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死んでるはずの令嬢に転生したので、悪役令嬢として生贄になります  作者: 椿 柚柑
第二章 広がる

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31 二つにわかれた乙女


 私が死んでいた世界線では、この国に虹シュバのような救世の乙女なんてものは存在していない。

 存在していたのは、ただ一人。


 生贄の乙女だけ。





 最初の乙女クオリアも生贄だった。


 ただ、生贄という言葉は次第に伏せられていって、忘れ去られている。後ろめたさからか、国の罪を隠すためかはわからないけど。


 生贄を言い換えて、救国の乙女と呼ばせていた。


 この国を救った、という意味で。




 それをなぜ来栖が救国から救世に変えたのかは、おそらく予想だけど神様の指示。国ではなく世界ごと救う存在を作って欲しい、とでも頼まれたんじゃないかなと。


 来栖が神様に頼まれて世界を作り直すベースを作ったことはわかっていても詳細について私は知らないから、あくまで予想だけどね。




 生贄だなんて存在を知らない来栖はヒロインに救世の乙女の役割をあてがった。



 そうしてこの世界が生まれて、私が生き残ったことで、元々の役割だった生贄の乙女という名前も役割も残った。

 


 だから、生贄の乙女を言い換えただけの救国の乙女は、救世の乙女として存在し、生贄の乙女も存在することになってしまった。


 同じものが二つに分離した。




 そのせいだと思うけれど、この部分がものすごくややこしくなってる。

 

 クオリア以降救世の乙女は何度か生まれたはずなのにその詳細は曖昧で、生贄の乙女の情報はある程度残っている。

 照らし合わせれば、同じ人物を指していたことがわかるけど、どこにも同一人物だという記録も、生贄と救世の乙女が同一を意味することも記録されてない。


 この辺りは以前の世界の状態を上書きしちゃった、って感じ。

 どう考えてもどちらも大事な存在なのに、救世の乙女は見つかったらそれでオッケー、いなかったらいなかったで問題なし、みたいな曖昧な存在になってる。


 それでも、この国のヒロイン、聖女的なポジションは救世の乙女。クオリア教の教会にいけば、その存在のすばらしさがわかる絵画や彫刻、逸話なんかが沢山残ってる。



 それらすべては、生贄の乙女たちの軌跡だったのに。



 何代か前の生贄の乙女から、はっきりと二つが分かれたことが確認できていると思う。

 パパが持っていた当主の本というのをこっそり見た限りだけど、逃げ出そうとした生贄の乙女がいたのは多分そのせい。



 ただ死ねと、ただ魔を受け取れと言われるだけの存在。

 それが自分の愛娘に向けられるのだとしたら、拒絶する親がいてもおかしな事じゃないと思う。たとえ宝剣士であったとしてもね。



 名誉と命を奪われ、ただ消費された存在。それが生贄の乙女になってしまった。

 死ぬだけの存在というイメージがついて回ってる。



 だから私が逃げ出すかもしれないと陛下たちが考えたのも、当たり前だったんだよね。

 人形にするっていう方法も、少しでも魔を受ける苦しみを軽減させるために考えられたものだったと思うんだけど、単純に縛り付けられるための鎖に変えられてしまってる。




 今現在、生贄の乙女の存在は宝剣士と王家以外に公表されていない。だから宝剣士以外が二つの存在の関連性に気づくことはできないはず。


 救世の乙女の研究者はいても、生贄の乙女の研究者はいないから。




 だけど、いずれ気づかれると思ってた。

 サフィリスたちが自分たちの家の資料を集めて情報交換しあっているのは知ってた。まだ生贄についてしか調べてないから気づかないと思ったけど、ルチルあたりが大公に相談したら、もしかしたら気づくかもなぁって。



 気づかれてダメな事じゃないけど、救世の乙女の立場がなくなるのが怖い。


 彼女には文字通り、世界を救ってもらわないといけないのに。





「君があまりにも聡明すぎてね、失うのが惜しく思ったことがあった…ああこれは陛下たちには内緒だよ。」


「はい。」


 生贄を生かすだなんて、そんなの国家反逆もいいところだ。ましてや大公なんて立場の人がそれをすれば国が割れる。


「生贄について調べたんだ。ありとあらゆる情報をね。ルチルも協力してくれて、ほうけんしの家々の情報を集めてくれていた。」


「そう、なんですね…」


 やっぱり、そうだったのね。



「そうするとね、救世と生贄、2人の乙女が同じ時期に生まれていることがわかってきた。もっと調べると、同じ時期どころか、同じ年同じ日に生まれてるとわかった時もあった。



 そして、同じ家、つまりロバイトに生まれていることもね」



 うん、さすがですね。

 思ったより早かった。できたら入学した後くらいに判明して欲しかったんだけど、思った以上に前宝剣士も現宝剣士もつながりが強いみたい。


 陛下が交流を禁じたはずなんだけど、陛下もどうにもそのあたり緩くなってきてるからなぁ。



「生贄と救世は同じことを指していて、生贄としてその身をもって世界を救う、ということなのだと考えていたんだ。だが君は救世の乙女がそのリーヴァーの娘だという。それはどういうことなんだ?」


 簡単なこと。

 来栖が知らなかった。それだけ。

 アリアを生贄だとしらなかった、生贄が救国の乙女だとしらなかった、ただそれだけ。





 でもそれを伝えることはできない。



「私が読んだ中には、生贄については記述がありませんでしたし、そんな存在を匂わせるような描写も一つもありませんでした。あるのはただ救世の乙女だけです。」


「…君がそれになることは、できないのか?」


「え?」


「もちろん、君の読んだという話と違ってこの国の救世の乙女は魔王の討伐任務につくことなどない。魔王に祈りを捧げ怒りを解き、封印の加護を強化するのが乙女の役割だ。だから君が生贄として魔王の封印いに身を捧げるのではなく、封印や加護の強化を代わりに行うことはできないのか?」



「…それは、むり、です。」


「なぜだ」


「わかるから、です。大公も感じていたのではないですか?もう封印が限界だということ。魔だってあんなにあふれだしていたでしょう。」


「・・・確かに。」


「もう、限界なんです。封印石は、もう壊れる寸前。だから私は生まれました。ただそれだけのことなんです。生贄の役割はただそれだけ、生まれて、石になるために死ぬ、それだけです。」



 そう。


 ここで生贄にできるのは封印石になることだけ。





 そう思っていてほしい。今はまだ。





 ねぇ、デュー。

 ちらりと足元のデューを見る。尻尾がふわりと動くけれど、すぐに止まった。寝ているみたいに見えた。



 そのままふさふさと尻尾だけを動かして、私の足の優しく触れるけど、デューは寝たふりを崩さない。

 まるで私の嘘に味方するみたいに。




 大公、私はね、生贄になるんですよ、本当の意味で。

 その後、世界を救うのは来栖、ヒロインなんです。そうでなくては国が滅んでしまうんですよ。



 戦争だけじゃない。



 加護が消えるから。魔法も、少しずつ失うから。


 封印石の恩恵だけで成り立っているこの国が自立するしか、生き残る道はない。

 その旗印に、救世の乙女が立つ。そのために私は死ぬんですよ。



 

(そう言えたら、楽だけどね。手伝ってくださいって)



 目の前のきれいな人は悲しそうな眼をしている。


 いつの間にこんなに大事に思われてしまったんだろう?

 初めてあったときは殺そうと言わんばかりの怖い目を向けられたのに。



 悲しそうで、苦しそうな表情で熱っぽい視線を向けられて、息が詰まった。



 その目は八歳に向けるようなものじゃないよ、大公。

 愛しい女性に向けるものだよ。




「わん!」



 長い沈黙がデューの声で打ち砕かれた。


 気が付くと、大公の手が私の頬に触れていた。



 すぐに大公は手をひっこめようとして、でもそのまま私の頬を撫でた。



「大公?」



「あと、九年か。」


「・・・そうです。」


「その九年、私の側に縛り付けられたらどんなにいいかな」


 大公の指が唇に触れた。


「それは、嫌です。」


「・・・冗談だよ。陛下には話しておこう。とりあえずは侯爵やその一族が証拠隠滅のために口封じされないように保護する手立てと、実験の進捗具合、あとは新しい被害者を生み出さないように監視しておかないとな」




 そう言ってそっと手が離れ、私の返事を待たないで大公は部屋を出ていった。




 なでられた部分が熱い。






 気が付くとデューが私の膝に乗って撫でられた部分をぺろぺろなめていた。



「嫉妬してるの?デュー」


「ぐるるるる・・・」



 デューの瞳には私しか映っていなかった。




体調不良とPC不調が重なり書くのが遅れてます(; ・`д・´)

書きあがったら明後日のお昼に、間に合わなかったら出来上がり次第お昼にアップします。

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