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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百五十三話 営業課長、黒帳の情報網を逆利用する


翌朝。


王都は、昨日までとは違う騒がしさに包まれていた。


全国物流改革。


その噂が、商人たちの間を駆け巡っている。


「王家が物流を変えるらしい」


「港を管理するって話だぞ」


「いや、旧王家倉庫を復活させるらしい」


噂は、少しずつ形を変えていた。


アルトはそれを聞きながら、苦笑する。


「……噂って、勝手に成長するんだな」


「お前が撒いた種だろ」


マルクが呆れた顔をする。


「育てた覚えはないんだけどな」


「放っておいたら勝手に育つ」


「雑草みたいだな」


「営業の噂なんて、だいたいそんなもんだ」


二人は顔を見合わせた。


だが。


次の瞬間、アルトの表情が変わる。


「そろそろ来る」


「何が?」


「黒帳の本命」


アルトは一枚の資料を取り出した。


今回用意したのは、今までとは違う偽情報だった。


『王家、全国物流改革の最終案を三日後に正式承認』


さらに。


『旧王家倉庫を中心拠点として再稼働』


そして最後に。


『改革案には、十年前に停止された物流権限の復活も含まれる』


すべて嘘。


いや。


正確には、一部だけ本当だった。


本当に改革は進める。


だが、承認日は違う。


旧王家倉庫を中心拠点にする予定もない。


そして物流権限についても、まだ決定していない。


「今回は誰に渡す?」


マルクが聞く。


「誰にも渡さない」


「……は?」


「だからこそ面白い」


アルトは資料を机の上に置いた。


「この情報を、わざと見える場所に置く」


「それだけ?」


「いや」


アルトは笑った。


「見た人間が、誰かに報告するよう仕向ける」


マルクが頭を抱える。


「また面倒なことを……」


「営業って、面倒なことの積み重ねだからな」


その日の昼。


王家の物流管理局。


一人の職員が、机の上に置かれた資料を見つけた。


「……全国物流改革、最終案?」


周囲を確認する。


誰も見ていない。


職員は資料を一枚めくった。


そして。


その内容を記憶するように目を走らせた。


数分後。


職員は席を立った。


向かった先は――。


物流管理局の奥にある小さな部屋。


そこには別の男がいた。


「例の件です」


「何だ?」


「改革案の最終承認が三日後になるそうです」


男の表情が変わる。


「確かな情報か?」


「はい」


「旧王家倉庫は?」


「中心拠点として再稼働する予定だそうです」


男はしばらく黙っていた。


「……すぐに伝えろ」


「誰に?」


「決まっている」


男は低い声で答えた。


「黒帳へだ」


その会話を――。


別室で聞いている者がいた。


アルトである。


隣にはヴィクター。


さらにエリシアもいる。


「……聞きましたね」


ヴィクターが小声で言う。


「ああ」


アルトは頷く。


「でも、まだ捕まえない」


「なぜです?」


「ここで捕まえたら、また末端だけだ」


アルトは扉の向こうを見る。


「誰が最終的に情報を受け取るのか。それを知りたい」


夕方。


動きがあった。


王都の南側。


一台の荷馬車が動き出した。


荷台には空の木箱。


しかし、その中には一枚の紙が隠されている。


『旧王家倉庫を三日後に再稼働』


黒帳への連絡文だった。


アルトたちは距離を取って追跡する。


馬車は大通りを外れた。


さらに細い路地へ。


そして――。


古い商会の裏口で止まった。


男が降りる。


扉を三回叩く。


間を置いて、二回。


扉が開いた。


「例の情報だ」


「入れ」


男が中へ入る。


アルトは建物を見上げた。


「……この商会」


ヴィクターが呟く。


「知っているのか?」


「昔から王家と取引のある商会です」


アルトは眉をひそめる。


「黒帳と繋がっているのか?」


「それは分かりません」


「なら、もう少し待とう」


そのとき。


建物の二階。


窓に人影が現れた。


そして。


その人物が、誰かに紙を渡している。


ヴィクターが息を呑んだ。


「……あれは」


「どうした?」


「王家の紋章入りの封筒です」


アルトの目が細くなる。


「王家から直接?」


「いえ」


ヴィクターは首を振った。


「王家の内部から持ち出されたものです」


アルトは黙った。


黒帳。


商会。


王家。


十年前。


すべてが一本の線になり始めている。


だが。


ここでアルトは気づいた。


「……違う」


「何がです?」


「黒帳は、王家の情報を盗んでいるんじゃない」


アルトは建物を見る。


「王家の中から、情報を渡している人間がいる」


つまり。


黒帳が情報網を作ったのではない。


王家の内部に存在していた情報網を、黒帳が利用している。


「だから十年前から続いている」


アルトは呟いた。


そのとき。


建物から一人の男が出てきた。


服装は普通。


だが。


左手に銀色の指輪。


アルトは目を細める。


「……あれだ」


「銀の指輪……」


ヴィクターが震える。


ガレスから聞いた、十年前の記録。


同じ印。


同じ形。


そして――。


男が王家の方向へ歩き出した。


「追うぞ」


アルトたちは距離を保ちながら後を追った。


男は大通りを進み。


王城へ向かう。


やがて。


王家の物流管理局へ入っていった。


アルトは足を止めた。


「……ここまで来るか」


マルクが隣で呟く。


「つまり、あいつが?」


「まだ分からない」


アルトは首を振った。


「でも、かなり近い」


そのとき。


物流管理局の入口から、別の男が出てきた。


そして、銀の指輪の男と一瞬だけ目を合わせる。


何も言わない。


ただ。


小さく頷いた。


アルトはその瞬間を見逃さなかった。


「……二人いる」


「二人?」


「いや」


アルトは王城を見る。


「もっといるかもしれない」


黒帳は一人の裏切り者によって動いているわけではない。


情報を渡す者。


受け取る者。


運ぶ者。


そして。


その上に指示する者がいる。


アルトは静かに息を吐いた。


「ようやく、組織の形が見えてきた」


エリシアが尋ねる。


「では、次はどうするの?」


アルトは笑った。


「もっと大きな情報を流す」


「また?」


「ああ」


今度は、黒帳が無視できない情報。


そして。


絶対に確認しに来る情報。


アルトは王城を見上げた。


「黒帳が欲しがる情報を、黒帳自身に運ばせる」


その目には確かな自信があった。


「そして次は――」


アルトは呟く。


「情報を運んだ人間じゃなく、命令を出した人間を捕まえる」


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ①⑤②


「相手を追いかけるだけでは、主導権は取れない。


相手が欲しい情報をこちらから用意し、相手自身に動いてもらう。


営業でも交渉でも、相手の行動をこちらの戦略に組み込めれば、主導権は一気にこちらへ移る。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百五十四話「営業課長、黒帳の幹部を釣り上げる」


黒帳の情報網が、王家内部に存在していることが明らかになった。


アルトはついに、黒帳が絶対に無視できない「本物そっくりの重要情報」を流す。


そして、その情報を受け取るために動いた男の正体とは――。


十年前の事件を知る、意外な人物だった。

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