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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百四十二話 営業課長、祭り前日に黒帳の正体へ迫る


商業祭まで、あと一日。


グランディアの街は、最後の準備に追われていた。


店先には商品が並び、通りには飾り付けが増えている。


商人たちの顔にも、期待と緊張が入り混じっていた。


明日。


この街で、過去最大規模の商業祭が始まる。


アルトも共同倉庫で最終確認をしていた。


「東地区、問題なし」


「南地区も予定通りです」


マルクが報告する。


「西地区は?」


「今、確認中です」


その時だった。


倉庫の入口から、一人の男が駆け込んできた。


「アルト様!」


「どうした?」


「西地区倉庫で問題が発生しました!」


アルトの表情が変わる。


「何があった?」


「荷物が一部、なくなっています!」


「数量は?」


「小麦粉が二十袋。それと乾物が十箱です」


マルクが顔をしかめた。


「盗難……?」


「まだ分かりません」


アルトはすぐに立ち上がった。


「現場へ行きます」


西地区倉庫。


到着すると、倉庫の前には数人の商人が集まっていた。


「アルト!」


一人の商人が駆け寄ってくる。


「大変なんだ!」


「落ち着いてください」


アルトは倉庫の中へ入った。


棚を見る。


帳簿を見る。


床を見る。


そして――。


「……鍵は?」


「壊されていません」


「窓は?」


「全部閉まっています」


「誰が最後に確認した?」


倉庫責任者が答える。


「昨日の夜、私ともう一人の担当者です」


「二人で?」


「はい」


アルトは頷いた。


「なら、外から盗まれた可能性は低い」


マルクが言う。


「内部の人間?」


「それもまだ分からない」


アルトは棚を確認する。


すると、一つの袋が目に入った。


「これ」


持ち上げる。


小麦粉の袋。


しかし――。


「……中身が違う」


袋の表記は小麦粉。


だが、中には砂が入っていた。


「偽物……」


マルクが絶句する。


「どういうこと?」


アルトは袋を床に置いた。


「盗まれたんじゃない」


「え?」


「すり替えられた」


本物を持ち出し、代わりに別のものを入れている。


しかも。


「重量はほぼ同じです」


アルトが言った。


「だから、帳簿上も気づきにくい」


倉庫責任者が青ざめる。


「そんな……」


アルトはさらに棚を調べる。


そして。


床に小さな金属片が落ちているのを見つけた。


拾い上げる。


「……これか」


「何です?」


アルトは金属片を裏返した。


そこには小さな紋章が刻まれていた。


銀色の指輪と同じ紋章。


「また……」


マルクが息を呑む。


「十年前の記録と同じですか?」


「そう」


アルトは頷いた。


だが。


「今回はもっと分かりやすい」


「?」


「敵が、わざと残している」


ローディンが眉をひそめる。


「わざと?」


「そうじゃなければ、こんな場所に落ちている理由がない」


アルトは金属片を見つめた。


「これは証拠じゃない」


「じゃあ何だ?」


「挑発です」


その言葉に。


周囲の空気が変わった。


敵は、アルトが十年前の事件を調べていることを知っている。


だからこそ。


あえて同じ紋章を残した。


「つまり……」


マルクが呟く。


「こちらを見ている?」


「その可能性が高い」


アルトは立ち上がった。


「でも、問題はそこじゃない」


「まだ何かあるのか?」


アルトは棚を見る。


「盗まれた商品を調べます」


「商品?」


「はい」


アルトは帳簿を開いた。


「小麦粉二十袋。乾物十箱」


「それが?」


「どちらも祭り当日に大量に売れる商品です」


マルクが頷く。


「はい」


「でも、黒帳が本当に欲しいなら、もっと価値の高い商品を狙うはずです」


ローディンが考える。


「……確かに」


「つまり」


アルトは言った。


「商品の価値そのものが目的じゃない」


「では何が?」


アルトは倉庫の配置図を見る。


そして。


「この倉庫から商品を出すには、どのルートを使う?」


マルクが答える。


「西門からです」


「その先は?」


「商業祭の会場」


アルトは頷いた。


「つまり、敵が欲しいのは商品じゃない」


「……搬送ルート?」


「正解」


アルトは地図を広げた。


「昨日、黒帳が警備情報を探っていた」


「そして今日は、実際の搬送ルートを確認した」


「そう」


アルトの顔から笑みが消えた。


「明日、何かを動かすつもりだ」


その時。


外から声が響いた。


「アルト!」


一人の騎士が駆け込んできた。


「王城から連絡です!」


「何です?」


「西門付近で、不審な馬車が確認されました!」


アルトが地図を見る。


西門。


そして倉庫。


さらに商業祭会場。


「……全部つながっている」


エリシアも駆けつけてきた。


「アルト!」


「エリシア様」


「何があったの?」


アルトは簡潔に説明した。


エリシアの表情が険しくなる。


「明日、事件を起こすつもりなのね」


「おそらく」


「止められる?」


アルトは少し考えた。


そして。


「止めません」


「え?」


エリシアが目を丸くする。


「もちろん、事故は防ぎます」


アルトは地図を指差した。


「でも、黒帳が何をしようとしているのか、まだ分かっていません」


「……」


「なら、相手が動く直前まで見ます」


ローディンが笑った。


「また泳がせるのか」


「はい」


「好きだな、それ」


「効果的ですから」


アルトは地図に印をつけた。


「ただし今回は、こちらも罠を張ります」


「どんな?」


「明日の搬送ルートを三つに分けます」


マルクが理解する。


「実際のルートとは別に、偽のルートを二つ作る?」


「そう」


「敵がどこを狙うかを見る」


「その通り」


さらにアルトは続ける。


「そして、王家の騎士にはそれぞれ別の警備情報を伝えます」


エリシアが驚く。


「また偽情報?」


「はい」


「あなた、本当に好きね」


「情報は武器ですから」


アルトは笑った。


「しかも、今回は敵が情報を欲しがっている」


エリシアも笑った。


「なら、たくさん与えてあげればいい」


「その通りです」


こうして。


祭り前日の夜。


グランディアの街では、表向きは静かに準備が進んでいた。


だが裏では。


アルト。


王家。


商人たち。


そして黒帳。


それぞれが、最後の一手を打ち始めていた。


深夜。


一台の馬車が西門へ向かう。


御者は周囲を確認する。


そして。


小さく呟いた。


「予定通りだ」


だが。


その馬車を、遠くから見ている人影があった。


アルトだった。


「……来た」


隣のローディンが聞く。


「捕まえるか?」


「まだ」


「本当に?」


「もう少しだけ」


アルトは馬車を見つめる。


やがて馬車は、予定していた道とは違う方向へ曲がった。


ローディンが驚く。


「……偽ルートに入った」


「そう」


アルトは笑った。


「これで確定した」


「何が?」


アルトは静かに答えた。


「黒帳の情報網が、どこにつながっているのか」


馬車の先。


そこには、小さな建物があった。


その建物の扉が開く。


中から出てきた人物を見た瞬間。


アルトの表情が固まった。


「……まさか」


ローディンも目を見開く。


「知っている人物か?」


アルトは答えなかった。


ただ、その人物を見つめていた。


十年前の記録。


銀色の紋章。


黒帳。


そして――。


現在の商業祭。


すべてが、つながった。


「明日で終わらせる」


アルトは静かに言った。


商業祭まで、あと数時間。


いよいよ最後の戦いが始まる。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ①④①


「相手の行動を止める前に、目的を見抜く」


問題が起きたとき、目の前の損失だけを取り戻そうとすると、本当の目的を見失うことがある。


「なぜ、この商品なのか?」


「なぜ、この場所なのか?」


「なぜ、このタイミングなのか?」


一つ一つの行動には、必ず理由がある。


営業でもトラブル対応でも、「起きたこと」だけではなく「なぜ起きたのか」を考えることが重要だ。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百四十三話「営業課長、商業祭開幕」


ついに商業祭当日。


街は多くの商人と客で賑わい始める。


しかし、その裏では黒帳が最後の計画を実行に移す。


そしてアルトの前に現れたのは、十年前の事件に関わっていた人物だった。


「久しぶりだな、アルト・レインハルト」


商業祭は、ただの祭りではない。


十年前から続く因縁に決着をつける、最後の商談が始まる――。

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