第4話 パプリカの追撃
入学式を終え、飛鳥様に別れの挨拶を済ませ帰宅した。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
専属の運転手に自宅の玄関の重いドアを開けてもらうと、待ち構えていたかのように小さな影が抱きついてきた。
「まいちゃん!おかえり!」
「ただいま、玲衣。」
そう、作中には出てこなかったが私にはなんと二個下の弟がいたらしい!
『院瀬見玲衣』
4歳とは思えないくらい優秀で、間違いなくこの世の全ての4歳児の中で1番かわいい弟だ。
姉バカ?いいえ違います。
「黎明学園はどうだった?綺麗だった?」
「すごく広くて綺麗だったわ。玲衣も再来年から一緒に通うのが楽しみね。」
リビングのやたらと大きいソファに腰掛け、隣に座った玲衣の頭を撫でながら想像する。
黎明のライトグレーの制服は玲衣に世界一似合うだろうなあ。
なぜなら世界で1番かわいい4歳児なのだから。
え?姉バカ?そんなわけないでしょう。
夕食の時間が近づくと、使用人たちが少し慌ただしく動き始める。
院瀬見家の使用人はそこまで多くない、普段はせいぜい10人程度だ。
一条家は何も無い日でも30人以上いるらしいので、それに比べれば3分の1もいないくらいだ。
給仕の方が配膳を終え、ようやく家族4人でのご飯が始まる。
今日は入学祝いということもあってか、普段より豪華なご飯が並べられている。
あ、オマール海老もある♡
「入学式はどうだったかな?舞衣」
お父様がフィレステーキを切り分けながら尋ねてきた。
「初めてご挨拶する方もいて、とても楽しい1日だったわ」
お父様の質問に、サラダに入っていたパプリカをそれとなく避けながら無難に答える。
「鷹司家の御長男も今年入学したとか」
ギクリ。
まあ、気になるよねえ。
お父様だって、一条家や鷹司家には及ばなくても院瀬見家の立派な現当主だ。
そりゃ御曹司たちの動きには敏感になるよね。
どうしよう、仲良くしろとか言われたら……
いや無理無理無理。
あの人6歳なのに完成されすぎてて怖いんだもん。
なんというか、子供特有の“ぐちゃっ”とした感じが一切無いんですの。
「鷹司様には飛鳥様と一緒に御挨拶いたしましたわ。」
マズイ、動揺したせいかパプリカが私のお皿に入り込んでしまった。
このままではパプリカと鷹司のせいでせっかくの豪華なご飯が台無しになってしまう。
「たかつさかって、なあに?」
玲衣がサラダを食べながら聞いてくる。
こ、この4歳児、パプリカを平然と食べている……!?
偉い、偉すぎる!かわいい!!
「鷹司家の大和様よ。いずれ玲衣もお会いすることになるわ、我が家の次期当主として」
お母様がワイングラスを傾けながら答える。
赤茶色の髪にクローバー型のイヤリングが揺れる度に光を反射して、この空間にとても映えている。
お母様はいかにも上流階級の奥様という感じの人だ。
「鷹司家に顔を覚えてもらって損はない。院瀬見家の長女として上手く立ち回るんだよ、舞衣」
お父様はいつの間にかご飯を食べ終わっていて、お母様と同じボルドーワインを口にしていた。
というか、パプリカの排除に手間取っていたせいで少食なお母様や幼い玲衣よりも食べるのが遅れてしまっている!
「心得ておりまふわ、お父様」
私は食事のペースを合わせるために慌てて高級そうなお肉を頬張る。
「それと舞衣」
お父様からの不意の名指しにコキュン、とお肉の塊を飲み込んじゃった。
うわー!!絶対高いお肉だったのに!
味わう間もなく口の中から消えてしまった……しょぼん。
「家ではいいが、外で好き嫌いはやめなさい」
お父様は私のお皿に残ったパプリカを見ながら言った。
……飛鳥様のことポンコツなんて言ってられませんわね?




