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乞う路傍の雪以下なら夢と仰せ  作者: 杜若表六


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ヴァルザー「雪が降る」の構造

ヴァルザー『雪が降る』(田中一郎氏による素晴らしい訳がある)


対立物があった場所はただ一つのもの、等質なもの、すなわち雪に代わった。なんと魅力的で平和なことだろう、あらゆる多種多様な現象、存在が、それぞれただ一つの姿に、ただ一つの心象からなる全体へと結び付くことは。ただ一つの心象が支配的となる。(ヴァルザー)


均質な世界像


私の頭に浮かんでいるのは、一人の主人公が──彼は圧倒的な力に対して勇敢に抵抗した、囚われの身になることなど考えもしなかった──戦士として責務を最後まで果たし、雪の中に倒れているかもしれないということだ。(ヴァルザー、下線引用者)


語り手の最も伝えたいイメージ

イメージを引き出すトリガーとしての雪に覆われた世界


海と川だけは雪に覆われない。海が雪で覆われることはない。海水はすべての雪を簡単に飲み込み飲み下してしまうから。

(中略)

彼女は窓から離れ、座り込み、涙を流す。(ヴァルザー)


(雪に覆われない、雪を飲み込む)流れる水のモチーフ



語り手は作品の冒頭から前半部分までで雪に覆われ白く染まり、丸みを帯びた平和な世界を客観的に描写したあと、にわかに(語り手にとって最も重要な)死にゆく戦士のイメージを提示し、作品内の視点を反転させる。また、作品の結末を戦士の身を案じる妻の様子とその涙で締めくくることによって、中心イメージである戦士から雪の世界と逆方向に照射された(雪に覆われることのない流れる水のモチーフをともなう)主観的な世界をも創造している。


そして雪に覆われた世界と妻の存在する世界が同一であることが描かれているということは、この世界の最終的な心象イメージは妻の涙によって再び飲み下され、雪のない世界を想起させるが、読者は再び冒頭を読んだとき、次の一文にいきあたり、その意味を了解する。「雪が止むことはない、始まりも終わりもない。」


つまり、(雪による)世界の均質化→イメージ(戦士)の提示による反転→もう一極の視点(妻)の提示→世界の均質化の終わり→冒頭に戻ると、「始まりも終わりもない」……という構造は、一つの心象の支配のメカニズムとともに、それが観点の移動による変化の循環であることも示している。(降り積もる雪は均質化への力であり、流れる水は変化する力である。また、妻の涙は落ちる方向性と流れる方向性をもつ。均質化への力と変化する力が一体となったとき、作品は一応の終わりを迎える)

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