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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第百十七話 営業課長、王宮でプレゼンする


 王宮。


 アルトは、巨大な謁見の間に立っていた。


 正面には王座。


 そこに座っているのは、この国の国王。


 その左右には、重臣や騎士団長。


 そして――。


 エリシア。


 レオン。


 ヴィクトル。


 グレゴール。


 アルトの後ろには、今回の商談に必要な仲間たちが並んでいる。


 空気は重い。


 マルクが小声で呟いた。


「アルト……」


「何?」


「本当にここで営業するの?」


「もちろん」


「相手、国王陛下だよ?」


「知ってる」


「緊張しないの?」


「するよ」


「してるようには見えないけど」


「営業では、緊張していても顔に出さないのが基本だから」


「……そういうものなの?」


「そういうものです」


 アルトは笑った。


 その時。


「アルト」


 エリシアが小声で呼ぶ。


「何?」


「本当に父上に調査権限をお願いするのですね?」


「はい」


「簡単には許可されないと思います」


「でしょうね」


「それでも?」


「それでもです」


 アルトは正面を見る。


「僕たちが追っているのは、十年前の事件だけじゃありません」


「今も王家の中に誰かがいる可能性があります」


「だったら、調べるしかありません」


 エリシアは頷いた。


「……分かりました」


 その時。


「陛下がお見えになります!」


 声が響いた。


 全員が姿勢を正す。


 大扉が開いた。


 国王が入ってくる。


 アルトは頭を下げた。


「面を上げよ」


 低く落ち着いた声。


 アルトが顔を上げる。


 国王はしばらくアルトを見つめた。


「久しぶりだな、アルト・レインハルト」


「お久しぶりです、陛下」


「そなたがここまで王都を騒がせるとは思わなかった」


「申し訳ありません」


「謝る必要はない」


 国王は僅かに笑う。


「むしろ、面白いと思っている」


 アルトは少し驚いた。


「ありがとうございます」


「ただし」


 国王の表情が変わる。


「今日の話は簡単には済まぬ」


「承知しています」


「王家の内部を調査したいという話だな?」


「はい」


「理由は?」


「十年前のレインハルト家失脚事件に、王家の権限が不正に利用された可能性があるからです」


 謁見の間がざわつく。


「王家の権限が?」


「はい」


 アルトは一歩前へ出た。


「証拠があります」


 侍従が前へ出る。


 アルトは命令書を渡した。


 国王が目を通す。


「……これは」


 国王の表情が険しくなる。


「王家の印だ」


「はい」


「本物か?」


 隣にいた政務官が確認する。


「……間違いありません」


 ざわめきが大きくなる。


「しかし、このような命令を出した記録はない」


「だから調査が必要なんです」


 アルトは答えた。


 国王は命令書を机に置いた。


「では、そなたは王家の中に裏切り者がいると言うのか?」


「可能性がある、と考えています」


「断定はしないのか?」


「証拠が揃っていないからです」


 国王が少し笑った。


「慎重だな」


「営業では、確証のないことを断定すると信用を失います」


「また営業か」


 国王が苦笑する。


「はい」


「そなたは、本当に営業が好きなのだな」


「天職だと思っています」


 謁見の間に小さな笑いが起こった。


 緊張していた空気が、わずかに緩む。


 アルトはその瞬間を逃さなかった。


「陛下」


「何だ?」


「ここからが本題です」


「うむ」


「僕から王国改革案を提案します」


 アルトが後ろを見る。


 ヴィクトルが大きな紙を広げる。


 そこには――。


 王都と各領地を結ぶ物流網の図。


 商会。


 倉庫。


 街道。


 港。


 そして各地の主要都市。


 全てが一本の線で繋がっている。


 重臣たちがざわめいた。


「これは……」


「現在の物流網です」


 アルトが説明する。


「ですが、今の仕組みには三つの問題があります」


 指を一本立てる。


「第一に、情報が分散している」


 二本目。


「第二に、一部の商会へ権限が集中している」


 三本目。


「第三に、王都と地方の情報共有が遅い」


 アルトは全体を見る。


「この三つが、アーク・レギオンのような組織を生みました」


 重臣の一人が口を挟む。


「物流改革で犯罪組織を防げるというのか?」


「完全には防げません」


「だが、早期発見はできます」


「どうやって?」


「情報を共有するんです」


 アルトは新しい紙を広げた。


「商会、領主、王都」


「それぞれが持っている物流情報を一つの仕組みに集めます」


「何が、どこから、どこへ、どれだけ動いたのか」


「それを記録する」


 国王が尋ねる。


「王家が全て管理するのか?」


「いいえ」


 アルトは首を振った。


「それでは、今度は王家が情報を独占することになります」


「では?」


「複数の機関で管理します」


「商業組合」


「領主」


「王都」


「そしてレインハルト家」


 重臣が眉をひそめる。


「なぜレインハルト家なのだ?」


「歴史的に物流を管理してきた家だからです」


 アルトは答える。


「ただし、独占はしません」


「監査権限を持つだけです」


 国王が興味深そうに見る。


「なるほど」


 アルトは続ける。


「一つの組織が全てを握るのではなく、互いに監視できる仕組みにする」


「これが僕の提案です」


 謁見の間が静まり返った。


 しばらくして。


 一人の重臣が立ち上がった。


「陛下」


「何だ?」


「私は反対です」


「理由は?」


「レインハルト家に再び物流の権限を与えることになります」


「十年前に問題を起こした家に、同じ権限を与えるのは危険です」


 アルトは静かに聞いていた。


「ごもっともです」


 重臣が少し驚く。


「反論しないのか?」


「その意見は正しいと思います」


「ならば――」


「だから、条件を付けます」


 アルトは一枚の紙を取り出した。


「レインハルト家自身も監査対象にします」


「何?」


「僕たちが不正をすれば、権限を失う」


「王家も同じです」


「商業組合も同じです」


「誰も例外にしない」


 重臣たちは顔を見合わせる。


 国王が口を開いた。


「面白い」


「ありがとうございます」


「そなた自身が権限を失う可能性を認めるのか?」


「はい」


「なぜ?」


 アルトは少し笑った。


「権限は目的ではありません」


「手段です」


「国の物流を守ることが目的なら、誰が権限を持つかより、不正を防げる仕組みのほうが重要です」


 国王は黙った。


 そして――。


「アルト」


「はい」


「そなた、本当に十歳か?」


「営業経験だけなら、もう少し長いです」


 エリシアが吹き出した。


「アルト!」


「冗談です」


 謁見の間にも笑いが起こった。


 だが。


 その笑いが収まった後。


 国王は真剣な顔になった。


「分かった」


「……!」


「調査権限を与えよう」


 アルトが頭を下げる。


「ありがとうございます」


「ただし、条件がある」


「何でしょう?」


「調査対象は、まず王家の物流記録に限定する」


「はい」


「そして、私の許可なく人を拘束してはならない」


「承知しました」


「さらに――」


 国王はアルトを見る。


「エリシアを同行させる」


「え?」


 エリシアが驚く。


「私ですか?」


「そうだ」


「なぜ?」


「王家の人間が立ち会えば、調査の正当性が増す」


「それに――」


 国王は一瞬だけ表情を曇らせた。


「そなたが何を見つけるのか、私も知りたい」


 アルトは頷いた。


「分かりました」


 これで調査の許可は得た。


 だが――。


「陛下」


 アルトはもう一度口を開いた。


「もう一つ、お願いがあります」


 国王が苦笑する。


「まだあるのか?」


「はい」


「何だ?」


「十年前の王宮の政務記録」


「特に、当時の宰相ローディン・アルバートに関する記録を見せてください」


 その瞬間。


 謁見の間の空気が変わった。


 国王の表情が僅かに曇る。


「……ローディンか」


「ご存じなのですね」


「当然だ」


「では、見せていただけますか?」


 国王は黙った。


 長い沈黙。


 やがて。


「分かった」


「ただし――」


「その記録を見るなら、覚悟しておけ」


「何の覚悟です?」


 国王は低い声で答えた。


「ローディンは、病死していない」


 アルトの目が見開かれる。


「……え?」


「十年前の事件の直後」


「ローディンは王宮から姿を消した」


「そして今も――」


 国王は言葉を切った。


「行方が分かっていない」


 アルトは息を呑んだ。


 つまり。


 十年前の事件の裏側には、まだ生きている可能性のある人物がいる。


 しかも――。


 元宰相。


 王家の内部を知り尽くした男。


「陛下」


「何だ?」


「最後に一つだけ」


「まだあるのか?」


「はい」


 アルトは笑った。


「その男が今、どこにいるのか」


「心当たりはありますか?」


 国王は答えなかった。


 代わりに、エリシアを見る。


「……エリシア」


「はい」


「お前に話しておくべきことがある」


「何でしょう?」


 国王の表情が重くなる。


「ローディンが最後に目撃された場所は――」


 一瞬の間。


「レインハルト領だ」


 アルトの表情から笑みが消えた。


「……僕たちの領地?」


「そうだ」


 十年前。


 全てが始まった場所。


 そして今。


 全ての謎が、再びそこへ戻ろうとしていた。


営業メモ①①⑥


「プレゼンでは、相手の不安を先回りして潰すことが重要です。『自分たちに権限をください』だけでは、相手はリスクを感じます。そこでアルトは『自分たちも監査対象になる』という仕組みを提示しました。提案の価値を伝えるだけでなく、相手が抱くリスクまで設計段階で解消する。これが、通りやすい提案を作るポイントです。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第百十八話「営業課長、故郷に戻る」


王家から正式な調査権限を得たアルト。


しかし、そこで告げられた衝撃の事実。


元宰相ローディン・アルバート。


彼が最後に目撃された場所は――レインハルト領。


「十年前の事件が、僕たちの領地から始まっていた?」


「そして、今も誰かが何かを隠している」


アルトたちは故郷へ戻る。


そこで待っていたのは、十年前に父レオンが残した「封印された倉庫」。


「父さん……これ、知ってたの?」


そしてアルトは、倉庫の中で一枚の古い手紙を発見する。


そこに書かれていたのは――。


『ローディンを信用するな』


十年前の事件の真相が、ついにレインハルト領で動き始める。

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