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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百五十四話 営業課長、黒帳の幹部を釣り上げる


翌日。


アルトは王家の会議室にいた。


机の上には、一枚の書類。


表紙には大きく、


『全国物流改革・最終実施計画』


と書かれている。


もちろん。


本物ではない。


「本当に、これを流すの?」


エリシアが尋ねる。


「はい」


アルトは頷いた。


「今回は、今までとは違います」


「何が?」


「黒帳が絶対に欲しがる情報を入れました」


アルトは書類を開いた。


そこには、物流拠点の一覧。


新しい輸送ルート。


倉庫の配置。


さらに――。


『旧王家倉庫を再び物流権限の中核として使用する』


という一文。


エリシアが目を見開く。


「これでは、本当に改革を実施するように見えるわ」


「そこが狙いです」


「でも、旧王家倉庫は……」


「実際には中核にはしません」


アルトは笑う。


「黒帳が十年前から狙っている場所です」


レオンが静かに書類を見る。


「……あの倉庫を餌にするのか」


「そうです」


アルトは頷いた。


「黒帳が本当に十年前の事件と繋がっているなら、必ず反応します」


ヴィクターが一枚の資料を指差した。


「しかし、問題は誰に見せるかです」


「だから――」


アルトは資料を三部に分けた。


「今回は一人だけに渡します」


全員がアルトを見る。


「王家物流管理局の副責任者」


その名前は、


「ローディン」


だった。


マルクが眉をひそめる。


「ローディン?」


「ああ」


アルトは頷く。


「今まで黒帳との直接的な関係は確認できていない」


「だったら、なぜ?」


「だからこそです」


アルトは書類を閉じた。


「疑っているから渡すんじゃない」


「反応を見るために渡す」


ローディンが会議室へ入ってきた。


「お呼びでしょうか」


アルトは立ち上がった。


「ローディンさん。少し相談があります」


「はい」


アルトは一枚の書類を渡した。


「これはまだ正式発表前の計画です」


ローディンが目を通す。


「……全国物流改革の最終案?」


「そうです」


「私が見ても?」


「あなたには物流管理局の副責任者として、確認してもらいたい」


ローディンは真剣な顔で資料を読む。


しばらくして。


「分かりました」


書類を閉じる。


「この内容は、外部には漏らしません」


「お願いします」


ローディンは頭を下げ、部屋を出ていった。


扉が閉まる。


アルトは時計を見る。


「さて」


マルクが尋ねる。


「何時間で動くと思う?」


「早ければ今日中」


「そんなに早いか?」


「黒帳が本当にこの情報を欲しがっているならな」


だが。


その予想は外れた。


二時間後。


王家物流管理局から報告が入った。


「アルト様!」


騎士が駆け込んでくる。


「西地区の商会が、突然大量の馬車を手配しています!」


「理由は?」


「分かりません。ただ、旧王家倉庫へ向かう準備をしているようです」


アルトは頷いた。


「動いたか」


「ローディンから情報が漏れた?」


ヴィクターが尋ねる。


「まだ分からない」


アルトは地図を見る。


「馬車を追う」


西地区。


夕暮れ。


十数台の馬車が街道を進んでいた。


荷台には空の木箱。


だが。


その最後尾には、一台だけ妙な馬車が混じっていた。


アルトたちは距離を取って追跡する。


やがて馬車は旧王家倉庫へ到着した。


男たちが降りる。


「ここだ」


「本当に再稼働するのか?」


「間違いない」


「誰から聞いた?」


「王家の内部情報だ」


アルトは物陰から聞いていた。


「……そこまでは想定通り」


すると。


一人の男が周囲を見回した。


「まだ来ていないのか?」


「誰が?」


「黒帳の連絡役だ」


アルトの目が鋭くなる。


「……やっぱり」


その瞬間。


一台の馬車が到着した。


降りてきたのは、一人の男。


年齢は五十代。


上質な服。


左手には――。


銀色の指輪。


アルトは息を止めた。


ヴィクターが小声で言う。


「……あの印」


「十年前と同じだ」


男は倉庫へ入る。


アルトたちも後を追う。


中では男たちが集まっていた。


「情報は確かなのか?」


銀の指輪の男が尋ねる。


「はい。王家はここを物流改革の中心にするそうです」


男は薄く笑った。


「ならば、先に押さえる」


「しかし、ここは王家の所有地です」


「所有権ではない」


男は冷たく言った。


「物流の流れを押さえればいい」


アルトはその言葉を聞いて確信した。


こいつは黒帳の思想を理解している。


「誰の指示だ?」


別の男が尋ねる。


銀の指輪の男は答えた。


「上からだ」


「上?」


「十年前と同じだ」


その言葉に。


アルトの表情が変わった。


「……十年前と同じ」


ガレスが震える。


「そんな……」


銀の指輪の男は続ける。


「レオンの件で証明された」


レオンが目を細める。


「……俺の件を知っているのか」


アルトは一歩前へ出た。


「そこまでだ」


男たちが振り返る。


「なっ……!」


「アルト・レインハルト……!」


銀の指輪の男だけは動かなかった。


むしろ。


笑った。


「なるほど」


「何がなるほどだ?」


「あなたが、あのレオンの息子か」


レオンの表情が険しくなる。


アルトは男を見る。


「名前を聞こう」


「……セドリック」


その名を聞いた瞬間。


ヴィクターが息を呑んだ。


「違う!」


アルトも気づいた。


「ヴィクター?」


「こいつじゃない!」


ヴィクターは男を指差した。


「十年前、黒帳の連絡役だった男の名前は――」


男が笑う。


「やっと思い出したか」


そして。


銀の指輪を外した。


その内側には、別の刻印があった。


「私は黒帳の幹部ではない」


「では何者だ?」


男はアルトを見る。


「幹部に命令を伝える側だ」


空気が凍った。


アルトは静かに尋ねる。


「その上に、誰がいる?」


男は答えない。


だが。


懐から一枚の紙を取り出した。


「これを見れば分かる」


紙には王家の紋章。


そして――。


十年前の物流改革に関する正式な承認印が押されていた。


アルトはそれを見つめる。


「……これを誰が承認した?」


男は笑った。


「それを知りたければ――」


紙を破ろうとした。


「させるか!」


マルクが飛び込む。


男は逃げようとする。


しかし。


アルトは冷静だった。


「マルク!」


「分かってる!」


マルクが男の腕を押さえる。


紙は床へ落ちた。


アルトが拾う。


そして。


そこに残された最後の文字を見て――。


息を呑んだ。


『承認者――王家最高位』


アルトは顔を上げる。


「……王家最高位?」


エリシアの表情が変わった。


誰もが理解した。


これはもう。


単なる商人同士の争いではない。


十年前の事件の裏側には――。


王家の最上層まで届く何かがある。


そして。


その真相を知るためには、王城そのものを調べなければならない。


アルトは紙を握りしめた。


「……ここからが、本当の戦いだ」


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ①⑤③


「相手が欲しいものを理解すれば、相手の行動を予測できる。


さらに重要なのは、相手が『なぜ、それを欲しがるのか』まで考えること。


表面的なニーズの奥にある本当の目的を見つければ、相手の本音が見えてくる。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百五十五話「営業課長、王家最高位の承認印を調べる」


黒帳の情報網を追った先で見つかった、王家最高位の承認印。


十年前の物流改革を止めたのは、いったい誰なのか。


アルトは王家内部の記録を調べ始める。


しかし、その調査を始めた直後――。


王家からアルトへ、予想外の命令が下される。

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