27 隠されていること
リーヴァー侯爵の秘書→リーヴァー侯爵の執事に修正しました。話の流れは変わってません
半日ほどかけて訓練施設を案内してもらったが、デューを通じてみていたよりも実際のほうが熱気が伝わってきてかなり面白かった。
色々思惑とか下心があって来たんだけど、予想以上に楽しかった。
途中までは興奮してるシトラインをほほえましく見てたんだけど、終わった頃にはサフィリスと三人であれこれ感想を熱く言いあってしまった。
魔法省の中では、魔力コントロール力が低い人、いわゆる出来損ないが来る場所だと言われてたりするみたいだけど、それはここに来るだけの能力を持ってない人たちやここを面白く思わない人たちが揶揄してるだけ、って事だと思う。
シトラインの父であるギルベルトさんは魔法省の大臣、つまりトップなんだけど、ギルベルトさんはもっとこの施設に力を入れたほうが良いってずっと言ってるらしいけどなかなか賛同を得られないみたい。魔法省の中でも女に魔法を教える施設ははしたないってイメージがあるってシトラインは言ってた。
「父に聞いていた以上だった・・・!アリアに誘われたときは期待半分ってところだったけど本当に来てよかった。誘ってくれてありがとう」
お忍びなのでいつもと違う雰囲気の、少しだけ質素な服装をしているシトラインは可愛いキャスケットを被っていて、そこからのぞく顔はいつも以上に可愛かった。その笑顔に思わず胸がきゅんとした。
ぱっと見女の子が男装してるみたいな雰囲気で、私だけじゃなくシトラインも最初は女の子扱いされていた。
「確かに、簡潔で一人一人に合わせた指導や研究への熱意など、話に聞いていた以上のものだったな。」
大公もかなり満足そうにしてる。魔の影響から解放されて約五年、それまで王都から出ることもままならなかった大公は頻繁に王都の外に出向いては様々な場所を視察していて、王城内では陛下の目や手足の代わりと噂されてる。
実際そうするようになってから貧富の差やスラム、孤児問題などが少しずつ公になり解決に動き出している。
今まではそういう状況は隠していたらばれない、という動きもあって、領内に問題があっても中枢まで届かないことが多かった。
それを考えると魔を引き受けた時点でこの国の改善や国力増強に一役買ったと言えるかもしれない。
すでに訓練施設から離れ近くの宿に移動しているけれど、未だにみんな興奮冷めやらぬ感じで大公の部屋に護衛の人たちもみんなで集まってわいわい感想を話しあった。
侯爵からはディナーに誘われたけど、あまり人に会わないようにと言われているので断るしかなくとても残念だった。
できたらもっとあの人から話を聞きたい。
魔法のことも、ヒロインのことも、そしてどうしてこの人が騙されているのかというのも。
デューの下調べは基本的に誰にも見つからない監視カメラで映像と音声を記録してきて、私がそれを見る、という感じ。
私自身がその場にいて、見て聞いてきた、という感じがするんだけど、それを見ても信じられないくらいリーヴァー侯爵はがっつり騙されている。
詐欺団のトップはリーヴァー家に仕えている執事。かなり長く勤めているみたいだけど、最初からだますためにリーヴァー家に入り込んだみたい。
魔法省内部の機密情報や、魔法の研究や知識、古い文献なんかも他国にかなり流してしまっている。
傍から見れば侯爵の仕事を手伝っているだけにしか見えないけれど、言葉巧みに資料や情報を共有させてる。
この人が手伝うようになってから魔法省内部での評判が少しずつ上がってきているらしくて、侯爵はこの執事をかなり信用していて、訓練施設だけじゃなくて屋敷の人事なんかも殆ど任せっきりにしてる。
その結果、詐欺団の人間がかなり施設や屋敷内に入り込んでしまってるのが現状。
人は良さそうだし魔法バカと言っても差し支えないような人だったけれど、施設内を見た限りセキュリティや情報の取り扱い、研究結果の保護などかなり気を使っているように見えた。
そんな人が垂れ流すように機密を執事に漏らしてしまうって、いったい何が原因なんだろう。
デューに何度も探ってもらったけど、侯爵が脅されているとか、何か弱みを握られているとかそういうそぶりはなかった。
本当に信用してしゃべっちゃってる、って感じ。
妻子にも話してないから、身内に口が軽いってわけでもなさそう。
だからこそこのままだと、詐欺団に屋敷も施設も乗っ取られたりしてもおかしくないかもしれない。
執事が秘書のような働きをしていて執事以外の側近がいない現状、相談相手もいないし詐欺に気づいても訴える前に消されてしまいそう。
それに、もう一つ。あの施設の地下で・・・
「アリア、疲れたかい?」
気づいたらみんながこちらを見ていた。
ついぼんやり考えすぎて、会話に参加してなかった。
「大丈夫です・・・と言いたいところですけど少し疲れましたわね。あまりに楽しくてはしゃいでしまいました。」
「夕食まで少し時間がある、休んでおくといいよ。」
そう言って大公が私の手を取った。
先ほどまでいたのは大公の部屋にある大きな応接室のようなもので、その隣に私と、サフィリスと、シトラインの寝室とそれらとつながっている居間のような小さな部屋がある家族向けの部屋を借りている。
そちらに行くのかと思ったら。
「ここは使わない予定だから、ここで休んでいるといい。私たちはそのまま話しているから、食事の時間になったら起こすよ」
大公の借りている部屋は、寝室が三つに大きな応接室がある四部屋構成。今までいた応接室にくっついている寝室のうち一つを貸してくれるらしい。
確かに私たちの部屋のほうは今誰もいないから(デューが分身して監視しているけれど)何かあったら困る。
「ありがたく使わせていただきます。」
そう言って部屋のドアを開けてくれた大公に一礼し、通り過ぎようとしたとき。
「ああ、ちょっと部屋が暗いね。ここの電灯少し使い勝手が悪かったから私がやろう」
そう言って大公が私に続いて部屋に入ってきた。
「!」
「レディと二人きりになるのは良くないってことはわかってるけど少し許してくれるかな」
大公はそのままドアをそっと閉めた。完全にではないけれど、光が少し差し込むくらいしか開いていない。
「・・・何でしょう?」
「アリア、いったい何を調べていた?」
大公の目はとてもまっすぐだ。
何かからかおうとしているとか、ふざけているとか、そういう類のものではないとはっきり分かった。
「何、というのは。」
「誤魔化してもわかるよ、施設というより侯爵自身に酷く興味を持っているようだったからね。私もここに来る前に調べたけれど彼自身に特に問題視するようなものはなかったと思うんだが」
さすが鋭い。訓練施設について興味があると話したけど、侯爵自身に興味があるとか会って話したいとはあまり話さないようにしていたんだけど。
大公は虹シュバに出てこない人物だ。元宝剣士の中では陛下とパパ、つまりロバイト公爵は出てくるけれど、ほかの人たちはちらっと、くらい。でも大公はその存在を陛下やベリルの会話の中でギリギリ確認できるくらいで姿は出てこない。魔の影響で弱ったり動けなかったせいだと思う。
大公にはストーリーの影響が少ないんじゃないかな、と思ってた。だからこそ以前から大公に協力してもらおうかと考えてたんだけど、やっぱり話すべきかなと少し迷ってしまった。
そしてその小さな迷いを見抜かれた。
「黙ってることがあるんじゃない?」
これは逃げられないっぽい。
どちらを話す?
前の世界の、虹シュバのことか、それとも。
(デューの能力をばらすのは、分が悪いかな・・・といって虹シュバの話をするには時間が足りない)
「・・・詳しくはまた後でお話しさせていただきますが、リーヴァー侯爵の執事をお調べください。」
「理由は、今は話せないってことかな?」
「はい。説明しづらいことで、とても長くなります。」
デューの能力で見たことは虹シュバの中にあった、ということにしよう。そうすればデューのことをばらさず知らないはずのことを知っている理由に出来る。
まぁそれも信じてもらえたら、の話だけど。
「・・・わかったよ。あまり長居できないからね。調べておこう。」
「ありがとうございます。」
これで証拠が何か出れば、話したときに信じてもらえる確率が上がるだろうし。
少し納得しづらそうな顔をしていたけれど、大公はそれ以上私に話す気がないと分かると、少しつけづらそうにベッド際のランプを灯して、そして部屋から出ていった。
翌日。
教会に向かう途中の馬車で大公が「私はついていけない、少しだけ寄るところが出来てしまった」と言った。
きっと何か掴んだんだろう。さすが仕事が早い。
私たちにはわからないけれど、専属の影・・・隠密部隊が大公にはついていて、それらを使って調べていたのをデュー視点で確認してる。
機密漏洩ともう一つ、あの施設で行われてる違法ではないけれど人道的に許され難い行為まで発見してくれたらものすごく助かる。
大公と同行し続けるのが陛下からの命だったはずだけれど夜のうちに陛下に連絡を取って許可をもらっていたらしく、追加の護衛の人が教会近くで合流した。
昨日よりもさらに質素な格好をして、馬車も商人の人たちが使うようなシンプルな物に変えて大公と別れて教会に向かった。
「大公、どうしちゃったんだろうね」
シトラインがそういう。昨日は夜遅くまで魔法施設のことで大公とサフィリスと三人で盛り上がったらしい。私は結局夕方に借りた大公の部屋の寝室で寝て、サフィリスとシトラインでもう一部屋を使って、応接室で護衛の人たちは休むことにした。
私たちのほうの部屋は使わないままだったから、最初から一部屋でよかったじゃん、とケチ臭く思ってしまったけど、この世界では貴族がいっぱいお金を使って経済を回すのが奨励されてるからあれでよかったんだとも思う。
ただちょっと、もったいないなって気持ちになるけど。
「昨日もさ、アリアが寝た後に色々変な事聞かれたんだよね」
「変な事?」
「施設長の侯爵と話して気づいたことある?とか、変な魔力の流れ方とか感じなかった?とか」
「僕もシトラインも全然気づかなかったんですけど、大公は念のためだよって言ってて。何か怪しいことでもしてるんですかね?姉上はどうでしたか?」
「うーん、どうかしら。変な魔力の流れ方ってなにかしらね」
どうやら大公は機密漏洩以外のこともちゃんと気づいてくれたみたい。
調べられないようだったらヒントなりを出そうかと思っていたけれど必要なさそう。
「わかんないなぁ・・・あっちこっちで訓練してるから、いろんな魔力が混ざり合っててどれがおかしいって言われても判断つかないんだよね。」
シトラインはギルベルトさん以上に魔力の流れを察知できる。
触れた人の体の魔力の流れを察知すること以外に、空間の中の魔力の流れを感じ取ったり、魔法が使われた形跡をかなりさかのぼって調べることが出来る。
ただ、あの施設みたいにあちらこちらでたくさん使われていると、それらを詳しく調べるのは時間をかけないと難しいと思う。
「あ、姉上。教会に着きましたよ。」
ゆっくり馬車が止まった。教会にではなく近くの馬車留めを借りた。質素な格好をしている三人組がそこそこ一般向けの馬車とはいえ魔法装甲がしっかりかけられた馬車に乗っているのは、見る人が見れば怪しい。
ヒロインは魔法の才能があるはずなので、出来るだけプレッシャーを与えたくない。
ヒロインがたまに教会にきていることは知ってたけれど、シスターに話をしにいった護衛の人に聞いたらちょうど今日来る予定らしい。運がよかった。
タイミング的に今週のどこかで来るんだろうな、と思ってたけれど彼女はいつ教会に行くかかなり直前になってから決めるみたいで予想が付けられなかった。
(会えるなんてラッキーだわ。多分見たら、分かるはず)
あっちも私だと気づく可能性が高いから、昨日シトラインがかぶっていたキャスケットを借りた。
少し上質のものではあるけど私が用意していた帽子よりしっかり顔を隠せる。
教会に着くとちょうどヒロイン、ソフィア・リーヴァーがやってきて絵本を寄贈していた。
さらに読み聞かせもするということで、そっと後ろの席を借りて聞かせてもらう。
ソフィアは明らかに私たちに気づいたけれど、それは『おかしなお忍びの貴族』という感じで、敵視もしてなければ私の正体に気づいている様子もない。
ゲームの通りきれいなピンクベージュの髪。透き通ったエメラルドのような瞳。あまりの可愛さに人形が動いてしゃべっているのではと思った。
声は子どもらしく高く、可愛く響いた。拙いながらも一生懸命に読むその姿勢は好感が持てた。
私の知っている来栖のイメージとは、だいぶ違ったけど。
(間違いなくあれは、来栖だわ)
ふとした瞬間の体の動かし方、目線、笑ったとき首をかしげるその角度。
なんてことない動作の一つ一つに見覚えを感じた。
「姉上、読み聞かせに感動したんですか?」
小さな声でサフィリスが声をかけてくれた。
好感が持てるとはいえ感動するほどではなかったけれど、気づいたら私の頬は涙にぬれていた。
声が出なくて、にこりと笑って返した。
ここにいるということは
来栖もやっぱり、死んだってことなんだと思った。
そして私もやっぱり、日野瀬有亜ではなくなったんだと。
一日おきの昼に更新予定です(まだ書きあがってないので遅くなるかも!)→かけたので19日のお昼に!




