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死んでるはずの令嬢に転生したので、悪役令嬢として生贄になります  作者: 椿 柚柑
第二章 広がる

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28 君は一体

ジュピウム大公視点となります




 どうしてこんな事を知っていたんだろう。

 まるで未来を知っているみたいじゃないか。



 

 生贄の乙女であるアリアは幼少期から子供らしからぬ思考や言動がたびたび見られた。

 だからこそ彼女を高く買っていたし、だからこそ、彼女の命が十七歳の冬で散ることを苦しく思って来た。


 初めて会った時、彼女は二歳でまだたどたどしくしか喋ることが出来ず、賢い子供に見えたけれどそこまで私の心を縛り付ける部分はなかったと思う。

 だけれどたった一年で、彼女は別人になったかのように変わった。たった三歳の少女に私が抱いた気持ちは、絶対に誰にも知られてはいけないようなものだったと思う。



 誰にも言えないけれど、同じような気持ちも弟であり国王であるキュベルですら感じているのだと気付いた時はぞっとした。魔法省の大臣ギルベルトも、同じような感覚を抱いているように見えた。



 彼女はいったい何なんだろう。


 たった三歳、四歳で、女として大人の男を惹きつける何かを持っているのか、それとも宝剣を持つ私たちがおかしいのか。



 宝剣が、生贄を求めているとでもいうのだろうか。





 だが、宝剣を甥のルチルに譲り渡しても私の心はアリアに奪われたままだった。






 そんなアリアはキュベルの決めた通りに従って王都の屋敷からほとんど出ることなく八歳になった。領地のほうに行きたがると思っていたのだが、サフィリスが宝剣の儀式に慣れるまではなかなか王都を離れづらいことを言われずとも察したのか、どこかに行きたいと申請してくることはなかった。


 何度も屋敷に足を運び話をしたが、外に目が向いているような感覚を受けることはあっても、出かけたがっている様子は殆どなかったと思う。



 一日くらいでいける場所なら私がいつでも連れて行こうと思っていたのに、強請られることなく時間が過ぎていった。

 二十以上も年の離れた子供に何か強請られることを楽しみに待つなど、親でも親族でもない私がそれをするなど、どれくらいおかしな行為なのか、分かっているつもりでも期待してしまう自分が確かにいる。




 そうして初めて強請られたのはすぐに言って帰ってこられる距離ではなく、王都から三日ほど距離があるリーヴァーという領地だった。


 名前は知っていた。最近平民の中でも富裕層と呼ばれる者たちにかなり人気であり、貴族の中でも観光に訪れる者が増えてきた場所だ。

 魔法省管轄の訓練施設もある。ただの訓練施設ではなく魔法の研究開発にも力を注ぎ、女性貴族への魔法教育の新しい風にもなるのではないかと期待もされている。


 


 だが、言ってしまえばそれだけの場所だった。

 大公となったとはいえ元王族の自分が沢山の警備や護衛を引き連れていこうと思うような場所ではなかった。




 だからこそ、アリアが行きたいと言った理由を知りたくて、連れていくと言った後かなりの人材を割いて調べた。初めて遠出したいといった彼女の願いをかなえることに集中しすぎて、なぜそこに行きたいのかを疑問に思うことはその瞬間はなかったが、調べるほどに不思議だと感じた。


 雪が降る平地は珍しく、それを観光の目玉にするという領地経営は良いと思ったし、訓練施設の実質の管理者であり領主でもあるリーヴァー侯爵の人柄も好ましかった。少々人が良すぎる傾向にあったが、研究者としての才能も教育者としての熱意も感じられた。


 あとはリーヴァー侯爵の一人娘が領地ではかなり話題になる美少女であるということや、その娘が熱心に教会へ通い、孤児たちの支援に力を入れているということはわかった。






 ・・・それだけしか、私にはわからなかった。アリアの現状を鑑みて、わざわざ出かけて行ってその場所を知りたいと思う理由がない。

 まだ雪が降る時期であればわからなくはなかったが、降り積もるまでにはあと三か月ほどはかかる。彼女は今行きたいと言った。


 出立までの期間使える人材はすべて使ってもなお理由が分からなかった。




 初めての遠出、馬車での移動、アリアはずっと楽しそうにしていた。

 何か気がかりなことがあるようにも見えなかったし、むしろいつもよりはしゃいでいて年相応に見えた。

 サフィリスもシトラインもそれにつられ終始楽しそうにしていて、普段貴族としても宝剣士としても重たいものを抱えて子供らしい行動などあまり見せない彼らを眺めて、私もかなり心穏やかに過ごした。

 とても難しいが、次の機会があればルチルやベリルを連れて来てもいいかもしれないと思うくらいには楽しい旅行だった。





 アリアに、なぜ、と聞くまでは。





「・・・詳しくはまた後でお話しさせていただきますが、リーヴァー侯爵の執事をお調べください。」


 彼女は確かにそういった。



 執事。

 侯爵でもなく、執事?



 訓練施設に赴いたのはアリアに言われたからだったが、とてもよい視察となったのは間違いなかった。魔法省の重鎮たちがあまり乗り気ではないために施設の拡張等が進まないと聞いていたが、それでも王都では見たことのない研究設備が揃っていたし、研究者も訓練者もみな魔法に対して真摯に取り組んでいた。


 貴族たちの中では女性が学ぶことに対して嫌悪感を抱くものもまだ多い。それでも魔力が多く暴走してしまう子供のために最低限の知識教育と訓練だけはするように呼びかけても、それをしないで事故が起こることも未だにある。

 

 魔法省の中であっても女性の立場は低く身分以上に性別の壁があることも聞いていたし、そうなんだろうとみればわかる、そんな状況でもあった。



 だからこそ大臣となったギルベルトが改善に乗り出していることも知っていた。そしてそのための重要な場所としてこの施設を運用していることも、研究者として名高かったリーヴァー侯爵を施設長にしたことも、知っていたがそれ以上の収穫がここにあった。


 女性たちの表情を見るに、アリアがわざわざここに来たいと言っていた意味が分かったような気がした。

 確かに、ここは貴族女性に対する魔法教育の新しい風を吹かせるだけの力があると、そう思ってアリアを見れば。



 彼女の目線は訓練生たちでも、施設の充実度合いでもなく、侯爵を追っていた。




 熱心な人物で才能もある。人もいい。だが、それだけだ。特別美しい顔を持っているわけでもない、女性を惹きつけるような話題を振るわけでもなく、ただ真面目に、情熱的に魔法と施設のことを説明する人物を彼女はずっと見ていた。




 正直言えば嫉妬だった。



 だからこそ、八歳とはいえ未婚の女性と寝室で二人きりになるなどありえない行動をとってまでアリアを問い詰めた。


 理由が知りたかった。

 私よりあの男を見ていた理由を。






 それが、執事を調べろなどと訳の分からない答えを引き出すとは思えなかった。

 しかも、その理由は今は話せないという。




 おかしいと思いながらもあまりにもはっきりと執事を調べろと言った彼女の言葉を信じその通りに調べさせた。




 私専属の人材はあまり多くない。有能な隠密部隊を持つロバイト家には及ばないだろうが、今回は念のためと思い陛下の部隊を少し借りてきていた。調べさせるためというより護衛のためだったが。


 護衛として少し残し、あとは執事と施設について再度調べるように頼んだのが夕方。


 そして深夜、日付が変わった頃。たった数時間で驚くべきことが分かった。分かってしまった。





 まず、機密漏洩。

 侯爵が信頼し、屋敷内だけでなく施設の情報整理も執事に任せていた。

 その内容を漏洩していた。執事は詐欺集団の頭領であり、かつ、他国に雇われた間者だった。


 どこからどうつながって他国とやり取りし始めたのかはわからなかったが、ここ数年間ずっと魔法に関する機密情報を流していた。


 周辺諸国はこの国以上の魔法の能力も知識も技術も持っていない。封印による加護でこの国は魔法を誰でも使うことが出来るが、ほかの土地ではそうではないからだ。


 だからこそ、この国が鎖国となった現在開国を要求しても軍事力で攻め入ることをしてこない。この国は未知の強国に見えている。事実、魔法のみでいくらでも返り討ちに出来るが、その魔法に対する策を練られてしまえば苦戦することは間違いない。


 

 この国に友好的ではない意味で開国を迫っている帝国。そこが執事を雇い間者として働かせているということまでわかった。


 帝国は高い軍事力を持ちいくつかの国を属国として支配している。それでも食糧難に陥ったことがあり、豊かなこの国を狙っているのはわかり切っていたが、魔法に対しての知識に乏しく攻め入ることが難しいと考えているだろうと予想していたが、まさかすでに十数年前から動いていたとは迂闊だった。


 


 更に、施設の地下で行われている、人体実験。

 

 これもまた侯爵は関わっていない。




 侯爵は人材確保をすべて執事に任せていた。施設の掃除や厨房を任せたり、研究や訓練の補助などをさせていた。

 だが、執事が呼んでくる人材はすべて詐欺集団の人間だ。それだけで済むはずがなかった。



 それらの人材の私室が地下にある。このことは侯爵はもちろん知っている。だが、そこにいるのは下位貴族や平民たちで侯爵自身が関わることは少ない。そんな場所で行われているのは、魔法耐性のある人材を作る実験だった。



 侯爵の娘が通っている教会の孤児院から仕事を斡旋するといって何人か連れてきては実験し、魔法耐性をつける方法を研究していた。

 あの施設では耐性についても研究されていて、それを流用している。研究者の何人かは執事に声をかけられあちらについているようだった。



 耐性の研究はあまり注目されていない分野だ。

 基本的にこの国の人間であれば誰でもそれなりの耐性がある。耐性は魔法にかけられやすかったり、魔法攻撃をされた際耐えられるかどうか等だが、魔力の少ない人間は耐性も少なく、魔力暴走などに巻き込まれると酷い後遺症を負うことがある。家族の中で魔力差が大きい場合などに事故の規模が膨れ上がることがあるため研究が必要な分野ではあるのだが、新しい魔法の開発などに比べれば人気も注目もあまりされず苦しい思いをしていると推察された。


 だからこそ、執事たちの仲間に引き入れられてしまったのだろう。



 

 施設から魔力の低い子供を連れてきては、耐性をあげる実験をしている。

 それが成功したら・・・。





 背中にひやりとしたものを感じた気がした。

 




 許可を取り個別行動をしてそれらの確証を得て、教会に行ったアリアたちと合流した。

 アリアの顔を見れば少しふさいでいたが、私をみてにこりと笑った。



 きっと、私が調べたことなど、彼女はすでに知っていたのだろう。



 でも、なぜ。





 ロバイトの家の隠密部隊がアリアの命令で動いているとは考えられない。彼女は生贄で長子だが家を継ぐことはなく、隠密部隊について知らされてない可能性のほうが高い。

 だからこそ、彼女がこのことを知り得るわけがない。




 あの施設に行って気づいた、とも考えづらい。

 最初から侯爵を観察していたのはおそらく執事とつながりがあるかどうかを見極めていたのだろう。知っていてあそこに行きたがったのだ。



 でも、なぜ。














 それを聞く機会は王都に戻ってすぐだった。


 国王であるキュベルからアリアに詳細を話すように要請が出た。彼女は私にだけ話したいと言ったのでそれが通った形だ。


 どうしても私にだけ、と言われて心躍ったが、不思議だった。

 なぜ陛下に隠す必要があるのか。


 私が聞いたことを黙っているわけがない。陛下だけでなくロバイト当主にも宰相にも、魔法省大臣のギルベルトにも話はいくだろう。



 


 ただ、アリアの最初の一言で、あれこれ考えるだけ無駄だったと分かった。



「私は、前世の記憶があります。その前世でこの世界の未来について書かれた本を読んでいます。」






 アリア、君は一体、何なんだ?




次回は明後日21日のお昼にアップします。

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