↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
PR
119/152

第百十九話 営業課長、元宰相と商談する


 地下倉庫。


 アルトたちは、目の前に現れた男を見つめていた。


 白髪。


 痩せた身体。


 だが、その目だけは十年前から何も変わっていないような鋭さを持っている。


 ローディン・アルバート。


 元王国宰相。


 十年前、突然王宮から姿を消した男。


 そして――。


 レオンが残した手紙の中で「探せ」と書かれていた人物。


「……本当に、ローディンなのか?」


 レオンが呟く。


「久しぶりだな、レオン」


 ローディンが静かに答えた。


「私のことを知っているのか?」


「当然だ」


「お前が当主になる前から、私はお前を見ていた」


 レオンの表情が険しくなる。


「なぜ姿を消した?」


「お前たちを守るためだ」


「守る?」


 アルトが口を挟む。


「父さんの手紙には、あなたを探せと書いてありました」


 ローディンの眉が僅かに動く。


「……そうか」


「驚かないんですね」


「いつか、お前がここへ来ると思っていた」


「なぜ?」


「お前がレオンの息子だからだ」


 アルトは苦笑した。


「それだけですか?」


「いや」


 ローディンはアルトを見る。


「お前が営業をしていると聞いた」


「……そこですか?」


「王都で随分と面白い商売をしているそうだな」


「噂になっているんですね」


「王宮でも有名だ」


 マルクが小声で呟く。


「営業課長、ついに王宮公認になったな……」


「何か言った?」


「何でもないです」


 アルトはローディンに向き直る。


「では、商談を始めましょう」


「……商談?」


「はい」


「私と?」


「もちろん」


 ローディンはしばらく黙った。


 そして――。


「やはり、セシリアの息子だな」


「母さんをご存じなんですか?」


「ああ」


「どんな人でした?」


「頭が切れる女だった」


「父さんより?」


 レオンが眉をひそめる。


「アルト」


「何?」


「なぜそこで私と比べる?」


「気になったので」


 ローディンが初めて笑った。


「二人とも優秀だった」


「ただし――」


 ローディンはレオンを見る。


「お前は、人を信じすぎる」


 レオンが黙る。


「そしてセシリアは、人を疑いすぎる」


「なるほど」


 アルトが頷く。


「だから二人が組めば、ちょうどよかったわけですね」


「そういうことだ」


 ローディンは少し笑った。


「だが、お前は二人の悪いところも良いところも、全部受け継いでいる」


「それは褒めています?」


「半分はな」


 アルトも笑った。


 しかし、すぐに表情を戻す。


「本題に入りましょう」


「そうだな」


 ローディンは古い机の前に座った。


「まず、お前たちが知りたいことから話そう」


「十年前の事件ですね」


「ああ」


「アーク・レギオン」


「ヴァルデン公爵」


「王家の印」


「そして、あなた」


 アルトは指を一本ずつ立てる。


「全部、繋がっていますよね?」


 ローディンは頷いた。


「繋がっている」


「では、教えてください」


 ローディンは一度目を閉じた。


「十年前――」


「王国の物流網を利用して、巨大な計画が進められていた」


「アーク・レギオンは、その実行部隊の一つにすぎなかった」


「……実行部隊?」


「そうだ」


「では、誰が上に?」


「王国内部にいる人間だ」


 エリシアが身を乗り出す。


「王家の人間ですか?」


「違う」


「では?」


 ローディンは首を振る。


「王家を利用していた貴族たちだ」


「複数?」


「ああ」


「一人ではない」


 アルトは考える。


「つまり、組織?」


「そうだ」


「アーク・レギオンより上の組織が?」


「アーク・レギオンは、その組織の末端に近い」


 グレゴールが拳を握る。


「そんなものが……」


「ある」


 ローディンは淡々と答える。


「その組織は、王国の物流を支配しようとしていた」


「物流だけではない」


「税」


「鉱山」


「街道」


「港」


「そして――」


 一拍。


「情報だ」


 アルトの目が鋭くなる。


「情報?」


「物がどこへ動くのか」


「誰が何を買ったのか」


「どの領地が何を必要としているのか」


「それを全て把握すれば、国そのものを動かせる」


 アルトは頷く。


「なるほど」


「戦争をしなくても、国を支配できる」


「そういうことだ」


 ローディンは一冊の古い帳簿を取り出した。


「これを見ろ」


 アルトが受け取る。


 そこには、十年前の物流記録が並んでいる。


「これは……」


「王都に入ってきた食料の量」


「鉱石」


「武器」


「薬」


「全ての記録だ」


 アルトはページをめくる。


「……変ですね」


「何が?」


「この地域だけ、異常に武器の輸送量が多い」


「そうだ」


「でも、戦争は起きていない」


「だから問題だった」


「何のために運んでいた?」


「分からない」


「え?」


「正確には、途中で記録が消えている」


 アルトはさらにページをめくる。


「……ここから先がない」


「その記録を消したのが、アーク・レギオンだ」


「では、武器は?」


「ある場所へ運ばれた」


「どこです?」


 ローディンは答えた。


「王国北部」


「そこに何がある?」


「鉱山都市だ」


 アルトの表情が変わる。


「鉱山……」


「王国最大の魔石鉱山がある」


 アルトは考える。


「魔石」


「武器」


「物流」


「それを全部合わせると――」


「大規模な軍備?」


 エリシアが呟く。


「その可能性が高い」


 ローディンが頷く。


「十年前、誰かが密かに軍備を整えていた」


「王国を相手に戦うため?」


「違う」


「では?」


 ローディンはアルトを見る。


「王国を脅すためだ」


 アルトは黙った。


「軍隊を持つ必要はない」


「王国が必要とする魔石を止めればいい」


「食料を止めてもいい」


「街道を止めてもいい」


「物流を止めれば――」


「国は動かなくなる」


「その通りだ」


 アルトは静かに息を吐く。


「だから父さんが狙われた」


「そうだ」


「父さんは物流改革を始めた」


「既存の物流網を整理しようとした」


「そして、裏で動いている人間の利益を潰してしまった」


「だから失脚させられた」


「正確には――」


 ローディンがレオンを見る。


「お前を利用しようとした」


「私を?」


「物流改革の責任者として、お前を表に立たせる」


「その裏で、改革を失敗させる」


「そうすれば、王家は物流改革そのものを諦める」


 レオンが拳を握る。


「だから、私は失脚させられたのか」


「ああ」


「だが、それだけではない」


 ローディンの表情が変わる。


「お前の家には、もう一つ秘密があった」


 アルトが反応する。


「王家との契約?」


「それも一つだ」


「では、他に?」


 ローディンはアルトを見つめた。


「レインハルト家は、王国物流網の『非常時管理権』を持っている」


「非常時管理権……」


「王国が戦争や大規模災害などで機能不全になった場合、レインハルト家が物流を再編する権限だ」


 アルトは地下倉庫の契約書を思い出す。


「だからアーク・レギオンは、レインハルト家を消そうとした」


「そうだ」


「僕の家がその権限を持っている限り、物流を完全には支配できない」


「その通りだ」


 アルトは腕を組んだ。


「では、十年前の事件は……」


「レインハルト家から、その権限を奪うためだった」


「そして、王家から疑われないように父さんを犯罪者に仕立てた」


「そうだ」


 レオンは俯いた。


「……私が知らない間に、そんなことが」


「だから私は、お前に全てを知らせることができなかった」


「なぜ?」


「王宮の中にも敵がいたからだ」


 エリシアが尋ねる。


「それで、あなたは姿を消した?」


「ああ」


「王宮に残れば、敵に利用される」


「だから死んだことにした」


「十年間、ここで情報を集めていた」


 アルトはローディンを見る。


「一つ聞きたい」


「何だ?」


「なぜ今、僕たちの前に姿を現したんです?」


 ローディンは黙った。


「理由は一つだ」


「もう時間がない」


「時間?」


「ああ」


 ローディンは古い地図を広げた。


「十年前に始まった計画が、再び動き始めた」


「どこで?」


「北部の魔石鉱山だ」


 アルトの顔が険しくなる。


「現在、北部で魔石の生産量が落ちています」


「知っています」


「だが、王家には『鉱山の老朽化』と報告されている」


「それは嘘だ」


「……やっぱり」


 ローディンは地図の一点を指差した。


「魔石は採掘されている」


「しかし、王都には届いていない」


「誰かが途中で横取りしている」


 アルトは考える。


「その魔石を何に使っている?」


「分からない」


「ですが――」


 ローディンが一枚の記録を出す。


「これだけは分かっている」


 そこには、北部から運び出された魔石の量。


 そして、その行き先。


「……王都じゃない」


「西部?」


「違う」


「海沿い?」


「違う」


 アルトが地図を見る。


「ここは……」


 指先が止まる。


「国境付近」


 ローディンが頷く。


「そうだ」


「つまり、誰かが国境付近に魔石を集めている」


「その通り」


「戦争の準備?」


「その可能性がある」


 エリシアの顔が青ざめる。


「もし戦争になれば……」


「王国は大混乱になる」


「その混乱に乗じて、物流網を奪う」


「そういう計画ですか?」


「おそらくな」


 アルトは立ち上がった。


「なら、急ぐ必要があります」


「そうだ」


「北部へ行きましょう」


 レオンが頷く。


「私も行く」


「当然です」


 グレゴールも立ち上がる。


「俺も行く」


 エリシアも頷いた。


「私も」


 ローディンがアルトを見る。


「お前は?」


「僕は――」


 アルトは少し考えた。


「営業します」


「……」


 ローディンが呆れた顔をする。


「この状況で営業か?」


「はい」


「誰に?」


「北部の鉱山を管理している人たちに」


「何を売る?」


 アルトは笑った。


「未来です」


「……意味が分からん」


「それでいいんです」


 アルトは地図を見つめる。


「相手が欲しいものを探します」


「そして、それを交渉材料にする」


「アーク・レギオンより先に、鉱山を押さえます」


 ローディンが笑った。


「なるほど」


「やはり、お前はセシリアとレオンの息子だ」


「それは褒め言葉ですね」


「ああ」


 ローディンは頷く。


「最高の褒め言葉だ」


 しかし、その直後。


 地下倉庫の外から――。


 馬の嘶きが聞こえた。


「……誰か来た?」


 グレイヴが剣を抜く。


 ローディンの顔から笑みが消える。


「早すぎる」


「何が?」


「私がここにいることを、誰かに知られた」


 アルトは扉を見る。


 外から足音。


 一人。


 二人。


 いや――。


 もっといる。


「敵ですか?」


「おそらくな」


 アルトは少し考えた。


 そして笑った。


「なら、商談を始めましょう」


「こんな時まで?」


「こんな時だからです」


 アルトは扉の前に立つ。


「相手が何を欲しがっているのか」


「まず、それを聞きましょう」


 扉の向こうから声が響く。


「ローディン・アルバート!」


「そこにいるのは分かっている!」


「出てこい!」


 ローディンが小さく笑った。


「十年ぶりだな」


 アルトは首を傾げる。


「知り合いですか?」


「昔の同僚だ」


「敵?」


「……今は敵だ」


 アルトは笑顔になった。


「それなら――」


「営業課長の出番ですね」


 地下倉庫に、緊張と笑いが入り混じった空気が広がった。


営業メモ①①⑧


「営業では、相手が『何を言っているか』だけでなく、『何を欲しがっているのか』を見ることが重要です。相手の目的が分かれば、交渉材料を作ることができます。『未来を売る』というのは、単なる商品ではなく、『相手が得られる結果』を提示すること。商品そのものではなく、その先にある価値を売る。それが営業の基本です。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第百二十話「営業課長、敵にも商品を売る」


レインハルト領へ現れた謎の集団。


目的は、元宰相ローディンの捕縛。


しかし、アルトは剣を抜かなかった。


「あなたたち、何を探しているんです?」


「ローディンだ!」


「なるほど」


「では、彼が欲しいんですね?」


「……何を言っている?」


「商談しましょう」


敵を相手に始まる、前代未聞の営業交渉。


だが、その交渉の裏で――。


北部の魔石鉱山では、すでに別の計画が動き始めていた。


「魔石が、全部消えた?」


王国を揺るがす異変。


アルトたちは北部へ急ぐことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。