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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百十八話 営業課長、故郷に戻る


 王都を出発して三日。


 アルトたちは、レインハルト領へ戻ってきた。


 馬車の窓から見える景色は、アルトにとって見慣れたものだった。


 広がる畑。


 街道を行き交う商人。


 村人たちの姿。


 そして、その先に見えるレインハルト家の屋敷。


「……帰ってきたな」


 レオンが呟く。


「父さん」


「何だ?」


「この領地に、十年前の秘密が残っているって知ってた?」


 レオンはしばらく黙っていた。


「……全部は知らない」


「でも、何かは知っている」


「そう思うか?」


「営業課長の勘です」


「またそれか」


 レオンが苦笑する。


「お前のその勘は、最近よく当たるから困るな」


「じゃあ、正解ですね」


「……否定はしない」


 アルトは窓の外を見る。


 ここは自分たちの領地。


 そして、レオンが貴族として守ってきた場所。


 十年前、この領地で何かが起きた。


 その答えが、今から見つかるかもしれない。


「ところで、アルト」


 マルクが口を開いた。


「何?」


「王都から戻ってきたばかりなのに、もう調査か?」


「そうだよ」


「少しくらい休まない?」


「休むよ」


「いつ?」


「全部終わったら」


「それは休むって言わない!」


 馬車の中に笑い声が広がる。


 だが、グレゴールだけは笑っていなかった。


「……レインハルト領か」


「何か思い出しました?」


 アルトが尋ねる。


「十年前、俺も何度かここへ来た」


「何のために?」


「レオンの指示で、物流の確認をしていた」


「その時、変なことは?」


 グレゴールは考え込む。


「一つだけある」


「何です?」


「古い倉庫だ」


 アルトの目が変わる。


「どこに?」


「領都の外れだ」


「使われていない倉庫だった」


「当時は、誰も近づくなと言われていた」


 レオンが眉をひそめる。


「……そんな倉庫があったか?」


「お前が知らないわけがないだろう」


「いや」


 レオンは首を振る。


「私が当主になった後、その周辺の倉庫は全て確認した」


「だが、そんなものは――」


 アルトが口を挟む。


「父さん」


「何だ?」


「もしかしたら、その倉庫は『存在しないことになっている』んじゃない?」


 レオンが黙った。


「……」


「普通の倉庫なら、帳簿に残ります」


「でも、王家やアーク・レギオンが絡んでいたなら?」


「記録そのものを消した可能性があります」


 アルトは笑った。


「営業では、売れない商品を探すより、存在を隠された商品を探すほうが難しいんですよ」


「……また営業に例えるのか」


「便利ですから」


「便利すぎるだろ」


 夕方。


 アルトたちは領都へ到着した。


 屋敷に戻ると、使用人たちが出迎える。


「お帰りなさいませ!」


「ただいま」


 アルトは軽く手を上げた。


 だが――。


 一人の老執事が、アルトの前に歩み出た。


「アルト様」


「どうしました?」


「旦那様がお戻りになる前に、私からお伝えしたいことがございます」


「何です?」


 老執事は周囲を確認する。


「ここでは話せません」


 アルトの表情が変わった。


「父さん」


「分かった」


 全員で執務室へ移動する。


 扉が閉まる。


「それで?」


 アルトが尋ねる。


 老執事は懐から古い鍵を取り出した。


「こちらを」


「鍵?」


「はい」


「どこの鍵です?」


「分かりません」


「分からない?」


「十年前、レオン様から預かったものです」


 レオンが驚く。


「私が?」


「はい」


「そんな記憶はない」


「ですが、確かに旦那様からお預かりしました」


 アルトは鍵を見る。


 古い。


 かなり使い込まれている。


「いつ渡された?」


「十年前です」


「事件の前?」


「……直前でした」


 アルトは黙った。


「父さん」


「何だ?」


「これ、かなり重要だと思う」


「私もそう思う」


 レオンは鍵を見つめる。


「だが、本当に私が渡したのなら、なぜ覚えていない?」


「もしかすると――」


 グレゴールが口を開いた。


「記憶に残さないために、わざと忘れたふりをしたんじゃないか?」


「そんなことができるのか?」


「貴族社会では、できるだけ秘密を残さないことも重要だからな」


 アルトは鍵を手に取る。


「では、探しましょう」


「何を?」


「この鍵が開ける場所です」


 老執事が答える。


「おそらく……」


「領都の外れにある、古い倉庫です」


 アルトとグレゴールが顔を見合わせた。


「やっぱり、そこか」


 アルトは立ち上がった。


 夜。


 月明かりだけを頼りに、アルトたちは領都の外れへ向かった。


 そこには、古びた倉庫があった。


 壁には蔦が絡みつき、扉には大量の埃が積もっている。


「これが……」


 アルトは扉を見る。


「十年前の倉庫」


 レオンが頷く。


「私がここを見た記憶はない」


「でも、建物自体は古い」


「かなり前から存在していたようですね」


 グレゴールが扉の脇を見る。


「……この紋章」


 そこには、小さな刻印があった。


 レインハルト家の家紋。


 そして――。


「王家の紋章もある」


 エリシアが驚く。


「王家とレインハルト家が共同で使っていた施設?」


「そう考えるのが自然です」


 アルトは鍵穴を見る。


 鍵を差し込む。


 カチッ。


 音がした。


「開いた」


 扉を押す。


 ギィィ……。


 長い年月を閉ざされていた扉が開く。


 中には大量の木箱。


 古い帳簿。


 そして、壁一面に並べられた書類。


「……すごい」


 マルクが呟く。


「これ全部、十年前の記録か?」


 アルトは一冊の帳簿を手に取る。


「違う」


「もっと古い」


「少なくとも二十年以上前のものがあります」


 レオンが奥へ進む。


「これは……」


 壁に貼られた古い地図。


 そこには王都から各領地へ伸びる物流路が描かれていた。


 しかし普通の地図とは違う。


 赤い線が、いくつも地下へ伸びている。


「地下道?」


 エリシアが尋ねる。


「おそらく」


 アルトが答える。


「昔の物流網には、今は使われていないルートがあったんでしょう」


「なぜ隠す必要が?」


「税を回避するためか」


「戦争などの非常時に使うためか」


「あるいは――」


 アルトは地図の中央を見る。


「誰かに見つからないよう、物資を運ぶため」


 グレゴールが顔を強張らせた。


「アーク・レギオンか?」


「可能性は高いです」


 その時。


 エリシアが一枚の紙を見つけた。


「アルト」


「何?」


「これ……」


 アルトが受け取る。


 古い手紙だった。


 封蝋はすでに割れている。


 宛名には――。


『レインハルト家当主へ』


 アルトが開く。


 中には短い文章。


『ローディンを信用するな。』


 アルトの手が止まった。


「……これだ」


「王宮で話していた手紙か?」


 レオンが尋ねる。


「たぶん」


 アルトは読み進める。


『彼は王家のために動いているように見える。しかし、実際には別の者から命令を受けている。』


『物流網を利用している者がいる。』


『その者の正体を知れば、レインハルト家も王家も危険にさらされる。』


 そして最後。


『もし私に何かあれば、地下の第二倉庫を探せ。』


 アルトは顔を上げた。


「地下の第二倉庫?」


「ここじゃないのか?」


「違います」


 アルトは地図を見る。


「この倉庫には、地下へ続く道がある」


 全員が床を見る。


「どこだ?」


 アルトは地図と床を見比べる。


「ここです」


 床板の一枚を指差す。


 グレイヴが持ち上げる。


 その下には――。


 地下へ続く階段。


「……本当にあった」


 アルトは笑った。


「秘密の倉庫に秘密の地下室」


「いかにも怪しいですね」


 エリシアが呆れる。


「昔の人は、秘密を隠すのが好きだったんでしょうか?」


「アルトが言う?」


 マルクが突っ込む。


「僕は分かりやすく隠します」


「それは隠してない!」


 緊張していた空気が、少しだけ和らぐ。


 だが――。


 アルトは地下へ続く階段を見つめる。


「行きましょう」


「気をつけろ」


 レオンが言う。


「分かってる」


 アルトは一歩、階段を下りた。


 地下。


 そこには、さらに古い倉庫があった。


 木箱が並んでいる。


 その中央に、一つだけ立派な机が置かれていた。


 机の上には封筒。


 アルトは慎重に近づく。


「誰宛てだ?」


 グレゴールが尋ねる。


 アルトは封筒を見る。


「僕です」


「何?」


「宛名が――」


 そこには、はっきりと書かれていた。


『アルト・レインハルトへ』


 全員が息を呑んだ。


「……十年前の手紙だぞ」


 レオンが呟く。


「なのに、僕宛て?」


「おかしい」


 アルトは封筒を手に取る。


「これは、僕が生まれる前から用意されていた」


「そんなことが……」


 エリシアが呟く。


 アルトは封を開けた。


 中には、一枚の紙。


 そこには――。


『アルトへ』


 たった一行目で、アルトの動きが止まった。


『もし君がこの手紙を読んでいるなら、私はもう君の前にはいないだろう。』


 アルトは息を呑む。


 署名を見る。


「……父さん」


 レオンの名前が書かれていた。


 レオンが驚く。


「私が……?」


 アルトは手紙を読む。


『お前がこれを読む頃には、レインハルト家の歴史について疑問を持っているはずだ。』


『そして、おそらく王家についても疑っているだろう。』


『だが、忘れないでほしい。』


『敵は王家そのものではない。』


『王家を利用している誰かだ。』


 アルトの目が細くなる。


 さらに読み進める。


『そして、最も重要なことを伝える。』


『ローディンは、私たちの敵ではない。』


「……え?」


 アルトが呟く。


 エリシアが顔を上げる。


「どういうこと?」


 アルトは次の文章を見る。


『彼は、私たちを守ろうとしていた。』


 地下室が静まり返った。


「……話が逆になった」


 グレゴールが呟く。


「じゃあ、ローディンは敵じゃなかった?」


「少なくとも、父さんはそう考えていた」


 アルトは手紙を読み進める。


 そして最後の一文。


『ローディンを探せ。』


『彼だけが、真実を知っている。』


 アルトは手紙を握り締めた。


 王宮では、ローディンは危険人物だと思われていた。


 だが父レオンは違う。


 彼を探せと言っている。


 ならば――。


「次に探すべき人物が決まりました」


 アルトは立ち上がる。


「ローディンです」


 その瞬間。


 地下室の奥から――。


 カタン。


 小さな音がした。


 全員が振り返る。


「……今の音、何?」


 マルクが震える。


 アルトは静かに手を上げる。


「誰かいる」


 グレイヴが剣を抜く。


 地下室の奥。


 暗闇の中から、ゆっくりと人影が現れる。


「……十年ぶりだな」


 低い声。


 アルトは目を見開いた。


「あなたは……」


 老人が姿を現す。


 白髪。


 疲れた顔。


 だが、その目には強い意志が宿っている。


「ローディン・アルバート」


 元宰相。


 十年間、行方不明だった男。


 彼はアルトを見つめ――。


「ようやく来たか」


 そう呟いた。


営業メモ①①⑦


「相手の言葉が矛盾した時こそ、すぐに結論を出さないことが重要です。今回のように『敵だと思っていた人物が、実は味方だった』という可能性もあります。営業でも、最初に得た情報だけで相手を評価すると、大きな機会損失につながります。情報を集め、仮説を立て、検証する。営業も調査も、基本は同じです。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第百十九話「営業課長、元宰相と商談する」


十年間、姿を消していた元宰相ローディン。


「あなたが、父さんを守っていた?」


「そうだ」


「なら、なぜ姿を消したんです?」


ローディンが語る、十年前の真実。


しかし、その話にはレオンすら知らなかった事実が隠されていた。


「レインハルト家が狙われた本当の理由は、物流ではない」


「では、何です?」


「王家に伝わる――一つの秘密だ」


そしてアルトの前に提示される、前代未聞の「商談条件」。


「アルト。お前に頼みたい」


「何を?」


「王国を変えてくれ」


十年前の事件の真相が、ついに核心へ――。

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