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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百四十四話 営業課長、火事の裏にある本当の狙い


西地区倉庫。


白い煙が、空へと昇っていた。


「水を!」


「こちらです!」


「燃えている場所を確認しろ!」


消火班が慌ただしく動いている。


周囲には商人や住民が集まり始めていた。


アルトは、その様子を冷静に見ていた。


「……火は大きくない」


「はい」


ローディンが頷く。


「火元は倉庫の奥ですが、燃え広がる前に押さえられそうです」


「なら、計画通りだ」


「計画通り?」


「敵は倉庫を全焼させるつもりじゃない」


アルトは倉庫を見つめる。


「少し燃やして、混乱を起こす」


マルクが顔をしかめた。


「でも、それだけで何が?」


「問題は、その後だ」


アルトは搬送表を取り出した。


「火事によって使えなくなる在庫が出る」


「そうですね」


「商人たちは不足分を補充しようとする」


「はい」


「そこへ黒帳が用意した馬車を入れる」


マルクが息を呑んだ。


「……偽の搬送業者」


「そう」


アルトは頷いた。


「昨日確認した馬車と同じだ」


「つまり、混乱したところに入り込んで、勝手に商品を運ぶ?」


「それだけならまだいい」


アルトは続ける。


「問題は、どこへ運ぶかだ」


その時。


「アルト!」


エリシアが駆けてきた。


「倉庫内から変なものが見つかったわ!」


「何です?」


「来て」


アルトたちは倉庫の奥へ向かった。


火はすでにほとんど消えていた。


焼け焦げた棚。


黒くなった床。


散乱した袋。


その奥に、鉄製の箱が置かれていた。


「これは?」


ローディンが尋ねる。


倉庫責任者が首を振る。


「知りません。こんな箱、見たことがありません」


アルトは箱を調べる。


鍵は壊されていた。


中には、古い紙束。


アルトが一枚取り出す。


「……」


紙はかなり古い。


端は焼けている。


しかし文字は読める。


「これ……」


エリシアが覗き込む。


「王家の物流記録?」


「そうです」


アルトはページをめくる。


そこには十年前の日付が記されていた。


旧王家倉庫。


緊急輸送。


食料備蓄。


そして――。


「レインハルト家」


その文字を見た瞬間。


ローディンが息を呑む。


「またか」


アルトは黙って読み進める。


そこには、当時の物流経路が細かく記されていた。


「この倉庫……」


マルクが言う。


「十年前にも使われていたんですか?」


「そうみたいだ」


アルトは地図と記録を見比べる。


「しかも、現在の商業祭の物流ルートとほぼ同じだ」


「……!」


エリシアが驚く。


「つまり黒帳は……」


「十年前と同じ場所を使っている」


アルトはそう言った。


その時。


背後から声がした。


「そうだ」


全員が振り返る。


ヴィクターだった。


いつの間にか倉庫の入口に立っている。


アルトは警戒する。


「なぜここに?」


「話す必要があると思った」


ヴィクターは焼け焦げた記録を見る。


「十年前も、最初は小さな事故だった」


「事故?」


「倉庫の一部が燃えた」


ヴィクターは続ける。


「その直後、物流経路が変更された」


「誰が?」


「オルベルト伯爵側だ」


エリシアの表情が険しくなる。


「なぜ?」


ヴィクターは答えた。


「王家の物流改革を止めるためだ」


アルトは記録を握る。


「つまり……」


「当時、レオンたちは物流を効率化しようとしていた」


「はい」


「共同倉庫を作り、輸送経路を整理し、商人同士で情報を共有する計画だった」


アルトは静かに頷く。


今、自分たちがやっていることとほとんど同じだった。


「それを黒帳が邪魔した」


「そうだ」


ヴィクターは目を伏せる。


「物流を混乱させれば、改革は失敗する」


「そして、その責任をレインハルト家に押しつけた」


「……その通りだ」


アルトの拳が握られる。


「十年前と同じことを、またやろうとしている?」


「違う」


ヴィクターが首を振る。


「今回はもっと大きい」


「どういう意味です?」


「商業祭には、各地から商人が集まっている」


「ええ」


「つまり、ここで物流を混乱させれば――」


ヴィクターは一枚の紙を指差した。


「グランディア全体の商流を止められる」


アルトは目を細めた。


「……なるほど」


ようやく分かった。


黒帳の狙いは、商業祭を中止させることだけではない。


商業祭を利用して――


「この街の物流そのものを乗っ取るつもりか」


ヴィクターは頷いた。


「そうだ」


アルトはすぐに立ち上がった。


「マルク」


「はい!」


「共同倉庫の在庫を確認」


「今ですか?」


「今」


「分かりました!」


「ローディン」


「何だ?」


「西門、南門、東門を全部確認」


「分かった」


「エリシア様」


「何?」


「王家に連絡してください」


「何を?」


「商業祭の中止ではなく、物流ルートの保護を」


エリシアは頷いた。


「分かったわ」


アルトは地図を見る。


敵は物流を狙っている。


ならば。


物流を止めなければいい。


「……いや」


アルトは突然、考えを変えた。


「止める必要すらない」


マルクが戻ってくる。


「どうしました?」


「物流を、もっと増やす」


「え?」


「商品を一か所に集中させない」


アルトは地図に印をつけていく。


「共同倉庫を三つに分散」


「販売拠点も増やす」


「搬送時間もさらに細かく分ける」


「そして、どのルートが本物か分からないようにする」


マルクが目を見開く。


「敵に狙いを絞らせない?」


「そう」


アルトは笑った。


「物流を一つの大きな川にするから、せき止められる」


地図を指で分ける。


「なら、小さな川を何本も作ればいい」


ローディンが笑う。


「なるほど」


「黒帳が一つを止めても、他が動いている」


「つまり……」


「祭りは止まらない」


アルトは頷いた。


「それが答えです」


エリシアが戻ってきた。


「王家への連絡は終わったわ」


「ありがとうございます」


「それと」


エリシアがヴィクターを見る。


「この人はどうするの?」


アルトはヴィクターを見る。


「まだ聞きたいことがあります」


「私からも話すことがある」


ヴィクターは静かに答えた。


「黒帳には、まだ一人いる」


「誰です?」


「十年前、物流記録を書き換えた人物だ」


アルトの表情が変わる。


「……生きている?」


「おそらく」


「名前は?」


ヴィクターは一瞬黙った。


そして。


「王家の中にいる」


空気が凍った。


「……王家の中?」


エリシアが驚く。


ヴィクターは頷く。


「十年前から、ずっと」


アルトは考える。


黒帳。


オルベルト伯爵。


偽造された記録。


そして王家内部の人間。


「なるほど」


アルトは静かに笑った。


「ようやく、相手の顔が見えてきた」


その瞬間。


倉庫の外から声が響く。


「アルト様!」


一人の騎士が駆け込んできた。


「大変です!」


「何があった?」


「東地区でも、火が出ました!」


アルトは目を閉じた。


「……始まったか」


敵は、一か所を狙っているのではない。


同時に複数の場所を混乱させるつもりだ。


しかし。


アルトは笑った。


「ちょうどいい」


「何がです?」


「黒帳が動いてくれた」


アルトは地図を広げた。


「これで、全部の動きを追える」


商業祭初日。


本当の戦いは、始まったばかりだった。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ①④③


「問題を一つずつ潰すのではなく、仕組みそのものを変える」


一つの倉庫が狙われたからといって、その倉庫だけを守ればいいとは限らない。


相手が「一か所を止めれば全体が止まる」という仕組みを狙っているなら、その仕組み自体を変える。


一つに集中しているなら分散する。


一つのルートに依存しているなら複数化する。


営業でも組織運営でも、「問題を防ぐ」だけでなく「問題が起きても全体が止まらない仕組み」を作ることが重要である。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百四十五話「営業課長、二つ目の火事を逆手に取る」


東地区でも発生した火災。


黒帳は複数の物流拠点を同時に狙い、グランディアの商流を混乱させようとしていた。


しかし、アルトは逆にその動きを利用する。


「全部、同時に動かしてください」


分散物流が本格的に始まる。


そして、黒帳の情報網を追った先で判明する。


王家内部に潜む、十年前からの協力者。


その人物の正体が、ついに明らかになる――。

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