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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百五十二話 営業課長、黒帳に偽情報を掴ませる


王都。


全国物流改革案が漏れた。


その噂は、わずか数時間で商人たちの間に広がっていた。


「本当に王家が物流を管理するのか?」


「大規模な倉庫が必要になるらしい」


「新しい税まで作るという話もあるぞ」


アルトは街の様子を眺めながら、小さく笑った。


「……噂って、本当に広がるのが早いな」


隣のマルクが呆れた顔をする。


「お前が流したんだろ」


「俺じゃない」


「元を作ったのはお前だ」


「それはそうだけど」


アルトは肩をすくめる。


今回流した情報は、すべて偽物。


だが、完全な嘘ではない。


本物の改革案に似せて作ってある。


だからこそ、信じやすい。


「問題は、誰が食いつくかだ」


アルトは王家へ戻った。


会議室にはエリシア、レオン、ヴィクター、ガレスが待っていた。


机の上には三枚の報告書。


「一つ目」


ヴィクターが言う。


「西地区の商会が、偽の物流計画について問い合わせています」


「二つ目」


ガレスが続ける。


「王家の物流管理局からも、内容を確認しようとした者がいます」


「そして三つ目」


エリシアが報告書を見る。


「オルベルト伯爵の商会からも、同じ問い合わせがありました」


アルトは黙って資料を見つめる。


「予想通りだ」


レオンが尋ねる。


「黒帳か?」


「まだ分からない」


アルトは首を振る。


「ここで決めつけたら失敗する」


アルトは三枚の紙を並べた。


「大事なのは、誰が問い合わせたかじゃない」


「その後、何をするかだ」


アルトは一枚の紙を取り出した。


「だから、もう一段階仕掛ける」


マルクが嫌な顔をする。


「また偽情報か?」


「そう」


「今度は何だ?」


アルトは笑った。


「人によって内容を変える」


「……なるほど」


ヴィクターがすぐに理解した。


「それぞれ違う情報を渡して、どの情報が黒帳へ流れるかを見る」


「その通り」


アルトは三種類の資料を作った。


A。


「西部街道の物流拠点を、新たに王家直轄へ変更する」


B。


「港湾地区の倉庫を、黒帳対策のため一斉調査する」


C。


「旧王家倉庫を、全国物流改革の中心拠点として再稼働させる」


どれも嘘だった。


そして、それぞれ違う人物へ渡す。


「Aは物流管理局」


「Bは王家の警備担当」


「Cは記録管理担当」


アルトは三人に資料を渡した。


「絶対に他人へ見せないでください」


そう伝える。


だが――。


アルトは知っている。


「秘密にしてください」


と言われた情報ほど、なぜかよく広がる。


前世でも何度も見てきた。


人間とは、そういう生き物だ。


「さて……」


アルトは時計を見る。


「待とう」


数時間後。


最初の報告が入った。


「西部街道で、見慣れない商人が動いています!」


マルクが報告する。


アルトは頷いた。


「Aが漏れたか」


しかし、まだ決めない。


さらに待つ。


夕方。


二つ目の報告。


「港湾地区で、不審な男が倉庫を調べていたとのことです!」


「Bも漏れた」


ヴィクターが言う。


アルトは腕を組む。


「まだだ」


夜。


最後の報告が入った。


「旧王家倉庫の周辺で、不審な人物を確認しました!」


部屋の空気が変わった。


アルトは静かに立ち上がる。


「Cだ」


レオンが尋ねる。


「つまり?」


「三つ全部が漏れた」


マルクが眉をひそめる。


「じゃあ、誰が黒帳なんだ?」


「まだ分からない」


アルトは首を振った。


「でも、一つだけ違う」


「何が?」


「Cに反応した連中だけ、行動が早すぎる」


旧王家倉庫。


十年前の物流改革。


そして黒帳。


すべてが繋がっている。


アルトはすぐに指示を出した。


「旧王家倉庫を監視する」


「捕まえるのか?」


「いや」


アルトは首を振る。


「泳がせる」


「泳がせる?」


「黒帳の下っ端を捕まえても意味がない」


アルトは地図を広げた。


「そいつが誰に報告するのかを見る」


エリシアが頷く。


「本当の指示役を探すのね」


「そういうこと」


その夜。


旧王家倉庫。


一人の男が現れた。


周囲を確認する。


誰もいない。


男は懐から小さな紙を取り出した。


そこには――。


『旧王家倉庫、再稼働』


と書かれている。


男は倉庫へ入ろうとした。


その瞬間。


「こんばんは」


「っ!」


男が振り返る。


そこに立っていたのはアルトだった。


「な、何者だ!」


「営業担当」


「……は?」


アルトは笑った。


「ちょっと情報の確認をしたくてね」


男が逃げようとする。


しかし。


「そこまでだ」


マルクが背後から現れた。


逃げ道は塞がれていた。


男の顔から血の気が引く。


「誰に指示された?」


男は黙る。


「言わなくてもいい」


アルトは落ち着いていた。


「その代わり、これだけ教えてくれ」


アルトは一枚の紙を見せた。


「この情報を、誰から受け取った?」


男の目が動いた。


ほんの一瞬。


だが――。


アルトは見逃さなかった。


「……やっぱり」


「何がだ?」


マルクが尋ねる。


アルトは紙をしまう。


「こいつは黒帳の中心じゃない」


「では?」


「情報を受け取っただけだ」


アルトは倉庫の奥を見る。


「問題は、その情報を渡した人間だ」


そのとき。


男の懐から、小さな銀色の札が落ちた。


ヴィクターが拾い上げる。


「……この印」


ガレスの顔色が変わった。


「十年前と同じだ」


アルトは札を見る。


そして、静かに呟いた。


「黒帳はまだ、王家の中に手を伸ばしている」


だが。


アルトはそこで笑った。


「いや――」


「もう一つ分かった」


全員がアルトを見る。


「黒帳は、俺たちが偽情報を流していることに気づいていない」


「……!」


「だから、次の餌も食べる」


アルトは倉庫の奥へ歩き出した。


「今度は、もっと大きな餌を撒こう」


その目には、営業課長だった頃と同じ光が宿っていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ①⑤①


「情報は、一度で判断しない。


相手に違う情報を渡し、反応を比較する。


すると、見えなかった人間関係や情報経路が浮かび上がる。


営業でも同じだ。


相手の言葉だけではなく、『その後に何をしたか』を見ることが重要である。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百五十三話「営業課長、黒帳の情報網を逆利用する」


偽情報に食いついた黒帳。


しかし、アルトはさらに一歩先を読んでいた。


黒帳が欲しがる情報を、逆に黒帳へ流す。


そして――。


その情報を利用して動いた先には、王家内部の「ある人物」が待っていた。

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