↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
PR
102/144

第百二話 営業課長、王都中央倉庫に挑む


 王都へ戻った翌朝。


 アルトは、商務院の前に立っていた。


 隣にはレオン。


 そしてエリシアとマルクもいる。


 目的は一つ。


 王都中央倉庫への立ち入り許可を取ること。


「本当に正面から行くの?」


 エリシアが尋ねる。


「もちろん。」


「門番に追い返されない?」


「そのために営業します。」


 アルトは笑った。


「営業に不可能はありません。」


「……その自信はどこから来るの?」


「今までの経験です。」


 四人は商務院の受付へ向かった。


「王都中央倉庫の資料を確認したいのですが。」


 アルトが言うと、受付の女性は驚いた。


「中央倉庫ですか?」


「はい。」


「立ち入り許可が必要です。」


「申請できますか?」


「もちろんですが……。」


 女性は少し困った顔をする。


「許可が下りるまで、かなり時間がかかると思います。」


「どれくらいですか?」


「通常なら二週間ほど。」


「二週間……。」


 マルクが呟く。


「長いな。」


「じゃあ、別の方法を考えます。」


 アルトは受付の女性に笑いかけた。


「中央倉庫の責任者の方に直接お会いできますか?」


「責任者ですか?」


「はい。」


「どうしてです?」


「倉庫の運営について、提案があります。」


「提案?」


「はい。」


 女性は不思議そうな顔をしながらも、取り次いでくれた。


 数十分後。


 案内された部屋には、四十代後半ほどの男がいた。


「私が中央倉庫の管理責任者、ロイド・グランです。」


「アルト・レインハルトです。」


「話は聞いています。」


「ありがとうございます。」


 ロイドは椅子に座りながらアルトを見る。


「王都中央倉庫について何を知りたい?」


「十年前から現在までの物流記録です。」


 ロイドの表情が変わる。


「なぜ?」


「現在の物流改革に必要だからです。」


「それなら、正式な申請をしてください。」


「二週間かかります。」


「規則です。」


「分かっています。」


 アルトは頷く。


「だから、別の提案をします。」


「何を?」


「中央倉庫の業務改善です。」


 ロイドが眉をひそめた。


「……業務改善?」


「はい。」


 アルトは資料を机の上に広げる。


「現在、中央倉庫では荷物の入庫と出庫に時間がかかっています。」


「それは知っている。」


「特に午後から夕方にかけて、荷馬車が集中しています。」


「当然だ。」


「だから、待機時間が長くなる。」


「仕方がない。」


「仕方なくありません。」


 アルトは一枚の図を見せた。


「入庫時間を分散させます。」


「どうやって?」


「荷主ごとに時間を指定する。」


「簡単に言うな。」


「簡単です。」


「……。」


「ただし、仕組みが必要です。」


 ロイドが資料を見る。


「どんな仕組みだ?」


「事前予約です。」


「予約?」


「はい。」


 アルトは説明を続けた。


「荷主は前日までに入庫予定を申請する。」


「倉庫側は時間帯を指定する。」


「荷馬車は指定された時間に来る。」


「これだけで、入庫待ちの時間を大幅に減らせます。」


 ロイドは黙って資料を見る。


「理屈は分かる。」


「でも、商人が守らなければ意味がない。」


「だから、守るメリットを作ります。」


「例えば?」


「予約時間を守った商人は、優先的に荷物を処理する。」


「遅れた商人は、次の空き時間まで待つ。」


 ロイドが頷く。


「なるほど。」


「ルールを作るだけでは、人は動きません。」


「利益があるから守る。」


 アルトは笑う。


「営業の基本です。」


 ロイドは少し笑った。


「君は本当に商人みたいだな。」


「元営業課長ですから。」


「元?」


「今は異世界の営業課長です。」


「……意味が分からない。」


 エリシアが吹き出した。


 ロイドも思わず笑う。


「面白い少年だ。」


「ありがとうございます。」


「だが、改善案だけでは記録を見せる理由にはならない。」


「分かっています。」


 アルトは次の資料を出した。


「では、もう一つ提案します。」


「何だ?」


「中央倉庫の物流効率を測定します。」


「測定?」


「現在の入庫時間。」


「出庫時間。」


「荷物の滞留時間。」


「倉庫の使用率。」


「これらを調査して、改善前と改善後を比較します。」


「そのために、過去の記録が必要なんです。」


 ロイドは黙り込んだ。


 アルトは続ける。


「僕たちが欲しいのは、秘密を探るための資料ではありません。」


「物流を良くするためのデータです。」


「だから、必要な部分だけ見せてもらえればいい。」


「……。」


「十年前の機密情報まで全部見せてほしいとは言いません。」


 ロイドがアルトを見る。


「君は、そこまで考えていたのか?」


「はい。」


「全部見せてくれと言えば、警戒されるでしょう?」


「でも、相手の負担を減らせば話は変わります。」


 ロイドはしばらく考えた。


 そして――。


「一部なら許可できる。」


「本当ですか?」


「ああ。」


「ありがとうございます。」


 アルトは頭を下げた。


 こうして、中央倉庫の内部に入ることが許された。


 巨大な倉庫だった。


 大量の荷物が並び、荷馬車が次々と出入りしている。


「すごい……。」


 マルクが目を丸くする。


「王都中の荷物が集まっているんですね。」


「そうだ。」


 ロイドが答える。


「一日に数百台の荷馬車が出入りする。」


「それなら、管理が大変ですね。」


「だから人手も多い。」


 アルトは倉庫内を歩きながら、周囲を観察していた。


 荷札。


 番号。


 入庫時間。


 出庫時間。


 そして――。


「ロイドさん。」


「何だ?」


「この番号、どういう意味ですか?」


 アルトが指差した。


 荷札に刻まれた番号。


 見覚えがある。


「その番号は、古い管理番号だ。」


「いつから?」


「十年以上前から使われている。」


 アルトの目が鋭くなる。


「まだ使っているんですか?」


「ああ。」


「なぜ?」


「古い帳簿と照合するためだ。」


「古い帳簿……。」


 アルトの心臓が跳ねた。


「どこにありますか?」


「地下保管庫だ。」


「見せてもらえますか?」


 ロイドは少し迷った。


「十年前の資料もある。」


「はい。」


「それは、機密扱いだ。」


「分かっています。」


「だから、私も一緒に行く。」


「お願いします。」


 地下へ続く階段を下りる。


 一階とは違い、地下は静かだった。


 大量の帳簿が棚に並んでいる。


「これが……。」


 アルトは棚を見る。


「十年前の記録。」


「そうだ。」


 ロイドが鍵を開ける。


 古い帳簿を取り出す。


「これが物流記録だ。」


 アルトは受け取った。


 ページをめくる。


 北部からの荷物。


 王都への入庫。


 中継所。


 商会名。


 そして――。


「……。」


 アルトの手が止まった。


「どうした?」


 レオンが尋ねる。


「この記録。」


 アルトが一つの行を指差す。


「セルジュ・アルベルトの名前があります。」


 ロイドが驚く。


「セルジュを知っているのか?」


「はい。」


「そうか……。」


 ロイドは複雑な顔をした。


「彼はここで働いていたことがある。」


「中央倉庫で?」


「ああ。」


「いつ?」


「十年前。」


 アルトはページをめくる。


「……この記録。」


「何かおかしい?」


「セルジュが担当した荷物だけ、入庫先が書かれていません。」


 ロイドが帳簿を覗き込む。


「本当だ。」


「しかも、同じ日に三回あります。」


「……。」


 アルトはさらに調べる。


「三回とも同じ番号。」


「三十。」


 レオンが呟いた。


 十年前の秘密物流網で使われていた番号。


「ここだ。」


 アルトが指差す。


「この番号の荷物だけ、正式な記録から消されています。」


 ロイドが青ざめる。


「そんな……。」


「そして、もう一つ。」


 アルトはページをめくる。


「この帳簿の最後。」


 そこには、十年前の最後の入庫記録があった。


 署名。


 セルジュ・アルベルト。


 そして、その下にもう一つの署名。


「……グレイヴ・ハルトマン。」


 レオンが黙り込む。


「やっぱり繋がっている。」


 アルトは呟いた。


 だが、その瞬間。


 地下保管庫の扉が閉まった。


 ガチャン。


「……。」


 全員が振り返る。


「誰だ!」


 ロイドが叫ぶ。


 返事はない。


 鍵がかかっている。


「まずい。」


 レオンが扉を確認する。


「外から閉められている。」


 アルトは周囲を見回した。


「でも、目的は僕たちを閉じ込めることじゃない。」


「どういうこと?」


 エリシアが尋ねる。


「この帳簿を消すことです。」


 アルトが振り返る。


 棚の奥から、煙が上がっていた。


「火だ!」


 ロイドが叫ぶ。


「帳簿が燃やされる!」


 アルトはすぐに動いた。


「マルク!」


「はい!」


「水を!」


「分かりました!」


「エリシアは扉の前へ!」


「了解!」


「レオンは棚を守って!」


「任せろ!」


 アルトは燃え始めた帳簿を取り出す。


「十年前の記録を燃やして、証拠を消すつもりか……。」


 だが。


 アルトは一冊の帳簿を抱えた。


「それなら、僕たちが先に全部確認します。」


 煙の中。


 アルトの目に、一つの記録が飛び込んできた。


 それは――。


 十年前に消えたはずの最後の物流記録だった。


 そして、その最終ページには。


 現在の物流改革に関係する人物の名前が記されていた。


「……見つけた。」


 アルトは呟く。


「黒幕への手掛かりだ。」


 その直後。


 地下保管庫の外から、男の声が響いた。


「その帳簿を渡せ。」


 アルトは顔を上げる。


「誰ですか?」


「お前が知る必要はない。」


「そうですか。」


 アルトは帳簿を抱え直した。


「じゃあ、営業を始めましょう。」


「……何?」


「あなたがこの帳簿を欲しがっている理由を聞かせてもらいます。」


 外の男が沈黙する。


 アルトは笑った。


「理由が分からないと、売れませんから。」


 地下保管庫に、静かな緊張が走る。


 十年前から隠されていた真実。


 そして、それを守ろうとする者。


 アルトはついに、敵と直接向き合うことになった。


営業メモ⑩①


「相手が欲しがっているものを見つけたら、すぐに渡してはいけない。なぜ欲しいのか、その背景を確認することが重要。相手の目的が分かれば、交渉の主導権を握ることができる。営業では、商品そのものより『なぜそれを必要としているのか』を聞くことが大切。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第百三話「営業課長、地下倉庫で商談する」


閉じ込められた地下保管庫。


燃え始める十年前の帳簿。


そして、外から聞こえる謎の男の声。


「その帳簿を渡せ。」


「理由を聞かせてください。」


「何?」


「理由が分からないと、売れませんから。」


まさかの状況で始まる、アルトの「営業」。


しかし、その男の正体は――。


十年前の物流網崩壊に関わった人物だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。