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死んでるはずの令嬢に転生したので、悪役令嬢として生贄になります  作者: 椿 柚柑
第二章 広がる

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29 協力者と作られた未来


 思っていた以上に大公はしっかり調べてくれたのだと、教会を出て合流した時にわかった。


 一応デューを分身させ見えないようにして大公の動きを観察していたけど、大公は護衛として陛下の隠密部隊を借りてきたらしくその人たちの動きはとてもスムーズだった。


 そしてあっという間に地下施設のことも調べ上げてくれたし、その危険性についてもちゃんと理解してくれていたのだと思う。


 だからこそあっという間に陛下にまでその報告が上がり、王都に戻ってすぐに私は招集された。





 この国は狙われてる。

 この世界ごと消え去った未来では攻め入られることがなかったけれど、私が生贄となる以上世界は消滅しない。

 このままいったら、戦争というか一方的に攻め入られて侵略される未来が待ってる。



 その大きな原因の一つが、魔法に対する対策を取られてしまうこと。

 この国が豊かであるのは肥沃な国土だけではなくて、魔法という力がもたらす豊かさがあるから。


 生活を豊かに円滑にすることもできるし、戦力としても魔法は脅威だと思う。

 

 ここまで魔法を使えるのはここだけで、他の国ではほとんど使えない。




 でもそれが、普通のこと。


 元々、この世界に魔法なんてものはなかったんだから。




 この国だけがイレギュラーで魔法を使えている、だからこそ他からみたら脅威で、だからこそ攻め入られることもなく鎖国されたこの国の中でゆっくりのんびり過ごしていけているんだけど、対策が取られちゃったらそれもおしまい。だけどそれに気づいている人は多分少ない。


 対策取られるはずがないって思ってるんだよね。

 魔王封印から二千年、いくつかの戦争が起こったし、小さな火種は数十年前くらいでもぽつぽつあったけど、一度も負けたことがない。



 国境周辺は少し違うけれど、二千年も勝ち続け守られ続けてると危機感を感じることはほとんどない。国王陛下ですら開国要求などに対しては強気の対策をとってるけど、それ以外の部分についてはあんまり意識してないんだと思う。





 だから、すでに入り込まれていることに気づいてない。

 魔法はかなり万能だけど、信じすぎてはいけない。この国の人が他国に与してたら気づけないから。今回みたいに。





 現時点でリーヴァー侯爵の執事をはじめとしてあの領地の中心部はかなりまずい状況だった。


 はじめは単純に来栖の知識の力を借りたかったんだけど、調べれば調べるほど酷いことになっていて驚いた。

 私というか、アリアが産まれる前から既にゆっくり侵略されていた。きっと作り直される前からそうだったんだと思う。その点を虹シュバでは触れてなかったから、以前の来栖も気づかずにゆっくりゆっくり蝕まれていたんだろう。


 そしてそれが気づかれる前に世界は消滅したけど。





 侵略されてるのがリーヴァー領じゃなかったら私も気づけなかったかも。

 どこかに間者がいるだろうとは思ってたけど、情報だけじゃなくて人体実験までされてるなんて思ってもみなかった。



 おそらく来栖はまだ何も気づいていない。


 教会に行くときについていっている侍女が執事側の人間で、一緒に教会に行くたびに実験の材料に出来そうな子供に目星を付けていることも。

 自分が行って熱心に子供たちと交流するたびにリーヴァー家への信頼が厚くなり、仕事を斡旋するといえば詳しく調べたりせず簡単に子供たちを連れ出せるし、連れ出した子たちと連絡が取れなくなってもあの家の紹介ならといって疑問視されない状況が続いていることも、きっと想像すらしてないと思う。




 私一人で何とかしようと思えばできなくはないけど・・・かなり目立つ。

 だからこそ、大人の協力者が欲しかった。




 虹シュバのストーリーに関係のない、権力のある人がベスト。





「アリアから二人で話したいと言われるとは思わなかったよ。」



 陛下に事情を話すように招集されることになるだろうとは思っていたから、事前に大公に二人きりで話したいとお願いしていた。

 重要機密に関することだからそれが通るとは思わなかったけど、大公がうまく立ち回ってくれたのか陛下にもそう伝えたところ問題なく二人で話す事が出来た。



 きちんと防音魔法もかけられ、ここにいるのは私と、大公。そしてデューが足元で寝ているだけ。



「大公にお話しするのが一番安心だからです。」


「君はロバイト公爵を一番信用していると思ったけど?」


「もちろん、父のことは信頼も信用もしています。でも、今回のことはまず大公にお話ししたかったんです。」



 そういうと、少しだけ息をのんだ大公の耳はほんのり赤らんだ。肌が白いから耳の赤みがとても目立って、金色の髪がさらさらと揺れて、綺麗だった。





 大公、という呼び名だけは何度も目にしたけれど、こんなに綺麗で可愛い人だとは思ってもみなかった。三十歳を超えたはずの大公は皺なんてものもなければ年齢を感じさせる要素が一つもない。大人の男性だけど、初めてあった五年前から変わらず綺麗。




 時折見せる笑顔を見る限り、きっとこの人は私に対して好意的。それが元アラサーの私には嬉しくもあったし、安心感もあった。

 

 虹シュバでは話にかかわることはなく、ただ大公と呼ばれる立場の人がいて国王に対して影響力がある、みたいな扱いだった人。描くことも、どんな人だろうと想像することもなかった。




 そんな人だからこそ、協力者として一番だと思ってる。

 


 好意を、利用するような形だけど。






 たった八歳の私の言葉に耳を赤くしてしまう可愛い人は、動揺を隠すようにお茶に口をつけたあと、仕切り直した。 


「じゃあ、話してもらおう。どうして執事を調べるように私に話したのかな。」



「私には、前世の記憶があります。その前世でこの世界の未来について書かれた本を読んでいます。」

 



 虹シュバの中にこの国が危ないかも、と思わせるような描写はごくわずか。ただの背景描写程度だった。でも今思えば確実に攻め入られる寸前だったと考えられる。

 でもたったそれだけ。


 だけどそれを知っているのは私と来栖だけだから、すべてがかかれていた、という事にして話すことに決めていた。

 デューの能力を尋ねられたらごまかせないかもしれないけど、聞かれない限り話す気はないからね。



「・・・どういうことか、分かるように説明してもらえるかな?」



 大公はあからさまに困惑してる。まぁ、そうだよね。

 信じてもらえるかどうかは、私が真剣に話してるってことを全身で伝えるだけ。


 大公の目をまっすぐ見つめると私は意を決したような厳しい顔をして話し始めた。



「前世、私が前に生きていた場所はこの世界ではなく、別の世界でした。そこにはこの世界を元にした本があって、未来のことについて書かれていてそれを読んだんです。」


 前世についてはこの世界にも同じ概念がある。

 特に救世の乙女は初代のクオリアの魂が生まれ変わっているとされている。

 だから、前世という概念を説明するのはしなくていいんだけど、問題は虹シュバのこと。



 ネット小説です、逆ハーレムものです、と言って通じたら簡単なんだけどさすがにちょっと難しい。



「意味が、よく分からないな。この世界を元にした、というのは予言書かな?」


 想像通りの反応が返ってきた。正直に答える。


「いえ、恋物語です。」


「・・・」


 大公は目を見開いて黙ってしまった。



 この国って小説みたいなものは一応あるんだけどあまり人気がないのか種類が少なめ。女性が読むようなものは特に少なくて、子供向けの絵本で王子と姫が恋をする話ならいっぱいあるけど恋愛小説を読むって考え自体があんまりない。

 識字率が低いのも関係してるかも。



「前の世界は、恋について書かれた物語が流行っていたんです。その中の有名な一つがこの世界を元にして書かれていました。」


「・・・つまり、創作物だったということかな?予言などではなくて、誰かと誰かが結婚したというようなことを書いたものに、ここの未来が書いてあったと。」



「ええ。でも、ただ恋をするだけじゃなくて、世界を救うお話でした・・・魔王を倒して。」


 

 魔王。


 その単語を出した時、どう反応していいのか迷っていた大公の表情がピリッと厳しいものに変わった。




 

 私は虹シュバの話を、私に都合のいいように簡潔にまとめて話をした。



 物語がスタートするのはあと七年後。

 

 救世の乙女が宝剣士と恋に落ちるのが中心となって話が進み、終盤で魔王を倒して世界を救うこと。


 その話の中で他国からのスパイ、間者が暗躍している描写があったこと。


 それが起こるのが、リーヴァー領だと分かったので行きたいと言ったこと。



 父や弟のサフィリスに話さないのは、物語にかかわる重要人物であり彼らがこのことを知ってしまうと私の知っている未来と変わってしまうのではと不安に思ったこと。


 大公は物語にかかわってこなかったこと。




 そして。



「私は物語の中には出てきませんでした。既に亡くなっていて、代わりにサフィリスを養子にした、という流れでした。」



「そう・・・か。」


「生贄という言葉も出てきませんでしたし、魔という概念もあまり詳しくは書かれていませんでした。」


「・・・アリアがもし三歳でいなくなっていたら、私やルチルの魔を譲り受けてもらうことはできなかっただろうね。物語に出てこなかったというのは、臥せっていたからと考えれば自然か。」


 

 話の中で私があまり知らない宝剣士の軽い個人情報的なものを話した。現時点でサフィリスをはじめシトラインもルチルも小説とはかなり違う状況になっているけど、家族構成が大きく変わった人というのはサフィリス以外いないのはわかってる。


 そのあたりを混ぜて話したから、大公は百パーセント信じてるわけじゃなくても、信じざるを得ない部分があると思ってくれてるみたいだった。



 確かに大公が表舞台に出てこなかったのは魔の影響で、だからこそ来栖自身もどんな人なのか知らなかったんだと思う。



 

 でも、大事なのはそこじゃないんだよね。今は。





「そこに書かれていたこの国の未来は、魔王を討伐し平和に暮らしました、というものだったんですが、どうもそうはならないような気がするんです。」



「というと?」


「魔王を討伐、なんて出来るはずがないと思うんです・・・大公はどう思いますか?」





 私のその言葉に、長い沈黙が流れた。





続きは明後日23日のお昼にアップ予定です。

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