↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んでるはずの令嬢に転生したので、悪役令嬢として生贄になります  作者: 椿 柚柑
第二章 広がる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/33

30 抑止力



「確かに・・・できないだろうね。」


 魔王討伐について、大公は私が思ってる通りの答えを出した。



「私をはじめとした宝剣士たちは皆同じ意見だと思うよ。あまり大きな声では言えないけれどね、かの者は封印石の中にいるというだけでも強烈な威圧感で対峙しているのもつらかった。魔も同様に自分の命を喰われているような感覚があった。

 私はもうルチルに譲った身だし、魔から生まれたデューがあまりにも普通の犬と同じような愛くるしさを持つから少しずつあの脅威は記憶のふちに追いやられているけれど、決して忘れることはないし、ましてや歯向かうなんて考えたくもないのが本心だよ。」



 うん、そうだよね。


 だからこそ、魔王を倒すのではなく封印して、生贄を捧げながら魔力をつぎ足しながら二千年も封印を維持し続けてきてるんだもの。


 万が一、復活なんてしないように。



 世界まるごと吹き飛ばすだけの魔力が詰まってるあの封印石。その元凶である魔王を倒すなんて考えた人物は、今だけじゃなくて昔にもいなかっただろうし、大公の言うことはその通りなんだと思う。



「私が生贄になって封印は続いていくとしたら、私が読んだ通りの未来にはならないと思うのです。」


「・・・今回見つかったように、他国にこの国の情報や魔法に関する対策を取られて、攻め入られることもあると考えているんだな?」



「その通りです。私が知っている未来では、同じような出来事が起こっても、結局戦争にはならなかった。でもそんなことありえないと思うんです。」



 小説では創作だったその後の世界がここでもそのまま再現されるはずがないし、第一小説にはこの国のことばかりが書かれていて、他国については殆ど触れられてなくて察するしかない。

 

でも、実際にはこの国の周りには大陸の覇権争いに巻き込まれて、吸収され国の名前を失ったり、属国として使い捨てられようとしている国々と、それらを支配している帝国、対抗している国々で作られた巨大な連合国などがある。


 どちらもこの国を味方につけたがって開国や外交を要求しているけど、そんなまどろっこしいことをせずとも奪ってしまえばいいわけで。



 ほんの少しだけ書いてあった、エンディング間近の海の描写。具体的に示唆されてなかったけど、多くの戦艦がこの国を目指して進んできているようにも読み取れた。


 海から来るのであれば同じくこの大陸で海に面している連合国だと思う。

 今回は帝国関連だったけど、連合国だって同じくこの国に攻め入ろうとしてきてる。北東の帝国に南からくる連合国。ここは挟み撃ちにされるんじゃないかと思ってる。




 そのタイミングが、おそらく小説でいうところの魔王討伐、今でいうなら生贄の儀式のタイミングなんだと思う。意識がそっちに向いて外への警戒が手薄になりやすいから。



 今までの世界はその瞬間、生贄の乙女である私も、虹シュバのヒロインである救世の乙女もいなかった。おそらく生贄なしで封印を強化しようとしたか、魔王を解放しようとしたかのどちらかを選択して、失敗して、滅んだ。



 ただ、そのタイミングで儀式をするってのが漏洩していたってことだけは確実にわかってる。


 だから普段鎖国であるこの国に来る船なんて数えるくらいしかないのに、なぜか海にたくさんの船影が見えていたし、リーヴァー領よりももっと北東側、帝国に近い場所が騒がしいという噂もあった。

 



 どう考えても、挟み撃ちにされる未来が待っている。



「どうするのが一番いいと考えている?君が読んだ通りになると限らないが、それに近いことが起こりえるのなら、一番確実な対策を考えられるのも君だということになる。もちろん陛下にも話すけれどね。」




「・・・陛下はどう判断されるでしょうか」



「おそらくすぐにでもリーヴァー侯爵をはじめとした施設関連者を拘束するだろうね。侯爵が主犯でもなければかかわってすらないことはわかっているけれど、情報を流したのも執事を雇っているのも彼だから。」


「それは少し待ってもらいたいのですが、難しいでしょうか。」


「なぜ?」



「耐性をつける技術は完成します。おそらく、あと数ヶ月で。これ以上の情報が漏洩しないようにしながら、完成させた瞬間に抑えたほうがこの国のためになります。」


 すでに帝国にわたってしまった新開発の魔法知識などはおそらく帝国で使われることはない。使える人がいないから。だからそれらよりも今行われてる人体実験の結果が帝国に伝わらないようにしなければいけないんだけど。




 だけど、完成させてしまったほうがいい。魔法耐性をつける技術は、使えるから。



「今ではなく?」


「今ではなくです。完成させたほうがこの国のためになります。そのためにも侯爵を拘束したり、このことを問い詰めたりすると口封じされて研究結果ごと持ち去られる可能性のほうが高いです。屋敷も訓練施設も殆ど執事とその息のかかった人で口封じ出来る状態になってますから。」

 


 確かに、と小さな声で大公はつぶやいた。調べたのであればこの言葉が嘘じゃないと分かってくれるはず。


 リーヴァー領、かなりギリギリなんだよね。実験が終わりそうな今万が一何かあればすぐにでも口封じで皆殺し、その騒ぎに乗じて撤退して実験の詰めだけは帝国で行う、ってことになりそう。


 国の外に出ないように国境付近で張っていてもいいけど、人数も多いし万が一を考えると、気づかれないようにじわじわ追い詰めていって完成した瞬間に拘束しちゃったほうがむしろ安全な気がする。



「この国のため、の理由次第だろうね。陛下は他国が嫌いだから、すぐにでも処分したいと考えているし」



「大公は魔力耐性についての人体実験の内容も調べましたか?」


「魔力生成量が低い子どもなんかに行うのと同じような処置をすると聞いているが、違うのか?」


「その通りです。それが問題なんです。魔力生成量が低くて、魔力回路が大きいと流量が少なすぎて詰まったり枯渇していると体が勘違いするから体を悪くしたり衰弱する。だから魔力回路を小さくする魔法をかけるんですけど・・・」


 シトラインが魔力暴走を起こしたのは、回路に流せる量以上の魔力が生成されてしまっていたからなんだけど、逆に回路が大きいのに魔力が少なすぎてもダメなんだよね。



 魔力回路は体の中にあって血管みたいなものなんだけど目には見えない。その中を同じく目には見えない魔力が流れてるんだけど、回路の中を少なくとも半分以上の割合で魔力が流れていないと不調が起きる。


 魔力回路の大きさに対して圧倒的に魔力量が足りてないと、身体が衰弱していってひどいときには死に至る。



 この国以外の地域では魔力回路も魔力生成量も極小な人しかいない。それが当たり前。

 魔法を使えるほどの魔力量を持っている人も、それだけの魔力量を流せる回路を持ってる人もいない。


 だけど確実に流れている。




 人に対して魔法を使うとき、もちろん火球なんかを当てたら火のダメージが入るし、風を起こせばあおられるんだけど、身体に対して何かしようとするときは、相手の魔力回路に働きかけることが魔法を使うことになる。


 治療をするときは、相手の回路に治癒の魔法を流すことで、怪我の場所に治癒魔法のかかった魔力が集まっていって治る、という感じ。


 魔法に関してわかっていない部分も多いんだけど、基本的には体の中の魔力回路に何らかの指向性を持たせた魔力が流れることで魔法にかけられる、とされてる。





 だけどもし、相手の回路が一切働いていなかったら。



 どんな強力な魔法をかけたとしても、魔法のダメージは一切通らない。物理ダメージは入るけど、でもそれだけ。例えば侵入者に対して昏睡するような魔法をかけてセキュリティを高めていたとしても、意味がなくなる。


 意識阻害とか記憶の消去とかそういうのは一切かからないし、魔法のダメージも物理的なものだけになってしまえば、下級一つとっても威力は半分以下になると言われてる。



 

 代わりに、回路を完璧に止めてしまったら十数時間で死ぬ。



 それが、魔法耐性の人体実験の内容。



 魔力回路を小さくする魔法は医療魔法の初歩なので私も練習すればすぐに使えるくらいのものだけど、彼らがやってるのは魔力回路を完全に遮断して完全な体制を得るだけじゃなくて、それを行う魔道具や遅効性の回路縮小の魔法の研究もしていた。




 作戦の直前に回路を遮断する魔法をかけるんじゃなくて、ボタン一つで回路が遮断されるような魔道具があれば半日くらいで死んでしまう使い捨ての駒であっても使い勝手がいいし、遅効性にすれば無駄が減る。




 でも裏を返せばそれは、暗殺の道具にもなる。


 


 デューに調べてもらってわかったことだけど、叔父様は暗殺道具を作らされてる。陛下の命令で。

 戦争に対して危機感はないんだけど、間者が入り込むことがちらほら増えていることは知っている陛下は数年前から叔父様にそういう研究をさせていたみたい。


 だけど叔父様が乗り気ではなく、あれこれ理由をつけてのらりくらりしている部分がある。

 秘密道具みたいな魔道具はいっぱい作るのに、人を殺める道具は作りたくないから。その結果あんまり使い勝手のいい暗殺魔道具は生まれてない。





 だから、今人体実験されている結果出来上がるものがきっと喉から手が出るほど欲しいはずなのよね、陛下。

 特に今回のようなものはこの国の人なら使うのもかけるのも簡単だけど、他国の人からしたら対処が一切できない。


 拷問道具とかにも使えるんじゃないかな。




 叔父様が暗殺向けの道具を作っていることを知ってるのがばれないようにそれとなく「国のための武器の一つになります」と説明すると、その意味が分かったみたいで大公の顔色がはっきりと曇った。




「・・・前世の記憶があるということは、もしかしてアリアは私よりもずっと大人だったのかな?」


「単純に年齢を足すのはおかしいかもしれませんけど、前世では二十八歳で亡くなったと記憶しています。」


 この世界を生きて五年と少し、合算したら三十三歳で大公よりは年上だと思う。少しだけどね。



「時々君が大人に見えていたのは、私の勘違いじゃなかったのかなと思ってね。」



「・・・私は今、八歳なのには変わりありません。」



 今の大公の言葉に頷くのは危険、そんな気がした。

 

 ふさふさと足元のデューの尻尾が揺れている。少し不機嫌そうに見える。



「八歳の子供が抑止力になりそうなものを陛下に進言することはないよ・・・まぁ、いい。それよりもリーヴァー侯爵について君はだいぶ慎重に見えるけど、何かあるのかな?」



「リーヴァー侯爵令嬢が、私が読んだ恋物語の主人公だから、です。」



「そう、そうなのか・・・つまりクオリアの生まれ変わり、救世の乙女だと言いたいのかな?」


「クオリアの生まれ変わりではないと思いますが。救世の乙女であることは間違いありません。今はまだ気づいていないと思います。」



 気づいているけど覚醒していないふりをしている、というほうが正しいかな。まぁそこまで大公に話すつもりはない。



 多分来栖は来栖の考えがあって目立たないようにしているんだと思う。

 



 虹シュバ通りになるとは思っていないけれど、あの流れに沿ったほうが何かと便利ではある。

 できれば入学前に他国の脅威をあらかた排除して、万が一に備えておきたい。あとは生贄になるだけ。



 そのためには、生贄の儀式にかかわる救世の乙女のヒロインのお家取り潰しなんてことになってほしくない。

 万が一ってこともある。私が沢山の世界線で死んでいたように。



「一つ、聞いてもいいかな。知らなかったらそれで構わないことなんだが。」


「なんでしょうか?」


「その物語の中では救世の乙女とはどのような存在だった?どんな役割があった?わかる範囲で構わない、教えてもらえるかな。」




 ・・・ああ、そう。大公はさすがですね。よく調べてる。ほんとに。



続きは明後日25日のお昼になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。