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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第百六十五話 第八保管庫へ


地下通路を進む。


先頭を歩くアルト。


その後ろにヴィクター、マルク、フェルナン、ローディンが続く。


「本当に第八でいいんですか?」


ヴィクターが聞いた。


「分からない」


アルトは即答した。


「おい」


マルクが突っ込む。


「分からないのに来たのかよ」


「だから確認するんだ」


「……相変わらずだな」


アルトは笑った。


やがて。


通路の先に、鉄製の扉が見えてきた。


扉には。


『第八保管庫』


と刻まれている。


その横には、通常の鍵穴とは別に、小さな金属板が取り付けられていた。


フェルナンが足を止める。


「ここです」


「開けられるか?」


アルトが聞く。


フェルナンは首を振った。


「私の権限だけでは無理です」


「無理?」


「第八保管庫は、王家物流管理局の保管庫ではありません」


フェルナンは金属板を確認する。


「王家文書保管部署の管理です」


アルトの目が細くなる。


「つまり、あの印と同じか」


「はい」


ローディンが一歩前へ出た。


「この形式……まだ使われていたのか」


「知っているのか?」


アルトが聞く。


「十年前、私が王家物流管理局にいた頃にもありました」


ローディンは扉を見る。


「重要文書を保管する区域では、入室者を記録する必要がありました」


「記録するだけか?」


「いいえ」


ローディンは首を振った。


「入室者、入室目的、入室時刻を記録し、保管部署側の確認を受ける。その後、二つの鍵を使って開けます」


アルトは頷いた。


「つまり、誰がいつ何の目的で入ったのか、全部残すわけだ」


「はい」


「なら、正規の手順で入ろう」


マルクが驚く。


「こんな時まで律儀だな」


「重要な証拠を探しているんだ」


アルトは記録箱を見る。


「俺たち自身が規則を破ったら、その証拠の信用まで落ちる」


フェルナンが頷いた。


「その通りです」


フェルナンは扉横の記録箱を開いた。


中には。


一冊の記録帳。


そして。


二本の鍵が入っていた。


「まず記録ですね」


「頼む」


フェルナンが記録帳を開く。


最初の欄。


『入室年月日』


次に。


『入室目的』


その下に。


『入室者』


そして。


『入室確認者』


最後に。


『入室時刻』


という欄が並んでいる。


フェルナンが確認する。


「入室目的は?」


「十年前の物流改革資料と、現在の全国物流改革に関する文書の確認」


アルトが答える。


フェルナンが書き込む。


続いて。


入室者の名前を書く。


アルト・レインハルト。


ヴィクター。


マルク。


フェルナン・クレイス。


ローディン。


ローディンの名前を書いたところで。


フェルナンの手が止まった。


「問題ありませんか?」


ヴィクターが聞く。


「いえ」


フェルナンは首を振った。


「少し気になっただけです」


「何が?」


「十年前の記録には、入室者の名前がない箇所があります」


アルトが記録帳を覗き込む。


確かに。


日付と入室目的は残っている。


しかし。


名前の欄だけが空白になっている。


「……またか」


アルトが呟いた。


「はい」


フェルナンが答える。


「だからこそ、今回は全員の名前を残します」


フェルナンは記入を続ける。


最後に。


『入室確認者』


の欄。


フェルナンが確認印を押す。


――コツン。


乾いた音が響いた。


「これで記録は完了です」


アルトが確認する。


「待て」


「はい?」


「時刻」


フェルナンが時計を見る。


「現在、十時二十三分です」


「それも書こう」


フェルナンが時刻を記入する。


アルトは記録帳を見た。


名前。


目的。


確認者。


時刻。


すべて揃っている。


「よし」


フェルナンが二本の鍵を取り出す。


「次は開錠です」


一本をフェルナンが持つ。


もう一本をアルトへ渡す。


「同時に回します」


「分かった」


二人が鍵を差し込む。


「三」


「二」


「一」


――カチッ。


二つの鍵が同時に回った。


だが。


扉は開かない。


「まだ何かあるな」


アルトが言う。


フェルナンが扉横を見る。


小さな確認欄がある。


「最後に、入室確認印が必要です」


「記録帳とは別か」


「はい」


フェルナンが確認印を取り出す。


その横には。


『入室確認』


と書かれている。


フェルナンが印を押す。


――コツン。


その直後。


――ガチャ。


扉の内部で錠が外れた。


重い鉄扉が、ゆっくりと開いていく。


「開いた」


ヴィクターが呟く。


アルトは中を覗いた。


暗い。


棚が並んでいる。


大量の箱。


古い帳簿。


封印された文書。


埃が積もっている。


「入ろう」


全員が中へ入る。


フェルナンが最後に振り返った。


扉の横には。


『退室時刻』


という欄がある。


「帰る時も記録するんだな」


アルトが言う。


「はい」


「じゃあ、忘れないようにしよう」


アルトは扉を見た。


その時。


フェルナンが小さく呟いた。


「……これなら、誰かが後から記録を書き換えるのも難しい」


「どういう意味だ?」


「入室者全員が、その場で確認しているからです」


アルトは頷いた。


「なるほど」


そして。


保管庫の奥へ進んだ。


「……ずいぶん古いな」


マルクが呟く。


アルトは棚を見回す。


「古いから価値がある」


「資料として?」


「それもある」


アルトは奥の棚を見る。


「でも、黒帳が怖いのは古い資料じゃない」


「では何です?」


「古い資料と今の資料が、同じ場所にあることだ」


フェルナンが棚を確認する。


「……あります」


「何が?」


「十年前の物流改革資料です」


全員が動きを止めた。


フェルナンが一冊の薄い帳簿を取り出す。


表紙には。


『王国物流改革計画』


と書かれている。


アルトが受け取る。


ページをめくる。


「……これだ」


十年前。


レインハルト家に責任が集中する原因となった物流改革。


その原案。


「でも」


フェルナンが指差す。


「これには、レインハルト家に責任を負わせる記述がありません」


「やっぱりな」


アルトはページをめくる。


原案では。


物流改革の責任は複数の部署で分担されている。


レインハルト家だけに集中させる内容などない。


「なら、誰が変えた?」


ローディンが呟く。


「その答えが……ここにあるかもしれません」


ローディンが別の箱を指した。


箱には。


『承認記録』


と書かれている。


アルトは箱を開ける。


中には大量の書類。


その中から。


一枚だけ抜き取る。


「王家承認記録……」


日付を見る。


十年前。


そして。


その隣には。


現在の日付の記録がある。


「……同じだ」


アルトが呟く。


「何が?」


ヴィクターが聞く。


アルトは二枚を並べた。


十年前の承認記録。


現在の全国物流改革の承認記録。


どちらにも。


同じ位置に空白がある。


「承認者の名前がない」


部屋が静まり返る。


ローディンが顔を近づける。


「……本当だ」


「十年前も」


アルトはもう一枚を見る。


「今も」


フェルナンが息を呑む。


「同じ人物……?」


「それはまだ分からない」


アルトは首を振る。


「でも、同じ仕組みを使っている」


その時。


マルクが棚の奥を指差した。


「アルト」


「どうした?」


「あれ」


棚の隙間。


一枚の封筒が挟まっている。


封蝋には。


黒い小さな印。


黒帳の印だった。


「……ここに置いていったのか」


アルトは封筒を取る。


だが。


開ける前に気づいた。


「待て」


「どうした?」


「この封筒」


アルトは裏返す。


「宛名がない」


「……」


「差出人もない」


「じゃあ何のための封筒だ?」


マルクが首を傾げる。


アルトは少し考えた。


そして。


「俺たちに見つけさせるためだ」


「また罠か?」


「おそらく」


アルトは封筒を机に置いた。


「だから、すぐには開けない」


ヴィクターが驚く。


「開けないんですか?」


「黒帳がわざわざここに残したんだ」


アルトは封筒を見る。


「中身そのものより、俺たちが開けるという行動を見たい可能性がある」


ローディンが呟く。


「監視されている……?」


その瞬間。


――カチッ。


小さな音がした。


全員が振り向く。


部屋の奥。


棚の裏側。


「誰かいる!」


マルクが剣を抜く。


アルトは手を上げた。


「待て」


「またですか?」


「今度は違う」


アルトは音のした場所へ歩く。


棚の裏。


そこには。


小さな木箱が置かれていた。


箱の蓋には。


王家文書保管部署の確認印。


そして。


その上から。


黒帳の印が重ねて押されている。


アルトの表情が変わった。


「……黒帳が王家の書類を使ったんじゃない」


ローディンが息を呑む。


「まさか……」


アルトは木箱を見つめる。


「王家の管理記録そのものに、黒帳が触れている」


箱の中。


そこには一枚の紙があった。


アルトが取り出す。


そこに書かれていたのは。


『承認者の記録は、存在しない』


その下に。


小さく続いている。


『記録を残す必要がない者が承認するため』


アルトの目が細くなる。


「……そういうことか」


ヴィクターが聞く。


「誰なんです?」


アルトは答えなかった。


まだ。


名前を口にするには証拠が足りない。


だが。


十年前と現在。


二つの改革。


二つの承認記録。


同じ空白。


そして。


同じ文書管理系統。


アルトは紙を握った。


「黒帳の本当の目的が見えてきた」


「何です?」


「誰か一人を隠しているんじゃない」


アルトはゆっくり顔を上げた。


「承認者が、記録に残らない仕組みそのものを守っている」


その瞬間。


保管庫の外から。


――ドン!


大きな音が響いた。


全員が振り向く。


続いて。


ガチャリ。


外側から鍵が掛かった。


マルクが叫ぶ。


「閉じ込められたぞ!」


アルトは静かに笑った。


「……なるほど」


「笑ってる場合か!」


「いや」


アルトは手にした紙を見る。


「黒帳は、俺たちをここから出したくないんじゃない」


「じゃあ?」


アルトは扉を見る。


「この資料を持って、ここから出られたくないんだ」


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ①⑥④


「情報を探す時は、書いてあることだけを見るな。


『なぜ、そこに置かれているのか』


『なぜ、その情報だけ残っているのか』


『なぜ、別の情報が消えているのか』


そこまで考える。


情報の存在そのものが、相手からのメッセージになっていることがある。


営業でも同じだ。


相手が見せてきた資料だけではなく、


『見せなかった資料』


『残されていない記録』


を見ることで、本当の事情が見えてくる。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百六十六話「営業課長、消された承認記録」


第八保管庫で見つかった、十年前と現在の承認記録。


二つの記録に共通する「空白」。


そして。


『記録を残す必要がない者が承認するため』


という謎の一文。


アルトたちは保管庫に閉じ込められた。


黒帳は何を恐れているのか。


そして、消された承認記録の先にいる人物とは――。

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