『移送先 王家文書保管部署』


と記載されていた。


「ここまでは前に確認した」


ヴィクターが頷く。


「問題は、その後だ」


アルトは次の台帳を開いた。


『王家重要文書回付台帳』


R―1047。


そこには、


『保管部署受付 十時二十九分』


『整理担当 記録管理補助』


『確認印 文書保管部署印』


とある。


「名前はない」


フェルナンが言う。


「だが、時刻はある」


アルトは指を止めた。


「十時二十九分」


そして、今度は入退室記録を見る。


十年前。


第八保管庫。


『入室 十時二十七分』


『退室 十一時〇三分』


『所属 王家文書保管部署』


『担当 記録管理』


「……二分違い」


マルクが呟く。


「回付台帳の受付時刻が十時二十九分。保管庫への入室が十時二十七分」


「そう」


アルトは頷く。


「普通なら、先に文書を受け取ってから保管庫へ行く」


フェルナンが記録を見る。


「なのに、保管庫へ入った二分後に受付処理をしている」


「つまり」


ローディンが低く言った。


「保管庫に入ること自体が、通常の文書整理ではなかった可能性がある」


「そこまではまだ断定できない」


アルトは冷静だった。


「だから、もう一つ照合する」


今度は印鑑管理台帳。


『承認確認印』


管理番号――A―07。


貸出日。


十年前・八月十二日。


貸出時刻。


十時二十四分。


返却時刻。


十一時〇七分。


アルトの目が細くなる。


「……おかしい」


ヴィクターが覗き込む。


「保管庫の入室は十時二十七分。印鑑の貸出は十時二十四分」


「そして返却は十一時〇七分」


アルトは三つの時刻を書き出した。


十時二十四分。


十時二十七分。


十一時〇三分。


十一時〇七分。


「印鑑を借りる」


「三分後に保管庫へ入る」


「三十六分後に保管庫から出る」


「四分後に印鑑を返す」


マルクが息を呑んだ。


「……全部、つながっている」


「まだだ」


アルトは言った。


「最後に、現在の記録と照合する」


フェルナンが現在の印鑑管理台帳を開く。


管理番号A―07。


現在も同じ。


貸出管理の担当欄には、現在の記録管理担当者の名前が記されている。


アルトは、十年前の人員配置表を取り出した。


そして。


現在の担当者名と、十年前の配置表を照合する。


「……いた」


フェルナンの声が止まった。


「十年前にも、同じ人物が記録管理補助として配置されています」


「名前だけじゃない」


アルトはさらに古い勤務記録を開く。


「十年前の八月十二日」


そこには、その人物の勤務欄に、


『文書保管部署・記録整理』


と記されていた。


さらに現在。


今年の勤務割当表。


同じ人物の欄には、


『承認関連文書整理』


とある。


アルトは二つを並べた。


「十年前の同じ日」


指が古い記録を叩く。


「同じ印鑑を借りられる立場だった」


次に現在の記録。


「今も同じ印鑑の管理に関われる」


さらに。


「十年前は第八保管庫の整理担当」


「現在も第八保管庫の整理担当」


ローディンが黙り込む。


「……偶然にしては、重なりすぎている」


「だから、ここから先はもっと具体的にする」


アルトは最後の記録を取り出した。


『印鑑返却確認簿』


十年前。


管理番号A―07。


返却時刻――十一時〇七分。


返却確認者――名前はない。


だが、確認欄に小さな記号がある。


『R・2』


フェルナンが首を傾げる。


「これは?」


「現在の確認簿を見てくれ」


フェルナンが今年の記録をめくる。


同じ管理番号。


同じ印鑑。


そして。


『R・2』


「……同じです」


「さらに」


アルトは十年前の別の日の記録を出した。


そこには別の印鑑。


別の管理番号。


確認欄には『R・1』。


さらに別の日。


『R・3』。


「この記号、担当者が自分の処理を区別するための内部記号だ」


フェルナンが目を見開く。


「つまり……」


「十年前のA―07の返却確認に使われた『R・2』と、現在のA―07の返却確認に使われている『R・2』が同じ」


アルトは静かに言った。


「そして、その『R・2』を使っていた人物の担当記録も一致する」


部屋が静まり返る。


今までの情報とは違う。


部署が同じ。


仕事が似ている。


それだけではない。


同じ管理番号。


同じ印鑑。


同じ処理記号。


同じ保管庫。


そして、同じ人物の担当履歴。


アルトは記録を一列に並べた。


「これが決め手だ」


ヴィクターが頷く。


「十年前の処理記録と現在の処理記録を、同じ管理番号から逆にたどった」


「そう」


「すると、同じ印鑑を、同じ部署で、同じ処理記号を使って管理していた人物が浮かび上がった」


「ただし」


アルトは名前を指で押さえた。


「これでも、黒帳の幹部だとは言えない」


ローディンが頷く。


「本人が協力者なのか、利用されているだけなのかも分からない」


「だから、いきなり問い詰めない」


アルトは笑った。


「記録に、もう一つだけ仕事をしてもらう」


マルクが嫌な予感を覚えた顔をする。


「また餌ですか?」


「もちろん」


「営業課長の餌、最近ちょっと怖いんですが」


「失礼だな」


アルトは一枚の確認予定表を取り出した。


そこには、


『明日、管理番号A―07の現物確認を実施する』


と書かれている。


「これを正式な予定として残す」


ヴィクターが理解する。


「A―07の印鑑を、実際に確認する?」


「そう」


「もし黒帳が、この印鑑を使った承認経路をまだ利用しているなら……」


「動く」


アルトは頷いた。


「そして動けば、今度は誰が誰に連絡するのかを見る」


ローディンが苦笑する。


「また監視の監視か」


「営業の基本だよ」


アルトは記録を閉じた。


「相手が数字を見ているなら、こっちは数字の動きを見る」


その瞬間。


コンコン。


扉が二度、叩かれた。


全員が振り返る。


「……誰だ?」


ヴィクターが声をかける。


返事はない。


もう一度。


コンコン。


アルトは扉を見る。


そして、静かに笑った。


「早いな」


「何がです?」


「まだ正式な記録を回していない」


アルトは一枚の予定表を見る。


「なのに、もう反応した」


部屋の空気が変わった。


アルトは扉へ近づく。


だが、手は伸ばさない。


「つまり」


小さく呟く。


「この部屋の中を見ている奴がいる」


黒帳は。


記録だけではない。


人の動きまで見ている。


アルトは振り返った。


「なら、こっちも見せてやろう」


「何を?」


アルトは笑った。


「相手が一番欲しい記録を」


営業課長は。


また一つ、罠を仕掛けた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ ①⑥⑥


一つの記録だけで、原因を決めつけない。


受付番号から回付記録へ。


回付記録から入退室記録へ。


入退室記録から印鑑管理台帳へ。


さらに、管理番号、時刻、処理記号、人員配置を照合する。


別々の記録が同じ人物、同じ印鑑、同じ処理の流れを示したとき、初めて「確認すべき対象」が具体的になる。


人ではなく、まず記録の流れを見る。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百六十八話 営業課長、黒帳の反応を見る


「管理番号A―07の現物確認」。


まだ正式には動かしていないはずの情報に、黒帳が反応した。


アルトは、誰が動いたのかを追う。


しかし――。


動いたのは、疑っていた人物本人ではなかった。

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