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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百四十八話 営業課長、旧水路で黒帳を追い詰める


夜のグランディア。


商業祭の明かりが、通りを照らしている。


しかし、アルトたちが向かう南側には、祭りの喧騒は届いていなかった。


「……ここか」


アルトは足を止めた。


目の前にあるのは、古びた石造りの入口。


雑草に覆われ、長い間使われていないように見える。


旧水路。


かつて王家の物流拠点と倉庫を繋いでいた地下水路だった。


「本当に入るんですか?」


マルクが不安そうに尋ねる。


「ここまで来て帰る?」


「……帰りたい気持ちはあります」


「正直でよろしい」


アルトが苦笑する。


レオンが周囲を確認した。


「騎士たちは配置についた」


「エリシア様は?」


「後方にいる。万一に備えてもらっている」


「分かりました」


アルトは入口を見る。


「じゃあ、行こう」


石の階段を下りる。


一段。


また一段。


地下へ進むほど、空気が冷たくなる。


そして――。


「……何か聞こえません?」


マルクが小声で言った。


全員が足を止める。


水の滴る音。


風の音。


そして。


かすかな足音。


アルトが手を上げた。


全員が止まる。


「……いるな」


暗闇の奥。


何かが動いた。


「誰だ!」


レオンの声が響く。


返事はない。


その代わり――。


カツン。


金属が石床に落ちる音。


アルトが目を細めた。


「……銀の指輪」


足元に落ちていたのは、あの紋章が刻まれた指輪だった。


ヴィクターが息を呑む。


「黒帳……」


その瞬間。


奥から声がした。


「そこまで来たか」


低い男の声。


アルトが一歩前へ出る。


「誰だ?」


暗闇から、一人の男が姿を現した。


黒い外套。


顔の半分を隠すフード。


そして右手には――。


銀の指輪。


「……お前」


ヴィクターの顔色が変わった。


「知ってるの?」


アルトが聞く。


ヴィクターは男を見つめる。


「十年前……王家の物流改革に関わっていた男だ」


男が笑った。


「よく覚えていたな」


レオンの表情が険しくなる。


「名前は?」


男は答えない。


代わりにレオンを見た。


そして。


「レオン・レインハルト」


その名前を聞いた瞬間。


アルトの表情から笑みが消えた。


「……父上を知っている?」


男は答えない。


ただ、静かに言った。


「十年前、お前の父親は何も知らなかった」


レオンが眉をひそめる。


「……何?」


「だが、誰かが責任を負わなければならなかった」


ヴィクターが拳を握る。


「お前は……あの時の物流担当者か」


「そうだ」


男は笑った。


「私の名は――ガレス」


アルトはその名を聞いて、記憶を探った。


「王家の元物流監査官……」


「よく調べたな」


「あなたが十年前の物流変更命令を監査していた」


ガレスの笑みが消える。


「そうだ」


アルトは一歩前へ出た。


「じゃあ聞きたい」


「何を?」


「なぜ父上を犯人にした?」


沈黙。


水滴が床に落ちる。


ポタッ。


ポタッ。


やがてガレスが口を開いた。


「……私だけではない」


「誰がいた?」


「それを聞いてどうする?」


「決まっている」


アルトは真っ直ぐに男を見る。


「全部、表に出す」


ガレスが鼻で笑う。


「簡単に言うな」


「簡単じゃない」


アルトは答えた。


「だから十年かかった」


その言葉に、ガレスの表情がわずかに変わった。


「お前は……本当にレオンの息子か?」


「そうだよ」


「なら、なぜそこまで父親を信じられる?」


アルトは少し考えた。


そして笑った。


「父親だから」


「……」


「それに」


アルトは続ける。


「父上が本当に悪い人なら、俺はもっと楽だった」


「どういう意味だ?」


「疑う必要がないから」


ガレスが黙る。


アルトはさらに続けた。


「でも、十年前の記録を見る限り、父上は誰かに利用された」


「だから調べてる」


「営業でも同じだよ」


「……営業?」


ガレスが怪訝そうな顔をする。


マルクが小声で呟く。


「出た……」


アルトは構わず続けた。


「相手の言い分だけで判断しない」


「数字を見る」


「記録を見る」


「そして、実際の行動を見る」


ガレスの顔から笑みが消えた。


「……お前は危険だな」


「よく言われる」


その時。


後ろから声がした。


「アルト!」


エリシアだった。


「来てはいけません!」


アルトが振り返る。


「エリシア様!」


「どうしたの?」


「水路の奥にまだ人がいる!」


ガレスの表情が変わった。


「……しまった」


アルトがそれを見逃さなかった。


「奥に何がある?」


「……」


「ガレス」


アルトは低い声で問いかける。


「誰がいる?」


ガレスは答えない。


だが。


奥から複数の足音が聞こえた。


一人ではない。


二人。


三人。


いや――。


もっといる。


レオンが剣に手をかけた。


「アルト、下がれ」


「父上」


「ここからは危険だ」


「大丈夫」


アルトは首を振った。


「むしろ、ここまで来たなら確認したい」


「何を?」


アルトは暗闇を見る。


「黒帳が、何を守っているのか」


その瞬間。


奥から一人の男が走ってきた。


「ガレス!」


「どうした?」


「騎士団が近づいている!」


ガレスの顔が変わる。


「もう来たのか?」


アルトが笑う。


「来るよ」


「……何?」


「俺たちだけじゃない」


アルトは後ろを見る。


「旧水路の出口は、全部押さえてある」


ガレスが驚く。


「いつの間に……」


「入る前にね」


マルクが胸を張る。


「アルト様が『逃げ道を全部確認してから入る』って」


「マルク、言い方」


「すみません」


ガレスが周囲を見回す。


逃げ道はない。


「……黒帳を追い詰めたつもりか」


「そう」


アルトは答える。


「でも、俺はまだ一つ分からない」


「何だ?」


「黒帳の目的」


ガレスが笑う。


「金だ」


「違う」


アルトは即答した。


「金だけなら、十年も続ける必要がない」


「……」


「商人を支配するだけでもない」


「じゃあ何だ?」


アルトは地図を取り出した。


「物流」


西地区。


東地区。


南側。


そして王都。


「黒帳が欲しいのは、物流を握る権限だ」


ガレスの目が動いた。


アルトはその反応を見逃さなかった。


「当たりか」


「……」


「やっぱり」


ガレスが苦笑する。


「本当に嫌な男だ」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


「お前は何も分かっていない」


「じゃあ教えて」


アルトは一歩近づいた。


「十年前、何があった?」


ガレスはしばらく黙っていた。


そして――。


「王家は、全国の物流を一本化しようとしていた」


「……」


「だが、それが成功すれば、商人も貴族も自由に物流を操れなくなる」


「だから妨害した?」


「そうだ」


「父上を利用して?」


「……そうだ」


レオンの拳が震える。


「では、なぜ今になって黒帳が動いた?」


ガレスは答えた。


「王家が、もう一度物流改革を始めたからだ」


アルトの目が鋭くなる。


「俺たちの改革?」


「そう」


ガレスはアルトを見る。


「お前のやっていることは、十年前に王家が失敗した改革と同じ方向を向いている」


「だから潰そうとした」


「そうだ」


アルトは静かに息を吐いた。


ようやく。


すべてが繋がった。


二つの火事も。


偽情報への反応も。


旧水路も。


十年前の事件も。


そして――。


黒帳が商業祭を狙った理由も。


「……なるほど」


アルトは笑った。


「だったら、やることは一つだ」


「何をする?」


「改革を続ける」


ガレスが目を見開く。


「お前は……」


アルトは振り返った。


「エリシア様」


「ええ」


「これから王家に正式に提案します」


「何を?」


アルトは地図を広げた。


「グランディアだけじゃない」


「全国物流改革です」


その瞬間。


旧水路の奥から、何かが崩れる音がした。


ガラガラガラッ!


全員が振り返る。


「……まずい」


ガレスが呟いた。


「何が?」


「黒帳の連中が、証拠を燃やすつもりだ」


アルトの顔が変わった。


「全員、奥へ!」


「はい!」


闇の奥から、赤い炎が見えた。


十年前の真実を消すための火。


アルトたちは走り出した。


営業メモ①④⑦


営業では、相手を説得することだけが重要なのではない。


「相手が何を守ろうとしているのか」を見抜くことも重要だ。


ガレスの反応から、アルトは黒帳が本当に守りたいものを探った。


人は、興味のないものには強く反応しない。


だからこそ、相手が何に反応したのかを見る。


そこに、本当の目的が隠れている。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百四十九話「営業課長、十年前の証拠を燃やさせない」


旧水路の奥で、十年前の証拠が燃やされようとしていた。


「全部、燃やせ!」


黒帳の残党が火を放つ。


アルトたちは間に合うのか。


そして、燃えかけた書類の中から見つかった一枚の名前。


それは――。


王家内部の内通者を特定する、決定的な証拠だった。

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