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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百四十三話 営業課長、商業祭開幕


朝。


グランディアの街に、大きな鐘の音が響いた。


――ゴォォォン。


商業祭、開幕。


通りには商人たちの商品が並び、色とりどりの旗が風に揺れている。


普段は静かな広場も、今日は人で埋め尽くされていた。


「すごい人ですね……」


マルクが呟く。


「予想以上だな」


アルトも周囲を見渡した。


商人。


農家。


職人。


旅人。


そして、近隣の村からやって来た人々。


誰もが祭りを楽しみにしている。


「これなら大成功ですね!」


マルクが笑う。


だが。


アルトは笑っていなかった。


「まだ始まったばかりだ」


「え?」


「祭りは三日間」


アルトは会場の奥を見る。


「今日一日を乗り切っただけじゃ成功とは言えない」


その時。


エリシアがやってきた。


今日は王家の立場を隠すため、簡素な服装をしている。


「アルト」


「エリシア様」


「様は禁止」


「……エリシアさん」


「よろしい」


エリシアは満足そうに頷いた。


「会場は問題なさそうね」


「表向きは」


「表向き?」


「敵も今日を狙っています」


エリシアの表情が変わる。


「何か分かったの?」


「まだです」


アルトは答える。


「だから、普通に祭りを進めます」


「何もしないの?」


「いえ」


アルトは笑った。


「全部見ています」


会場では、共同販売の仕組みが順調に動いていた。


商品には価格表示。


重量も明記。


販売数も記録。


各商会の売上も透明化されている。


「これなら値段をごまかせない」


マルクが言う。


「そう」


アルトは頷く。


「消費者からすれば、安心して買える」


「商人側にもメリットがありますね」


「信用が上がる」


アルトは会場を見渡した。


「それが今回の目的の一つだ」


すると。


広場の中央から歓声が上がった。


「始まったぞ!」


「新しい商品だ!」


「こっちの店も安い!」


祭りは順調に盛り上がっていく。


その頃。


西門。


一台の馬車が近づいていた。


御者は周囲を確認する。


「予定通りだ」


馬車の中には、木箱が積まれている。


しかし。


その馬車を監視する人間がいた。


ローディンだ。


「……来たな」


彼は合図を送った。


少し離れた場所にいた騎士が頷く。


馬車は西門を通過。


そして――。


予定とは違う道へ向かった。


ローディンが追う。


だが。


「……待て」


途中で馬車が止まった。


男が降りる。


周囲を確認する。


そして木箱を一つ、別の馬車へ移した。


「荷物の受け渡しか」


ローディンが目を細める。


そこへ。


別の人物が現れた。


黒い外套。


左手には銀色の指輪。


「……あいつか」


ローディンは剣に手をかける。


しかし。


捕まえない。


アルトからの指示だ。


「まだだ」


その頃。


祭り会場。


アルトの前に、一人の男が現れた。


「久しぶりだな」


アルトは男を見る。


「……あなたは」


男は笑った。


「覚えているか?」


「もちろん」


十年前の記録に残されていた人物。


オルベルト伯爵の元側近。


名前は――


「ヴィクター」


男は頷いた。


「そうだ」


アルトの表情が険しくなる。


「なぜここに?」


「祭りを見に来ただけだ」


「それにしては、ずいぶん堂々としていますね」


「私は商人だ」


「十年前も?」


ヴィクターの笑顔が消える。


「……随分調べたようだな」


「営業ですから」


「営業?」


「相手を知るのも仕事です」


ヴィクターが小さく笑う。


「相変わらず面白い男だ」


「相変わらず、ということは」


アルトは一歩近づいた。


「十年前から私を知っている?」


ヴィクターは黙った。


「……」


アルトは確信した。


「やっぱり」


ヴィクターは視線を逸らした。


「今日は昔話をするために来たわけではない」


「では何を?」


「警告だ」


「警告?」


ヴィクターは周囲を見る。


「今日、この祭りで事件が起きる」


アルトの目が細くなる。


「知っているんですか?」


「知っている」


「誰が起こす?」


ヴィクターは答えない。


「なぜ教えるんです?」


「……十年前の借りを返すためだ」


その瞬間。


遠くから鐘が鳴った。


――カン、カン、カン。


マルクが走ってくる。


「アルト!」


「どうした?」


「西地区倉庫から緊急連絡です!」


「何があった?」


「火が出ました!」


アルトの表情が変わる。


「規模は?」


「まだ小さいですが、倉庫内に燃えやすい商品が大量にあります!」


アルトは即座に指示を出す。


「ローディンへ連絡!」


「はい!」


「西地区への搬送を止める!」


「分かりました!」


「商業祭会場は通常営業を継続!」


マルクが驚く。


「祭りを続けるんですか?」


「当然だ」


アルトは即答した。


「ここで祭りを止めたら、黒帳の思う壺だ」


ヴィクターがアルトを見る。


「……やはりそうするか」


アルトが振り返る。


「ヴィクター」


「何だ?」


「あなたは、この事件が起きることを知っていた」


「……」


「なら、まだ終わっていないことも知っていますね?」


ヴィクターは答えなかった。


その沈黙が答えだった。


アルトは走り出す。


「行きます!」


「アルト!」


エリシアが追いかける。


「私も行く!」


「危険です!」


「王女だからこそ、現場を見る必要があるわ!」


アルトは一瞬だけ考えた。


「……分かりました」


二人は西地区へ向かう。


街は祭りの真っ最中。


人々はまだ、何も知らない。


だが。


アルトは理解していた。


今回の火事は、ただの放火ではない。


敵は、祭りを止めるためではなく――


「……次の一手のために火をつけた」


アルトが呟く。


エリシアが聞く。


「どういう意味?」


「倉庫が燃えれば、商品が不足する」


「ええ」


「すると追加搬入が必要になる」


「……!」


「そして、そこに事故を仕掛ける」


エリシアの顔が青ざめる。


「道路を混乱させるつもり?」


「たぶん」


アルトは前を見る。


「でも、黒帳の計画には一つ誤算があります」


「何?」


アルトは笑った。


「僕たちは、もうその手を知っています」


西地区。


倉庫から煙が上がっている。


その周囲には、人が集まり始めていた。


アルトは立ち止まる。


「消火班を入れる!」


「はい!」


「倉庫内の商品を勝手に運び出すな!」


「え?」


「燃えているのは一部だけだ」


アルトは冷静に判断する。


「慌てて商品を移動させれば、混乱する」


そして。


「敵はそこを狙っている」


火はまだ小さい。


しかし。


本当の戦いは、ここからだった。


商業祭初日。


黒帳の最初の一手が、ついに始まった。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ①④②


「トラブルが起きたときほど、全体を見る」


目の前の問題だけに集中すると、本当の目的を見失う。


今回の火事も、


「火を消す」


だけでは終わらない。


「火事の後に何が起きるのか」


「誰が、その混乱で利益を得るのか」


そこまで考えて初めて、問題の本質が見えてくる。


営業でもトラブル対応でも、


「今、何が起きているか」


だけではなく、


「この後、何が起きるのか」


を考えることが重要である。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百四十四話「営業課長、火事の裏にある本当の狙い」


西地区倉庫で発生した火事。


アルトは消火と同時に、黒帳が次に仕掛ける場所を予測する。


しかし、倉庫の中から発見されたのは、燃えた商品だけではなかった。


「……これは、十年前の記録?」


そしてヴィクターが語る、十年前の真実。


黒帳が商業祭を利用して狙っている本当の目的が、ついに明らかになる――。

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