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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百二十七話 営業課長、王都の物流を奪い返す


 王都。


 朝だというのに、市場には活気がなかった。


 普段なら荷馬車が行き交い、商人たちの声が響いている。


 しかし今日は違う。


「小麦が届かない!」


「昨日注文した野菜はどうなったんだ!」


「魔石の納品も止まっているぞ!」


 あちこちから怒声が上がっている。


 物流が止まれば、商売も止まる。


 商売が止まれば――街そのものが止まる。


 そんな王都へ、アルトたちが戻ってきた。


「……想像以上だな」


 馬車から降りたアルトは、街の様子を見渡した。


 店は開いている。


 だが、棚に商品がない。


 商人たちは困惑し、荷馬車は街道の途中で止まっている。


 アルトの隣で、マルクが呟いた。


「これ、かなりまずくないか?」


「うん」


「どうする?」


「まずは――」


 アルトは市場の中心へ歩き出した。


「商人を集める」


「いきなり?」


「こういう時こそ、直接話したほうが早い」


 アルトは笑った。


「電話もメールもない世界だからね」


「……また変なこと言ってる」


「気にしないで」


 その頃、王宮。


 王太子は父である国王の執務室に入っていた。


 国王は寝台に横たわっている。


 意識はある。


 しかし、顔色は悪い。


「父上」


「……来たか」


「はい」


「北部は?」


「無事です」


「アルトは?」


「こちらへ向かっています」


 国王は少し安心したように目を閉じた。


「そうか……」


「父上」


「何だ?」


「王宮の物流管理権限が、別の部署へ移されていました」


 国王の眉が動く。


「誰の命令だ?」


「それが――」


 王太子は書類を取り出した。


「父上の印が押されています」


「……私の?」


「はい」


 国王は書類を見る。


 しばらくして。


「これは私の命令ではない」


 王太子の顔が険しくなる。


「やはり」


「偽造か?」


「おそらく」


「なら、すぐに取り消せ」


「それができません」


「なぜだ?」


「物流管理局の権限そのものが、すでに別の者へ移されています」


 国王は黙った。


「……つまり」


「王宮内部に、かなり深く入り込んでいる者がいる」


 王太子は頷いた。


「黒帳です」


 国王の表情が変わる。


「その名前を……知っているのか?」


「はい」


「誰から聞いた?」


「アルトです」


 国王は小さく息を吐いた。


「……あの子か」


「父上もご存じなのですか?」


「レオンの息子だ」


 国王は天井を見つめる。


「レオンなら、いつかこうなると思っていた」


「何を?」


「十年前に終わらせたはずの問題が――」


「また動き出すことをだ」


 王太子は拳を握った。


 一方、市場。


 アルトは商人たちを集めていた。


「皆さん、今日は集まっていただいてありがとうございます」


「それで、何をするつもりなんだ?」


 一人の商人が尋ねる。


「物流を再開します」


「簡単に言うな!」


 別の商人が怒鳴った。


「倉庫が封鎖されているんだぞ!」


「街道も止まっている!」


「勝手に荷物を動かしたら、王宮に処罰される!」


 アルトは黙って聞いていた。


 そして、一人ずつ顔を見る。


「皆さん」


「今、一番困っていることは何ですか?」


「……」


「商品がないこと?」


「違う」


 一人の商人が答えた。


「明日、何が起きるか分からないことだ」


 アルトは頷いた。


「そうです」


「今必要なのは商品だけじゃない」


「情報です」


 商人たちが顔を見合わせる。


「どこに何があるのか」


「どの道が使えるのか」


「誰が運べるのか」


「誰が信用できるのか」


「それが分からないから、全員が動けない」


 アルトは紙を広げた。


「だから、僕が情報をまとめます」


「そして、皆さんには物流を動かしてもらいます」


「だが、王宮の許可がない」


「あります」


 アルトは一枚の書類を掲げた。


 王太子の署名。


「王太子殿下から、北部物流の調査と再構築に関する権限をいただいています」


「本当に?」


「本物だ」


 ローディンが確認する。


「王家の印もある」


 商人たちがざわめく。


 アルトは続けた。


「ただし、一つ問題があります」


「何だ?」


「この許可証だけでは、王都全域の物流を動かせない」


「だから――」


 アルトは商人たちを見る。


「皆さんの協力が必要です」


「協力と言われてもな」


 商人の一人が腕を組む。


「商品を出せば、売れ残るかもしれない」


「運べば、盗まれるかもしれない」


「失敗したら誰が責任を取る?」


 アルトは答えた。


「僕です」


 全員が黙る。


「僕が責任を持ちます」


「どうやって?」


「商取引の契約を結びます」


 アルトは契約書を取り出した。


「物流が正常化した場合のみ、利益の一部を支払う」


「つまり、皆さんのリスクを僕が一部引き受けます」


「そんなことをして、お前に何の得がある?」


 アルトは笑った。


「王都が正常に戻れば、僕の商会も助かります」


「それに――」


「商売は、一人ではできませんから」


 商人たちの表情が変わった。


 その時。


「アルト!」


 エリシアが駆けてきた。


「王宮から連絡です!」


「何?」


「王太子殿下から」


 アルトが書類を受け取る。


 そこには短い一文。


『王都の物流再建を、アルト・レインハルトに一任する』


 アルトは笑った。


「殿下、思い切ったな」


 ローディンが苦笑する。


「お前を信用しているんだろう」


「期待には応えないと」


 アルトは商人たちを見る。


「皆さん」


「今日から、王都の物流を立て直します」


 商人の一人が手を挙げた。


「俺の倉庫なら、まだ小麦が残っている」


「どれくらい?」


「二百袋」


「使えますか?」


「ああ」


「では、最初の商品にしましょう」


 別の商人も手を挙げる。


「うちには豆がある」


「うちは干し肉だ」


「馬車なら十台出せる」


「護衛も出せる」


 少しずつ。


 商人たちが動き始めた。


 マルクがアルトの隣に立つ。


「すごいな」


「何が?」


「最初は全員、不安そうだった」


「でも今は、自分から協力を申し出ている」


「それが営業だよ」


「営業?」


「商品を売るだけじゃない」


 アルトは商人たちを見る。


「『一緒にやれば、この状況を変えられる』と思ってもらう」


「それが一番大事なんだ」


 マルクは笑った。


「なるほどな」


 その日の午後。


 王都の物流が、一つだけ動いた。


 一台の荷馬車。


 小麦二百袋。


 市場へ向かう。


「来たぞ!」


「小麦だ!」


 人々が集まる。


 商人が荷台を開く。


 小麦袋が並んでいる。


「販売を始めます!」


 市場に声が響く。


 人々が列を作る。


 アルトはその様子を見ていた。


「第一便、成功」


 エリシアが笑う。


「やりましたね」


「まだ始まったばかりです」


 アルトは次の指示書を見る。


「次は豆」


「その次に干し肉」


「そして薬品」


「魔石も必要だ」


 ローディンが言う。


「魔石は王宮が管理している」


「そこが問題です」


 アルトは王宮を見る。


「黒帳が押さえている」


「どうする?」


「取り返します」


 アルトは笑った。


 しかし。


 王宮の物流管理局。


 一人の男が報告書を読んでいた。


「市場に小麦が入った?」


「はい」


「誰が許可した?」


「アルト・レインハルトです」


「……」


 男は報告書を握り潰す。


「止めろ」


「ですが、王太子殿下の命令が――」


「構わない」


「物流管理権限は、こちらにある」


「市場への供給を止めろ」


 部下が迷う。


「しかし、市民が――」


「命令だ」


 男は冷たく言った。


「アルト・レインハルトに物流を握らせるな」


 そして――。


「奴の信用を失わせろ」


 部下が頭を下げる。


「承知しました」


 翌朝。


 市場に異変が起きた。


「アルト様!」


 商人が駆けてくる。


「どうした?」


「昨日の小麦について、王宮から調査が入っています!」


「何の調査?」


「違法な流通だそうです!」


「……」


 アルトは笑った。


「なるほど」


「黒帳が動いたな」


 エリシアが心配そうに見る。


「どうするの?」


「簡単です」


「証拠を出します」


 アルトは契約書を取り出した。


「僕たちは勝手に商品を動かしたわけじゃない」


「王太子殿下の命令がある」


「さらに――」


 アルトは商人たちを見る。


「商人全員との契約もある」


「そして、販売記録も残っている」


「つまり、全部透明です」


 マルクが笑う。


「黒帳が一番嫌いそうだな」


「そうだね」


 アルトは王宮を見る。


「闇の組織と戦うなら、こっちは徹底的に透明にする」


「隠し事がなければ、潰しようがない」


 その時。


 王宮から伝令が来た。


「アルト・レインハルト様!」


「はい」


「王太子殿下より、至急王宮へ来るよう命令です」


「何かあった?」


「物流管理局で――」


 伝令は声を落とした。


「反乱が起きました」


 アルトの表情が変わった。


「……反乱?」


「はい」


「誰が?」


「物流管理局の職員たちが、王太子殿下の命令を拒否しています」


 ローディンが剣に手をかける。


「黒帳が、正面から王宮を奪いにきたか」


 アルトは首を振った。


「違う」


「まだ正面じゃない」


「これは――」


 アルトは王宮を見つめた。


「内部から王宮を止める作戦です」


 そして、静かに笑った。


「なら、僕も正面から行きます」


「営業課長として――」


「商談をしにね」


 王宮へ向かうアルト。


 その先で待っているのは、物流管理局を掌握した黒帳。


 そして――。


 十年前から続く、王国最大の商談だった。


営業メモ①②⑥


「危機的状況では、商品そのものより『安心して取引できる環境』を作ることが重要です。今回アルトが最初に提示したのは利益ではなく、情報と責任の所在でした。相手が抱えている不安を具体的に把握し、その不安を取り除く。営業では、商品を売る前に『この人と取引して大丈夫だ』と思ってもらうことが先です。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第百二十八話「営業課長、王宮で商談する」


王宮物流管理局で起きた反乱。


王太子の命令すら拒否する職員たち。


「物流管理権限は、すでに我々のものだ」


黒帳の支配が、ついに王宮内部へ及ぶ。


アルトは武力ではなく、商談によって事態を収めようとする。


「あなたたちは、何を守りたいんです?」


「王国ですか?」


「それとも、自分の立場ですか?」


一人、また一人と揺らいでいく物流管理局の職員たち。


そして最後に現れる、黒帳の中心人物。


「ようやく会えましたね、アルト・レインハルト」


十年前、レオンを失脚させた人物が――ついに姿を現す。

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