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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百三十八話 営業課長、商業祭開催禁止を覆す


王城の会議室。


長い机を囲むように、王家の重臣たちが並んでいた。


その中央には、アルト。


隣にはエリシア。


そして少し離れた場所に、レオン、マルク、ローディンが座っている。


議題は一つ。


商業祭を開催するかどうか。


「黒帳から正式な開催禁止申請が出ています」


重臣の一人が書類を読み上げる。


「理由は、商業祭による市場混乱、価格高騰、治安悪化の可能性。そして、大規模な商人の移動による物流混乱です」


アルトは黙って聞いていた。


やがて、書類を指差す。


「……全部、“可能性”ですね」


「そうだ」


「実際に起きた証拠は?」


会議室が静かになる。


重臣は少し眉を寄せた。


「現時点ではない」


「では、開催禁止の根拠としては弱いですね」


アルトは淡々と言った。


エリシアが小さく笑う。


「アルトらしいわね」


「営業では、根拠のない不安だけで商談を断られたら困りますから」


「……ここは商談ではないぞ」


「似たようなものですよ」


「どこがだ」


「相手に納得してもらうところが」


重臣たちの何人かが苦笑した。


しかしアルトは笑っていない。


机の上に、一枚の資料を置いた。


「こちらをご覧ください」


そこには、商業祭開催による予測データが並んでいた。


来場予定者数。


商人の数。


必要な馬車数。


倉庫の使用量。


食料の必要量。


宿泊施設の受け入れ能力。


そして、各地域への物流配分。


「……随分と細かいな」


「商業祭は三日間です」


アルトは資料をめくる。


「だからこそ、事前に数字を出しました」


「数字?」


「はい」


アルトは地図を広げた。


「商人を一か所に集中させません」


「どういうことだ?」


「商品を分散して保管し、販売場所も複数に分けます」


マルクが続ける。


「共同倉庫を利用し、搬入時間も分散させます。さらに各商会ごとの搬入量を事前に登録しています」


ローディンも資料を差し出した。


「馬車についても同様です。時間帯ごとの搬入枠を設定しています」


重臣が資料を見る。


「……つまり、混乱する前提で準備している?」


「その通りです」


アルトが答えた。


「問題は、混乱を防ぐ準備をしているかどうかです」


一瞬、沈黙。


アルトはさらに一枚の紙を出した。


「そして、こちらが過去三か月の共同物流実績です」


数字が並ぶ。


輸送時間。


輸送費。


在庫回転率。


欠品率。


そして、事故件数。


重臣の一人が目を見開いた。


「事故件数が……減っている?」


「はい」


「どれくらいだ?」


「以前より約三割減っています」


「三割……」


アルトは頷いた。


「商業祭を開催するために新しい仕組みを作ったのではありません」


「……」


「商業祭を安全に開催できるよう、すでに商業そのものの仕組みを変えてきたんです」


会議室が静かになった。


エリシアが資料を見ながら微笑む。


「つまり、商業祭だけを見て判断するのではなく、ここまで積み上げてきた実績を見るべきだと?」


「はい」


アルトは答えた。


「祭りは三日間ですが、準備した仕組みは三日で終わりません」


レオンが静かに口を開く。


「アルトの言う通りです」


重臣たちがレオンを見る。


「今回の物流体制は、商業祭が終わった後も使えます。むしろ、この機会に実際の大規模物流で検証できる」


アルトは頷いた。


「そういうことです」


そして最後の資料を出した。


「商業祭を中止することで失われる利益も計算しました」


「……利益まで?」


「商売ですから」


アルトは真顔だった。


「開催禁止によって、商人だけではなく宿屋、食料商、運送業者、農家まで損失を受けます」


数字を指で追う。


「そして、その損失は黒帳が市場から撤退した場合より大きい」


重臣の顔色が変わる。


「つまり……」


「開催禁止は、黒帳を排除することではありません」


アルトは言った。


「普通の商人まで巻き込んで、地域経済全体を止める可能性があります」


エリシアが静かに頷いた。


「よく分かったわ」


そして王家側の代表が口を開いた。


「商業祭の開催禁止申請については、保留とする」


「……!」


アルトが顔を上げる。


「ただし、条件があります」


「はい」


「治安対策をさらに強化すること。そして、万が一問題が発生した場合、即座に祭りを停止できる体制を作ること」


アルトは即答した。


「分かりました」


こうして。


商業祭の開催は、正式に認められる方向へ動き始めた。


だが――。


同じ頃。


王都の裏通り。


黒い外套を着た男たちが、薄暗い倉庫に集まっていた。


「……開催禁止は失敗した」


男の一人が低い声で言う。


「ならば、別の方法を使う」


机の上には商業祭の会場図。


そして、搬入時間の一覧。


男が指で一点を叩いた。


「ここだ」


「搬入倉庫?」


「そうだ」


男は笑った。


「祭りそのものを止める必要はない」


「……?」


「祭りで事故を起こせばいい」


誰も口を開かなかった。


「馬車同士を衝突させる。商品を盗ませる。倉庫の在庫を消す。客同士の喧嘩を起こす」


男は淡々と続ける。


「一つでも大きな事件が起きればいい」


そして最後に。


「アルトは数字で王家を説得した」


男は資料を握り潰した。


「なら、その数字では説明できない“事件”を作ってやる」


一方。


王城を出たアルトたちは、街へ向かっていた。


「……アルト」


エリシアが声をかける。


「はい?」


「本当に大丈夫?」


「何がです?」


「黒帳よ」


アルトは少しだけ考えた。


そして笑った。


「大丈夫じゃないと思います」


「え?」


「だから準備します」


アルトは前を見る。


「営業でも同じですよ」


「……?」


「契約が決まった後が、一番危ないんです」


マルクが首を傾げる。


「どういう意味だ?」


「契約を取った瞬間、安心して手を抜く人がいます」


アルトは言った。


「でも、本当に大事なのは、その後です」


そして商業祭の会場を見つめた。


「黒帳も、きっとそう考えている」


アルトの目から笑みが消えた。


「だから――」


一歩、足を止める。


「祭り当日じゃなく、その前から全部見張ります」


エリシアが頷く。


「分かったわ」


アルトは再び歩き出した。


商業祭まで、あと三日。


準備は整った。


数字も。


物流も。


人員も。


そして――。


敵も動き始めている。


「さて……」


アルトは小さく呟いた。


「最後の営業だな」


商業祭という巨大な商談を成功させるために。


営業課長、最後の仕上げに入る。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ①③⑦


「契約を取ること」と「契約を成功させること」は別物。


営業では、契約成立がゴールではない。


むしろ、そこからが本当の勝負になる。


相手が安心した後こそ、問題が起きやすい。


だからこそ、


「決まったから大丈夫」


ではなく、


「決まったからこそ、最後まで確認する」


この意識が重要だ。


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第百三十九話「営業課長、祭りの三日前に敵を見つける」


商業祭まで、あと三日。


アルトは会場、倉庫、物流、商人、そして来場者の動きを徹底的に確認する。


しかし、その途中で一つの不自然な数字を発見する。


「……この搬入量、おかしい」


黒帳が仕掛けた最初の罠。


営業課長アルトは、その異変を見抜けるのか――。

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